108 / 149
第108話 Qシップ
しおりを挟む
商船のマストに、ユニオンジャックが翻る。
今回のQシップは、五インチ砲を船首側に一門、簡易型魚雷発射管を船尾側に一基装備している。さらにこの魚雷発射管は、偽装と防御面の関係から一本のみを装備しているという、非常に稀な装備品だ。
「潜水艦でもないのに、Qシップが出てくるとはな。我々に勝てるとでも思っているのか?」
ヴェルマー少将が、双眼鏡を覗きながら言う。
「我々も舐められたものだな。ざっと見十数隻程度しかいないQシップに、手こずるはずもないだろう。敵は駆逐艦クラスの砲を一門しか持っていないはず。たかが一門の砲で何が出来ようか」
ヴェルマー少将は、士官に指示を出す。
「全艦、砲撃用意。駆逐艦も容赦しなくていい。敵は非装甲だからな」
距離は十キロメートルもない。駆逐艦の主砲でも当たる距離だ。プリンツ・オイゲンの高角砲も照準を定める。
「射撃開始!」
バイルシュタイン艦隊の全力射撃が始まった。砲弾は水平よりやや上向きに発射され、Qシップ目掛けて飛んでいく。
初弾でティルピッツの砲弾が、Qシップに直撃する。非装甲であるため、砲弾が船体内部で爆発せずにそのままぶち抜いていく過貫通が発生した。こうなると徹甲弾を使用する意味はなくなるが、船体に開いた穴から大量の海水が流入するだろう。こうしてあっという間に、一隻のQシップが海の底に沈んでいく。
「初弾でやられたか……。ユニオンジャックは掲げたか?」
「全艦問題なく」
「では反撃に移ろう。我々には勝利しか許されないのだ」
攻撃命令が下ったことで、Qシップ船団は主砲をバイルシュタイン艦隊に向ける。
そして射撃を開始した。だが、いくら簡易版の測距儀と射撃指揮装置を使用していても、砲弾が命中しなければ意味がない。本物の商船を改造している船もあり、精度が低い砲撃になってしまう。散布界の大きい砲撃となり、かなりの着弾のバラツキが見られるだろう。
「ふん。あんな砲撃でこちらに命中すると思っているのが癪に障る。次弾装填次第順次発射せよ」
ビスマルク級戦艦の主砲は装填に時間がかかるが、Z5型駆逐艦の主砲なら一分間に最大で十八発発射できる。その物量によって、Qシップは次々と砲弾を食らっていく。
「これ以上まともにやり合うのは無理だ。全艦取り舵一杯! 艦尾の魚雷発射準備!」
ここに来て、魚雷の出番がやってきた。今残っているQシップは六隻。おおよそ駆逐艦の一斉射分か。
排水量が少ないため、Qシップの回頭は素早い。ものの数分で回頭完了した。
Qシップ全艦がバイルシュタイン艦隊に対して後ろを見せる。バイルシュタイン艦隊は、この機を逃さない。
「今だ! 背を向けている間がチャンスだぞ!」
バイルシュタイン艦隊からの攻撃が激しくなる。
それでもQシップ船団は冷静であった。
「各個照準。魚雷発射」
こうして六本の魚雷がそれぞれ航跡を描いて、バイルシュタイン艦隊へと進んでいく。
「敵からの魚雷が接近中です」
「被弾しそうか?」
「いえ、少し舵を切るだけで回避できます」
「それなら回避だ。無駄な被弾は避けるべきだからな」
そういってバイルシュタイン艦隊は易々と魚雷を回避する。そしてQシップ船団に攻撃を続ける。
戦闘開始から二時間弱。Qシップ船団は残り二隻になっていた。その他のQシップは全て沈められたのである。
「もはやここまでか……」
「司令官……」
回避行動を取るものの、駆逐艦空の攻撃が激しい。至近弾でも、商船にとっては致命的だ。
その時、司令官が座乗している艦に砲弾が命中する。艦自体が大きく揺れ、司令官は体を壁に強く打ち付けられた。
「司令官、大丈夫ですか!?」
「私のことはいい! 我々の任務は、敵を引き付けることにある!」
司令官はある通信を待っていた。味方からの通信を。
「司令官! 電文入りました! 『我らスカパ・フローの亡霊なり』!」
「ついに来たか……!」
北の空から、点々とした物体が接近しつつある。
ソードフィッシュだ。
「敵艦隊を発見! これより雷撃を敢行する!」
護衛空母の搭載機だ。機体の下には魚雷を装備している。
さらに報せが入る。
「ウォースパイトからも電文です! 戦艦三隻が戦線に合流するようです!」
昨日戦闘を行ったイギリス哨戒艦隊、戦艦打撃群が登場である。
「先ほどは遅れを取ったが、今が挽回の時だ。大英帝国海軍の実力というものを見せてやろう」
ヘミルガン中将が意気込みのように語る。
北と南から挟み撃ちにされたバイルシュタイン艦隊。この状況を切り抜けられるのか。
