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第二章 お師匠様がやってきた
お忍び貴族のスローライフ
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教会でのバザーの翌日から、トオンはアイシャと一緒にルシウスをご近所さんたちに紹介していくことにした。
トオンが昔から仲が良い、王都の南地区の商店や飲食店の人々が中心だ。
概ね好意的に受け入れられたのだが、辛口で知られるパン屋の出戻り娘、ミーシャおばさんだけはルシウスの麗しの美貌にも惑わされず、その存在に懐疑的だった。
ミーシャおばさんは、赤毛をいつもピチッと後頭部の高い位置でお団子にまとめた、目つきの鋭い四十代女性だ。
いつも赤いワンピースに白いエプロンを着けているから、遠くから見てもすぐ彼女だとわかる。
この国の成人女性にしては背が高く、痩せ型体型をしている。
それでいてパン屋のパン作りに慣れているから男顔負けの力持ち。
彼女のモスグリーンの瞳で睨みつけられると、大の男でも震えるような眼力の持ち主である。
性格は頑固でせっかち。口が達者で、ご近所さんたちに恐れられている。
トオンも子供の頃にやり込められて泣いた口だった。
「ちょっと、アイシャちゃんみたいな若い女の子がいるところに、こんな男入れて大丈夫なのトオン!?」
「あ、それは大丈夫だよ、ミーシャおばさん。この人、カズンの故郷での先生だったんだって」
「あら、そうなの? カズン君の……。なら平気ね」
何と、ルシウス本人の外見や人間性より、ご近所さんたちにも礼儀正しい好青年として知られていた、ごく短期間しかいなかったずのカズンの信用が勝った。
「弟子のカズンが世話になりました。私もしばらくここで厄介になるので、よろしくお願いします」
にこやかにルシウス本人が挨拶して、彼が故郷から持参していたキャンディーの瓶をひとつプレゼントして、ミッションクリアー。
一番の難関を乗り越えたと、帰り道、トオンは胸を撫で下ろしていた。
「ミーシャおばさんに話を通しておけば大丈夫。最大の試練は越えたー!」
イェーイ! とアイシャとトオンがハイタッチしている。
「彼女、なかなかの猛者と見た。あの眼光、只者じゃないな」
「ふふ。ミーシャおばさんは料理上手なのよ。パンもトルティーヤも名人だし、たまにお店で出してるお惣菜も絶品」
アイシャに指差しされたルシウスの手には、ミーシャおばさんから持たされたトルティーヤや惣菜の入った手提げの紙袋がある。
「おばさんが毎日、惣菜を販売してくれてたら良かったんだけどなあ」
「気が向くときしか作らないのよね。パンは毎日朝晩と焼いてるんだけど」
「ふむ、ご当地の料理自慢のご婦人なのだな。良いことを聞いた」
などとルシウスが言っていたかと思えば、彼はその後、ミーシャおばさんにカーナ王国の郷土料理を教えてもらえるよう頭を下げに行ったらしい。
確かにルシウスの麗しの美貌は、ご近所の女性たちの視線を釘付けにした。
ところが面白いことに、ルシウス本人は女性たちより、子供たちや年配の男性たちと仲良くなっていった。特にパン屋や八百屋、雑貨屋のオヤジさんたちとは顔を合わせるとよく世間話したり、軽く一杯飲みに行く仲になったのだ。
容貌はどう見ても庶民ではないし、庶民の普段着を着ても貴族っぽさはまるで隠せていないルシウスだ。
それでも、貴族と聞いて一般人が想像するような傲慢さは感じさせないし、朗らかに笑う男だったので、ご近所さんたちはあっという間にこの余所者への警戒を解いた。
いつの間にやら、「お忍びでやってきた他国のお貴族さんが、庶民の安宿でスローライフを楽しんでいる」とズバリの正解が知れ渡るまで、そう時間はかからなかったのである。
トオンが昔から仲が良い、王都の南地区の商店や飲食店の人々が中心だ。
概ね好意的に受け入れられたのだが、辛口で知られるパン屋の出戻り娘、ミーシャおばさんだけはルシウスの麗しの美貌にも惑わされず、その存在に懐疑的だった。
ミーシャおばさんは、赤毛をいつもピチッと後頭部の高い位置でお団子にまとめた、目つきの鋭い四十代女性だ。
いつも赤いワンピースに白いエプロンを着けているから、遠くから見てもすぐ彼女だとわかる。
この国の成人女性にしては背が高く、痩せ型体型をしている。
それでいてパン屋のパン作りに慣れているから男顔負けの力持ち。
彼女のモスグリーンの瞳で睨みつけられると、大の男でも震えるような眼力の持ち主である。
性格は頑固でせっかち。口が達者で、ご近所さんたちに恐れられている。
トオンも子供の頃にやり込められて泣いた口だった。
「ちょっと、アイシャちゃんみたいな若い女の子がいるところに、こんな男入れて大丈夫なのトオン!?」
「あ、それは大丈夫だよ、ミーシャおばさん。この人、カズンの故郷での先生だったんだって」
「あら、そうなの? カズン君の……。なら平気ね」
何と、ルシウス本人の外見や人間性より、ご近所さんたちにも礼儀正しい好青年として知られていた、ごく短期間しかいなかったずのカズンの信用が勝った。
「弟子のカズンが世話になりました。私もしばらくここで厄介になるので、よろしくお願いします」
にこやかにルシウス本人が挨拶して、彼が故郷から持参していたキャンディーの瓶をひとつプレゼントして、ミッションクリアー。
一番の難関を乗り越えたと、帰り道、トオンは胸を撫で下ろしていた。
「ミーシャおばさんに話を通しておけば大丈夫。最大の試練は越えたー!」
イェーイ! とアイシャとトオンがハイタッチしている。
「彼女、なかなかの猛者と見た。あの眼光、只者じゃないな」
「ふふ。ミーシャおばさんは料理上手なのよ。パンもトルティーヤも名人だし、たまにお店で出してるお惣菜も絶品」
アイシャに指差しされたルシウスの手には、ミーシャおばさんから持たされたトルティーヤや惣菜の入った手提げの紙袋がある。
「おばさんが毎日、惣菜を販売してくれてたら良かったんだけどなあ」
「気が向くときしか作らないのよね。パンは毎日朝晩と焼いてるんだけど」
「ふむ、ご当地の料理自慢のご婦人なのだな。良いことを聞いた」
などとルシウスが言っていたかと思えば、彼はその後、ミーシャおばさんにカーナ王国の郷土料理を教えてもらえるよう頭を下げに行ったらしい。
確かにルシウスの麗しの美貌は、ご近所の女性たちの視線を釘付けにした。
ところが面白いことに、ルシウス本人は女性たちより、子供たちや年配の男性たちと仲良くなっていった。特にパン屋や八百屋、雑貨屋のオヤジさんたちとは顔を合わせるとよく世間話したり、軽く一杯飲みに行く仲になったのだ。
容貌はどう見ても庶民ではないし、庶民の普段着を着ても貴族っぽさはまるで隠せていないルシウスだ。
それでも、貴族と聞いて一般人が想像するような傲慢さは感じさせないし、朗らかに笑う男だったので、ご近所さんたちはあっという間にこの余所者への警戒を解いた。
いつの間にやら、「お忍びでやってきた他国のお貴族さんが、庶民の安宿でスローライフを楽しんでいる」とズバリの正解が知れ渡るまで、そう時間はかからなかったのである。
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