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第二章 お師匠様がやってきた
お師匠様、自炊の結論
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夕食は、昨日ミーシャおばさんに作ってもらったパイ生地の残りで、スモークサーモン入りのキッシュタルトにする予定だった。
だが、夕方近くになって帰ってきたトオンが興奮したように、
「カニ! カニが大漁だったんだって、今日明日はカニが安いから食べに行こう!」
と街中から情報を持ち帰ってきた。
中庭で卵の燻製を作っていたルシウスとアイシャは顔を見合わせた。
朝は機嫌が悪かったトオンだが、この様子だとそんなことは頭から吹っ飛んでいると見た。
そして頷き合う。
(余計なこと突っ込むのやめましょ)
(了解)
タルト型に焼成してしまったパイ生地は魔法樹脂に一度封入して、時間経過を止めておくことにした。
キッシュは明日以降にスライドだ。
ついにアイシャのステータスに調理スキルが発現した。
ルシウスがライム入りのビール瓶を掲げる。
トオンも同じビールを、アイシャはアルコール抜きのジンジャーエールの瓶を掲げた。
「アイシャの調理スキル獲得を祝ってー」
「「「乾杯」」」
というわけで、お祝いのため外に食べに出て来た三人である。
美味なものを食べたいだけならルシウスが作れば良いのだが、今日は海でカニが大漁だったとのことで、レストランや屋台でカニ料理が安い日なのだ。
いつも屋台で摘まむタコスも、今日ばかりはカニ祭り。
玉ねぎやトマトと一緒にオリーブオイルで炒めたカニ肉のタコスは最高だった。
最高にビールの進むやつだ。
広場の席に陣取って、あれこれカニ料理に舌鼓を打っていた。
「調理スキル獲得は喜ばしい。だがカーナ王国は外食でも安い。無理せず自分で調理せずとも、外へ食べに出ればいいのではないか?」
「ルシウスさんが身も蓋もないこと言った……」
トオンの本業の古書店の収入が少なくても、冒険者活動ができるなら問題ないはずだ。
むしろ、収入だけを見るなら冒険者活動メインで、古書店経営がサブのほうが経済力は安定する。
「この国の外食産業の感じなら、メインを外で買ってきて家でスープだけ作るとかだな」
その辺の屋台で食す、いわゆるファストフードの類でも野菜などは新鮮だし、それで充分ではなかろうか。
「家族が増えるまでは、ふたりきりで外食を楽しむのも良いと思うぞ?」
などと言われて、顔を見合わせた後で真っ赤になってしまったアイシャとトオンだ。
「そ、そういうのはまだ早いと思ってるの!」
「そうだよ、もうちょっとふたりだけの時間を楽しみたいというか!」
「……そうなの?」
「……うん」
見つめ合う恋人たちを、ルシウスはニヤニヤと笑いながら見守っている。
「私は夜の間だけでも、他に行ってようか?」
「「そういう気遣い不要です!」」
相変わらず息もピッタリなふたりだった。
だが、夕方近くになって帰ってきたトオンが興奮したように、
「カニ! カニが大漁だったんだって、今日明日はカニが安いから食べに行こう!」
と街中から情報を持ち帰ってきた。
中庭で卵の燻製を作っていたルシウスとアイシャは顔を見合わせた。
朝は機嫌が悪かったトオンだが、この様子だとそんなことは頭から吹っ飛んでいると見た。
そして頷き合う。
(余計なこと突っ込むのやめましょ)
(了解)
タルト型に焼成してしまったパイ生地は魔法樹脂に一度封入して、時間経過を止めておくことにした。
キッシュは明日以降にスライドだ。
ついにアイシャのステータスに調理スキルが発現した。
ルシウスがライム入りのビール瓶を掲げる。
トオンも同じビールを、アイシャはアルコール抜きのジンジャーエールの瓶を掲げた。
「アイシャの調理スキル獲得を祝ってー」
「「「乾杯」」」
というわけで、お祝いのため外に食べに出て来た三人である。
美味なものを食べたいだけならルシウスが作れば良いのだが、今日は海でカニが大漁だったとのことで、レストランや屋台でカニ料理が安い日なのだ。
いつも屋台で摘まむタコスも、今日ばかりはカニ祭り。
玉ねぎやトマトと一緒にオリーブオイルで炒めたカニ肉のタコスは最高だった。
最高にビールの進むやつだ。
広場の席に陣取って、あれこれカニ料理に舌鼓を打っていた。
「調理スキル獲得は喜ばしい。だがカーナ王国は外食でも安い。無理せず自分で調理せずとも、外へ食べに出ればいいのではないか?」
「ルシウスさんが身も蓋もないこと言った……」
トオンの本業の古書店の収入が少なくても、冒険者活動ができるなら問題ないはずだ。
むしろ、収入だけを見るなら冒険者活動メインで、古書店経営がサブのほうが経済力は安定する。
「この国の外食産業の感じなら、メインを外で買ってきて家でスープだけ作るとかだな」
その辺の屋台で食す、いわゆるファストフードの類でも野菜などは新鮮だし、それで充分ではなかろうか。
「家族が増えるまでは、ふたりきりで外食を楽しむのも良いと思うぞ?」
などと言われて、顔を見合わせた後で真っ赤になってしまったアイシャとトオンだ。
「そ、そういうのはまだ早いと思ってるの!」
「そうだよ、もうちょっとふたりだけの時間を楽しみたいというか!」
「……そうなの?」
「……うん」
見つめ合う恋人たちを、ルシウスはニヤニヤと笑いながら見守っている。
「私は夜の間だけでも、他に行ってようか?」
「「そういう気遣い不要です!」」
相変わらず息もピッタリなふたりだった。
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