桜と椿

星野恵

文字の大きさ
上 下
6 / 23
百花繚乱

「椿」六

しおりを挟む
「…なあ、その鎖、解いてあげようか?縛られたのって昨日の今日じゃないんだろ?」
自分でもなんでこんなことを口走ったのかがわからない。
けど、僕も、目の前に鎖で縛られた奴がいるのに、それを見捨てるほど鬼ではない。

だけど、彼は一言、
「…放っといてくれ」
それだけ呟いた。

「…鎖を解かれるのが嫌なのか?」
「…嫌と言えば嘘になる。何年も繋がれたままだから、解放されたいという気持ちも確かにある。でも、結構だ、放っといてくれ」
「…どういう事情があってあなたがここにいるのかは知らないけど、解放されたいのなら自分の気持ちに素直になればいいだろ。それにこうやってあなたと会ったのも何かの縁だ。
だから、この縁に甘えておけばいいだろ」


僕は、彼の煮え切らない態度にややイラッとして、普段の自分だったら考えられないようなことを口走ってしまった。

だけど、そんなことを言ったのに、彼から怒ってる様子は見られなかった。
それどころか、口を開けてこちらを見て、驚いたような様子を見せていた。

「はっ、わかった、いいよ。お言葉に甘えてお願いしよう。鎖を解いて頂こう、解けるものならば」
しおりを挟む

処理中です...