summer summer!

たがわリウ

文字の大きさ
上 下
19 / 20
番外編

19

しおりを挟む
「ドバイ行かない?」

現実味のない言葉に、一瞬呆気に取られた。

「……面白いな」
「え? あ、冗談じゃないよ」

冗談じゃない。ということは、本気で訊いているのか。そうは思ってもやっぱり現実味はなくて、行くとも行かないとも言えなかった。

「あ、ごめん、休憩終わるみたい。また連絡するね」
「あぁ、頑張れ」

数秒経つと、通話終了の音が鳴る。それを聞きながら、俺の頭からはドバイという短くも強烈な言葉が離れなかった。



ブブ、と震えたスマートフォンがメッセージを知らせる。箸で唐揚げを口に運ぶとアプリを開いた。

「は?」

表示された写真に呆気に取られ、思わず箸を置く。混んでいる食堂で、俺だけが目を点にしていた。
写真をもっとよく見ようと目を凝らした瞬間、またスマートフォンが震える。画面から写真が消え、よく知る名前が表示された。
急いで唐揚げを咀嚼し飲み込むと、スマートフォンを耳に当てる。

「もしもし?」
「おはよう、成海くん……ってそっちはお昼か。いま送った写真見た?」
「見たけど、ほんとに冗談じゃなかったんだな……」
「うん、母さんと楽しんでるよ。今度は成海くんも一緒に行こうね」

明から送られてきた写真は、砂漠で母親と楽しげに笑っているものだった。
ドバイといえば洋画やアーティストのMVでしか見たことがないため、写真を見てもまだ理解しきれていない。

「お土産何がいい?」
「え、うーん……じゃあ、ラクダ」
「え? そんなの連れてたら税関通れないよ」
「……飛行機で連れ帰る気かよ」

ラクダと言った俺にすぐに笑い声が返ってくると思っていた。しかし返ってきたのは正論で、俺の方が困惑する。
ラクダを連れて空港に居る明を想像し、俺は堪えきれずにふきだしてしまった。電話の向こうで少し面白くなさそうな声がする。



「これは免税店で見つけて買っちゃった。俺も自分用に買ったからお揃いだよ」
「さんきゅ。……でも高そうだな」

広いとは言えない部屋にたくさんの紙袋が並べられている。大きなトランクから次から次に俺へのお土産が出てきた。
明が持っている高級ブランドのシャツの他に、ドバイで買ったナッツ類、チョコレート、そして明が住んでいる地域の菓子まである。
金額を考えると少し恐ろしくなったけど、笑顔で袋を開けていく明に、何も言えなかった。

「あとは……あ、そうだ、頼まれてたラクダ!」
「え?」

今日一番の笑顔で、明は何かを取り出す。袋から出てきたのは、手のひらサイズの置物だった。

「残念ながら本物じゃないけど、可愛いよね」
「ほんとに買ってきてくれたのか」

白い陶器のラクダがテーブルに置かれる。味がある穏やかな顔を明の指が撫でた。なんだか気持ち良さそうにくつろいでいるように見えてくる。

「これで全部かな。……ごめん、いっぱい買いすぎちゃった」
「いや、嬉しいよ。でもまぁ、次からはこんなにいいからな。俺は明と会えるだけで嬉しいし」

部屋を見渡してさすがに多すぎると気づいたのか、明から笑顔が消え、しょんぼりと肩が落ちる。恋人に喜んで欲しい気持ちもわかるから、苦笑しつつ明の頭をくしゃりと撫でた。

「じゃあまずはチョコ食おう。あ、せっかくだしこの茶葉も使ってみるか」

ドバイ土産の紅茶を手に取る。鮮やかなパッケージには見慣れない文字が書かれていて海外を感じた。
お湯を沸かすため立ち上がろうとする。しかし明に手首を握られ、何故か阻止された。

「まって成海くん」
「あ、コーヒーのほうがいいか?」
「ううん、そうじゃなくて……その前に、キスしたい」
「え……っ、ん」

俺の唇にかぶりつく明によって呼吸が奪われる。突然で驚いたけど、すぐに喜びが俺を満たした。
後頭部には手が置かれ、体を離すことは出来なくなる。そばにいてと伝えるキスに、胸が甘く疼いた。
どんどん激しさを増していくキス。生ぬるい舌に口内をめちゃくちゃにされながら、俺は背を床につけた。
少しだけ唇が離れ、荒い呼吸を繰り返す俺に、明は熱い視線を向ける。切なげな顔で見下ろされ、唾を飲み込んだ。期待が強くなっていく。

「チョコより先に、いいかな?」
「……うん」

ゆっくりと二の腕を撫で付ける明に、俺は頷きを返す。ぼんやりと力が入らないまま、俺も明を求め体を熱くした。
艶やかに舌なめずりをした明が、テーブルのラクダを後ろに向かせる。それを合図に、またふたりの体が重なった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

俺とあいつの、近くて遠い距離

ちとせ。
BL
「俺、お前が好きだ」――― 高三の夏のあの告白さえなければ、俺とあいつは今でも親友だったはずだ。どんなに悔やんでも、時間はもう巻き戻らない。どんなに願っても、俺とあいつの間にできてしまった距離はもう埋められない。だって俺も男であいつも男。俺はゲイだけど、あいつはそうじゃないのだから。フェロモンだだ漏れで女にモテまくりなイケメンノンケ大学生×一途で意地っ張りで本人自覚なしのノンケキラーなゲイ大学生。受け視点のお話。※本編、本編の裏話(攻め視点)とも完結しました。続編も予定していますが、一旦完結表示にさせていただきます。※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末

すもも
BL
学校一のイケメン王子こと向坂秀星は俺のことが好きらしい。なんでそう思うかって、現在進行形で告白されているからだ。 「柿谷のこと好きだから、付き合ってほしいんだけど」 そうか、向坂は俺のことが好きなのか。 なら俺も、向坂のことを好きになってみたいと思った。 外面のいい腹黒?美形×無表情口下手平凡←誠実で一途な年下 罰ゲームの告白を本気にした受けと、自分の気持ちに素直になれない攻めとの長く不毛な恋のお話です。 ハッピーエンドで最終的には溺愛になります。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...