今回のQシップは、五インチ砲を船首側に一門、簡易型魚雷発射管を船尾側に一基装備している。さらにこの魚雷発射管は、偽装と防御面の関係から一本のみを装備しているという、非常に稀な装備品だ。
「潜水艦でもないのに、Qシップが出てくるとはな。我々に勝てるとでも思っているのか?」
ヴェルマー少将が、双眼鏡を覗きながら言う。
「我々も舐められたものだな。ざっと見十数隻程度しかいないQシップに、手こずるはずもないだろう。敵は駆逐艦クラスの砲を一門しか持っていないはず。たかが一門の砲で何が出来ようか」
ヴェルマー少将は、士官に指示を出す。
「全艦、砲撃用意。駆逐艦も容赦しなくていい。敵は非装甲だからな」
距離は十キロメートルもない。駆逐艦の主砲でも当たる距離だ。プリンツ・オイゲンの高角砲も照準を定める。
「射撃開始!」
バイルシュタイン艦隊の全力射撃が始まった。砲弾は水平よりやや上向きに発射され、Qシップ目掛けて飛んでいく。
初弾でティルピッツの砲弾が、Qシップに直撃する。非装甲であるため、砲弾が船体内部で爆発せずにそのままぶち抜いていく過貫通が発生した。こうなると徹甲弾を使用する意味はなくなるが、船体に開いた穴から大量の海水が流入するだろう。こうしてあっという間に、一隻のQシップが海の底に沈んでいく。
「初弾でやられたか……。ユニオンジャックは掲げたか?」
「全艦問題なく」
「では反撃に移ろう。我々には勝利しか許されないのだ」
攻撃命令が下ったことで、Qシップ船団は主砲をバイルシュタイン艦隊に向ける。
そして射撃を開始した。だが、いくら簡易版の測距儀と射撃指揮装置を使用していても、砲弾が命中しなければ意味がない。本物の商船を改造している船もあり、精度が低い砲撃になってしまう。散布界の大きい砲撃となり、かなりの着弾のバラツキが見られるだろう。
「ふん。あんな砲撃でこちらに命中すると思っているのが癪に障る。次弾装填次第順次発射せよ」
ビスマルク級戦艦の主砲は装填に時間がかかるが、Z5型駆逐艦の主砲なら一分間に最大で十八発発射できる。その物量によって、Qシップは次々と砲弾を食らっていく。
「これ以上まともにやり合うのは無理だ。全艦取り舵一杯! 艦尾の魚雷発射準備!」
ここに来て、魚雷の出番がやってきた。今残っているQシップは六隻。おおよそ駆逐艦の一斉射分か。
排水量が少ないため、Qシップの回頭は素早い。ものの数分で回頭完了した。
Qシップ全艦がバイルシュタイン艦隊に対して後ろを見せる。バイルシュタイン艦隊は、この機を逃さない。
「今だ! 背を向けている間がチャンスだぞ!」
バイルシュタイン艦隊からの攻撃が激しくなる。
それでもQシップ船団は冷静であった。
「各個照準。魚雷発射」
こうして六本の魚雷がそれぞれ航跡を描いて、バイルシュタイン艦隊へと進んでいく。
「敵からの魚雷が接近中です」
「被弾しそうか?」
「いえ、少し舵を切るだけで回避できます」
「それなら回避だ。無駄な被弾は避けるべきだからな」
そういってバイルシュタイン艦隊は易々と魚雷を回避する。そしてQシップ船団に攻撃を続ける。
戦闘開始から二時間弱。Qシップ船団は残り二隻になっていた。その他のQシップは全て沈められたのである。
「もはやここまでか……」
「司令官……」
回避行動を取るものの、駆逐艦空の攻撃が激しい。至近弾でも、商船にとっては致命的だ。
その時、司令官が座乗している艦に砲弾が命中する。艦自体が大きく揺れ、司令官は体を壁に強く打ち付けられた。
「司令官、大丈夫ですか!?」
「私のことはいい! 我々の任務は、敵を引き付けることにある!」
司令官はある通信を待っていた。味方からの通信を。
「司令官! 電文入りました! 『我らスカパ・フローの亡霊なり』!」
「ついに来たか……!」
北の空から、点々とした物体が接近しつつある。
ソードフィッシュだ。
「敵艦隊を発見! これより雷撃を敢行する!」
護衛空母の搭載機だ。機体の下には魚雷を装備している。
さらに報せが入る。
「ウォースパイトからも電文です! 戦艦三隻が戦線に合流するようです!」
昨日戦闘を行ったイギリス哨戒艦隊、戦艦打撃群が登場である。
「先ほどは遅れを取ったが、今が挽回の時だ。大英帝国海軍の実力というものを見せてやろう」
ヘミルガン中将が意気込みのように語る。
北と南から挟み撃ちにされたバイルシュタイン艦隊。この状況を切り抜けられるのか。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる