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改正番;王宮編

13話,御茶会に参加させられたよう

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応接間に着く時点でレイナの体力は限界に近かった。
けれど兄と言えど王族と出会うのだ。レイナはシエンナから貰った水を飲みアルテイド呼吸を整えた後、息を止めて笑みを浮かべる。こうでもしないと表情が持たないからだ。扉をシエンナに開けさせレイナは部屋に入ると、そこには読んだら失神すると有名なホラー小説を読むアルフィーが座っていた。何て物を読んでんだ。もう表紙の絵柄からヤバくて、それを最後の言葉にレイナは心臓をも止める。そんな事に気付かずアルフィーはレイナを視界に映し甘く微笑んだ。
「レイ、急にすまない。手紙だけのやり取りだと少し味気ない気がしてね、会いに来た。相変わらず、レイは綺麗だな。宝石に見劣りしない美しさだ」
「………」
「レイ?」
まだ心臓が止まっているレイナは微笑んだまま固まっていた。目を細めている為見えにくいが、ハイライトの目はあの小説以上に恐ろしい。首を傾げ腰を浮かすアルフィーに、シエンナはレイナの背中の肉をつねった。レイナが前世の記憶が戻ったとか何とか騒いで変になる前の湯浴みの時見た物は、レイナの背中はうっすら肉があるくらいでかなり細かった。なのに今はその時より5mmは厚くなっている。あれから1ヶ月ちょっと経ったくらいなのに何故こんなに太っているのか。シエンナは信じられない物を見る目でレイナを見つめる。一方シエンナへの怒りがきっかけで心臓が活動を再開させ始めたレイナはハッとした様子でアルフィーに跪いていた。
「御機嫌麗しゅう、アルフィー王子殿下」
「あ、あぁ。座って」
「有り難き御言葉」
そう言ったレイナはアルフィーの向かいのソファーに腰掛けた。座ってから気付く、仮病の話は何処へ行ったと。
出された紅茶を毒味がてら飲み、レイナはアルフィーに微笑み掛けた。
「どのような御用件でいらっしゃったのでしょうか」
「レイに会いたくて」
王族は招待状という伝統を切り捨てるつもりなのか。
これまでの王族2人の突撃訪問にレイナは唖然とそう思う。そもそも招待状を寄越しておきながら会いたいと来るなんて、レイナが来るなんて信じていないという事となる。それが軽く胸に刺さりながらレイナはアルフィーを見て首を傾げた。
「招待状ならば今日届きましたが」
「待ちきれなくて。それに、招待状には書けない事もあるから」
「………?」
眉を寄せ首を傾げるレイナに、アルフィーは甘く微笑み掛ける。
「この御茶会、リアムも出席するよ」
「………、特に問題ありません。まだ返事は送らせておりませんが、御茶会には参加させて頂きます。御招き、感謝致します」
そう頭を下げるレイナに、アルフィーはソファーの肘掛けに頬杖を付いて見つめる。
「恨んでいないのかい?」
「何故?もう忘れました。それにわたしは、王女ですから」
「………、ならばこの間の行動は良く無かったな」
「………?」
笑顔を顔に張り付けたまま首を傾げるレイナに、アルフィーはいつもの甘い笑みで無く何かを思い出すようにふっと笑みを浮かべた。
「王族会議の時、レイは途中退出しただろう?あの時のローナの顔は傑作だったが、王女としてはあまり、ね」
「ローナ王子殿下はあの時ベールをしていらっしゃったのに、良く見えましたね」
流れるように話を反らしたレイナにアルフィーはクッと笑いを溢す。そしていつもの甘い笑顔を浮かべてアルフィーはレイナの話に乗ったのだった。
既に空はオレンジ色に染まっている。何か狙いがあるのかとアルフィーを警戒していたレイナだが、彼の行動は本当にレイナに会いたかった物ばかりだった。レイナはアルフィーが行きに乗ってきた馬車の前まで、彼を見送りに来ている。
「それじゃあまたね、レイ」
「御気を付けて」
そう笑みを浮かべて言うレイナにアルフィーは甘く笑んだ。するとレイナの首に腕を回し、彼女の額に口付ける。それは水が流れるような美しい動作で、レイナは笑みを消して呆然と笑むアルフィーを見つめた。シエンナはハッとし、レイナを守るべく慌ててレイナとアルフィーの間に押し入る。あの流れでレイナの首を絞められても、反応出来たのは間が空いてからだっただろう。顔を険しくさせるシエンナにアルフィーは肩をすくめ、笑顔でレイナに手を振ると馬車に乗って去っていった。
それからしばらく日が経ち、御茶会の日がやってきた。朝から布団に潜り仮病を使っていたレイナだが、御見舞いと御茶会をすっぽかして来たアルフィーと医者によりそれを暴かれる。流石に目上2人が参加する御茶会に行きたくなくて仮病を使ったなんて名言出来るはずも無く、今治った今治ったと白々しい態度で男を退出させ御茶会の為ドレスに着替えた。
