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第129話 ウェイクアップ作戦 後編
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浜辺の奥、小高い丘になっている場所では、ドイツ陸軍が即席の要塞を建設していた。今回のような上陸作戦を見越しての建築物だろう。そしてその即席要塞には、歩兵、機関銃、野戦砲がびっちりと存在していた。
この場所に要塞を構えているということは、場所的に有利ということである。
そこに向かうのは、正面の浜辺から上陸してきた連合国陸軍部隊と、後方から接近してきている空挺部隊だ。
「あそこにドイツ軍が集まっているというが……。土嚢を積んだだけの要塞か……」
「だが、あれでも十分脅威だぞ。機銃や野砲があれば、なおのことだ」
「どう進んだもんかな……」
茂みに隠れ、様子を伺うアメリカ陸軍の部隊。空挺師団もすでに作戦行動に入っており、空で待機している部隊はいない。
それに、即席とはいえ要塞が鎮座しているのである。防衛には力を入れているだろう。それを崩すのは容易ではない。
「せめて歩兵砲があれば、正面突破が出来るだろうに……」
上陸部隊には、そのような上陸させにくい兵器は持っていない。あるとすれば、分解して持ってきた中口径の迫撃砲である。
「これであの仮設要塞を何とか出来るとは思えないが……」
「使わないよりはマシでしょう」
「いや、待ってください。むやみに攻撃して反撃でも食らったら、それこそひとたまりもないすよ」
「そうです。それに弾数も限られています。効果的な攻撃は出来ない可能性もありますよ」
「だが攻撃しなかったら、我々は敵の機関銃でひき肉にされることになるだろう。ならば、こちらから攻撃したほうがいい」
これにより、迫撃砲を使った即席要塞の攻略が行われることになる。使うのは八一ミリ迫撃砲。弾数は一大隊につき十三発のみである。
「クソ重いコイツをえっちらおっちら運んできて、使う時は一瞬でなくなっちまう。まるで真夏に食うアイスクリームみたいだな」
「それでも、あったほうが安心だろうよ」
「そうだな。コイツはこの大隊にとっての拳銃みたいなものだしな」
そういって、いそいそと射撃準備を整える。
「こちら迫撃砲小隊、迫撃準備完了。それに付随して、機関銃小隊も準備完了」
『了解した。合図あるまで待て』
周辺にいた別の迫撃砲小隊も、次々と準備を整える。
『全部隊、攻撃準備完了の報告を受けた。〇五四三より砲撃開始せよ』
攻撃時間が指定された上で、攻撃命令が出る。時間を確認してみれば、残り二分を切っていた。
「砲撃準備用意」
「照準よし」
「砲弾よし」
「次弾よし」
「攻撃開始まで、あと一分……」
小さな懐中時計を見て、攻撃のタイミングを伺う。地面に刺さった迫撃砲の砲口には、すでに一発目の砲弾がセットされていた
「五秒前、三、二、一、攻撃開始!」
「一発目!」
砲弾が砲身の中に入り、直後発射される。腹に響くタイプの砲撃音が鳴る。それがあちこちから聞こえ、一斉に攻撃されていることを理解させるだろう。
「次弾!」
「二発目!」
すぐに次の砲弾が装填・発射される。それと同時に、照準をしている兵士が逐次砲の向きをミリ単位で移動させ、砲撃場所の修正を行っていく。
「三発目! 四発目! 五発目!」
テンポよく砲弾が撃ち込まれる。そして放物線を描いた一発目の砲弾が、即席要塞へと着弾する。
暗くてよく見えないが、迫撃砲の砲弾はどうやら表面で爆発しているようだ。
「十発目! 十一発目! 十二発目! 十三発目!」
「射撃終了! 迫撃砲を撤収させろ!」
地面に突き刺さっている迫撃砲を、照準していた兵士と給弾していた兵士が掘り起こす。
その後ろで、小隊長が即席要塞の様子を見る。
「着弾しているように見えるが……」
よく目を凝らして見ようとした時だった。
小隊長の左肩が破裂した。
直後、パパパパと機銃掃射の音が鳴り響く。
「小隊長ー!」
「クソッたれ! 敵は健在かよ!」
上陸部隊は地面に伏せて、射線から逃れようとする。あるいはその場から走り、射線の届かない場所を探そうとするだろう。
さらに、要塞のほうから爆発に似た何かが聞こえてくる。すると、近くの地面が爆音と共に抉れるだろう。
「あいつら野砲を直射で撃ってきやがる!」
「撤退! 撤退ー!」
そんな時であった。
白んでいた地平線から、太陽が顔を出す。それと同時に響いてくるエンジン音。
イギリス海軍航空隊所属のソードフィッシュの編隊である。
『目標を目視で確認。諸君、ドイツ兵にモーニングの五〇〇ポンド爆弾をお届けしよう』
そういってソードフィッシュは、降下しつつ爆弾を投下していく。
太陽が出ている今なら分かるが、即席要塞の上部はコンクリートで出来ていた。それもかなり分厚いようである。迫撃砲が効かなかったのも無理ないだろう。
しかし、ソードフィッシュから投下された爆弾数発には耐えることが出来なかった。爆弾はコンクリートを粉砕し、要塞の鉄壁さを崩す。
それを確認した上陸部隊の歩兵は、一斉に要塞へと襲い掛かった。
そんな光景が、コタンタン半島のあちこちで垣間見られる。
こうして沿岸部を確保した連合国軍は、橋頭保をいくつも確保することに成功した。これから西部戦線が復活し、本格的な戦争の再開が発生するだろう。
この場所に要塞を構えているということは、場所的に有利ということである。
そこに向かうのは、正面の浜辺から上陸してきた連合国陸軍部隊と、後方から接近してきている空挺部隊だ。
「あそこにドイツ軍が集まっているというが……。土嚢を積んだだけの要塞か……」
「だが、あれでも十分脅威だぞ。機銃や野砲があれば、なおのことだ」
「どう進んだもんかな……」
茂みに隠れ、様子を伺うアメリカ陸軍の部隊。空挺師団もすでに作戦行動に入っており、空で待機している部隊はいない。
それに、即席とはいえ要塞が鎮座しているのである。防衛には力を入れているだろう。それを崩すのは容易ではない。
「せめて歩兵砲があれば、正面突破が出来るだろうに……」
上陸部隊には、そのような上陸させにくい兵器は持っていない。あるとすれば、分解して持ってきた中口径の迫撃砲である。
「これであの仮設要塞を何とか出来るとは思えないが……」
「使わないよりはマシでしょう」
「いや、待ってください。むやみに攻撃して反撃でも食らったら、それこそひとたまりもないすよ」
「そうです。それに弾数も限られています。効果的な攻撃は出来ない可能性もありますよ」
「だが攻撃しなかったら、我々は敵の機関銃でひき肉にされることになるだろう。ならば、こちらから攻撃したほうがいい」
これにより、迫撃砲を使った即席要塞の攻略が行われることになる。使うのは八一ミリ迫撃砲。弾数は一大隊につき十三発のみである。
「クソ重いコイツをえっちらおっちら運んできて、使う時は一瞬でなくなっちまう。まるで真夏に食うアイスクリームみたいだな」
「それでも、あったほうが安心だろうよ」
「そうだな。コイツはこの大隊にとっての拳銃みたいなものだしな」
そういって、いそいそと射撃準備を整える。
「こちら迫撃砲小隊、迫撃準備完了。それに付随して、機関銃小隊も準備完了」
『了解した。合図あるまで待て』
周辺にいた別の迫撃砲小隊も、次々と準備を整える。
『全部隊、攻撃準備完了の報告を受けた。〇五四三より砲撃開始せよ』
攻撃時間が指定された上で、攻撃命令が出る。時間を確認してみれば、残り二分を切っていた。
「砲撃準備用意」
「照準よし」
「砲弾よし」
「次弾よし」
「攻撃開始まで、あと一分……」
小さな懐中時計を見て、攻撃のタイミングを伺う。地面に刺さった迫撃砲の砲口には、すでに一発目の砲弾がセットされていた
「五秒前、三、二、一、攻撃開始!」
「一発目!」
砲弾が砲身の中に入り、直後発射される。腹に響くタイプの砲撃音が鳴る。それがあちこちから聞こえ、一斉に攻撃されていることを理解させるだろう。
「次弾!」
「二発目!」
すぐに次の砲弾が装填・発射される。それと同時に、照準をしている兵士が逐次砲の向きをミリ単位で移動させ、砲撃場所の修正を行っていく。
「三発目! 四発目! 五発目!」
テンポよく砲弾が撃ち込まれる。そして放物線を描いた一発目の砲弾が、即席要塞へと着弾する。
暗くてよく見えないが、迫撃砲の砲弾はどうやら表面で爆発しているようだ。
「十発目! 十一発目! 十二発目! 十三発目!」
「射撃終了! 迫撃砲を撤収させろ!」
地面に突き刺さっている迫撃砲を、照準していた兵士と給弾していた兵士が掘り起こす。
その後ろで、小隊長が即席要塞の様子を見る。
「着弾しているように見えるが……」
よく目を凝らして見ようとした時だった。
小隊長の左肩が破裂した。
直後、パパパパと機銃掃射の音が鳴り響く。
「小隊長ー!」
「クソッたれ! 敵は健在かよ!」
上陸部隊は地面に伏せて、射線から逃れようとする。あるいはその場から走り、射線の届かない場所を探そうとするだろう。
さらに、要塞のほうから爆発に似た何かが聞こえてくる。すると、近くの地面が爆音と共に抉れるだろう。
「あいつら野砲を直射で撃ってきやがる!」
「撤退! 撤退ー!」
そんな時であった。
白んでいた地平線から、太陽が顔を出す。それと同時に響いてくるエンジン音。
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そういってソードフィッシュは、降下しつつ爆弾を投下していく。
太陽が出ている今なら分かるが、即席要塞の上部はコンクリートで出来ていた。それもかなり分厚いようである。迫撃砲が効かなかったのも無理ないだろう。
しかし、ソードフィッシュから投下された爆弾数発には耐えることが出来なかった。爆弾はコンクリートを粉砕し、要塞の鉄壁さを崩す。
それを確認した上陸部隊の歩兵は、一斉に要塞へと襲い掛かった。
そんな光景が、コタンタン半島のあちこちで垣間見られる。
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