「何故……、何故こんな事に……。わたしの完璧な計画がぁっ!」
「計画も何も、布団に潜って頭痛腹痛腰痛を訴える事以外何もしてないじゃないですか。それよりコルセット絞めますよ」
「無理無理無理無理アアァァァ!!!」
厚いはずの扉の向こうから聞こえる義妹の叫び声に、ふっとアルフィーは思わず笑みを溢す。彼の専属執事は初めて見るアルフィーの無邪気な笑いに目を瞬かせた。
アルフィーは普段使用人に話し掛ける時は、何を考えているか読み取れない笑顔を浮かべている。そしてレイナやメイジー等、好意がある者、好意があるように見せたい者には甘い笑み。後は無表情か苛立った評価くらいだ。一周回って気味が悪いと専属執事は思ったが、何かに勘づいたアルフィーに睨まれその言葉を飲み込む。
すると、レイナの自室の扉が開かれ、紺色のドレスを着た彼女が現れた。この前アルフィーと会った時の白いドレスより格段にサファイアが多く使われている。
「御待たせして申し訳ありません、アルフィー王子殿下」
「さっき叫び声が聞こえたけど大丈夫かい?」
「何の事でしょう?それより王子方を待たせているのでしたよね、参りましょう」
「ふっ、そうだね」
白々しいレイナにエスコートの手を差し伸べ、アルフィーは馬車が置かれている所へ向かった。王族が乗る馬車な為、他に比べて中はかなり快適だ、酔う事を省けばの話だが。乗って1分、既にレイナは酔っていた。馬車の中にはレイナとアルフィーしか乗っていない。護衛は馬車の周りに配置され、シエンナ等のメイドや執事は後ろから別の馬車に乗って来ている。アルフィーはレイナが酔っているのに気付きながらも、酔った事が無いのでその苦しみも分からず、王宮まで10分も掛からないだろうから大丈夫だろうと適当に結論付けた。
外の景色を見ればマシになると以前読んだ本に書いてあった覚えがある為、レイナは窓の外に視線を向ける。そして酔いが加速しグロッキーとなったレイナは今や真顔だった。気を失っていると言っても過言では無い、何れだけ酔いやすいんだよ。
王宮に着きレイナはシエンナから渡された激マズの酔いを抑える薬を飲んだ。逆の意味で気持ち悪くなったが水で喉の奥に流す。そしてアルフィーと共に御茶会が行われる庭まで向かった。
そこには淡々と御茶を飲むローナと、扇子で口元を隠しながら庭の花を見つめるリアムが座っていた。会話の気配は全く無い。アルフィーとレイナに気付いた2人は、気を取り直すように座り直した。レイナはローナの前に出てスカートの端を持ち上げて頭を垂れる。
「御機嫌麗しゅう、ローナ王子殿下」
「あぁ、座れ」
「有り難き御言葉」
そう言って頭を上げたレイナはアルフィーにエスコートされ席に座らせて貰う。そしてアルフィーはレイナの隣の席に座った。それに入れ代わるようにリアムは立ち上がり、扇子を閉じてレイナの前に出た。胸に手を当て頭を垂れる。
「御機嫌麗しゅう、姉上」
「どうぞ座って」
「有り難き御言葉」
そう言ってリアムが元の席に戻ると、アルフィーは口を開いた。
「こうして集まれる機会は少ない、兄弟水入らずで話そう。そういえば、リアム。この間16歳の誕生日を迎えたらしいね」
「………、えぇ」
黒と青の、何処か神秘的な扇子を広げリアムはアルフィーにそう返す。彼の誕生日は6ヶ月前だ、それを話題にするなんて忘れてたと言っているのと同じだろう。そんな会話に耳を傾けながら抹茶モンブランを食べていたレイナは、甘過ぎず苦味もないそれに満足していた。
「美味しいですね、このモンブラン。これはシェフが作った物ですか?」
誰が用意した物か分からず虚無を見つめて首を傾げるレイナに返答したのはローナだった。
「いや、それは私がウィンドリス王国へ出向いた時買った物だ。腐りにくい素材を使っているらしく、土産に人気らしい。まだ余っているが、持って帰るか?」
「そうなのですね。それではぜh……」
是非御願いします。そう言おうとしたレイナはシエンナの絶対零度な視線に撃ち抜かれた。カタカタと震えながら、命を守る為に必死で口を動かす。
「ぜ、ぜ、是非、御願いしますと言いたい所ですが、わたくし最近甘い物を控えている為、御断りさせて頂きます。申し訳ありません」
「そうか」
少し残念そうな声音でそう返したローナにレイナはぶんぶんと頷く。そしてシエンナの視線はいつもの薄情な視線に戻っていった。安堵したレイナはふと、先程の会話に疑問を抱いた。
というか、ローナ王子殿下っていつの間に他国行ってたんだろ。
兄弟水入らずとは果たして何か。そう思わせる御茶会はまだまだ続いていく。
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