転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第107話 対艦攻撃

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 バイルシュタイン艦隊は、イギリス哨戒艦隊を差し置いて北上を続ける。
 しかし、イギリスも黙ってみているわけではない。バイルシュタイン艦隊の近くに航空基地があった。そこには、爆撃機でありながらも戦闘機として運用可能なモスキートが配備されていた。
 時刻はすでに夕方。日が暮れるのも時間の問題だが、航空基地司令官は爆撃をするように指示を出す。
 すぐにモスキートが航空基地を出発し、比較的低空で飛行する。
 今回の爆撃隊には護衛がついていない。護衛機となりうるスピットファイアは、バトル・オブ・ブリテンのために別の基地へと出払っており、基地防衛のための機数しかおいてないのだ。しかし、今回はそんなに心配しなくても問題はない。相手は艦だ。戦闘機の出る幕はない。
 モスキートの群れは、爆弾倉に五〇〇ポンド爆弾を四つ、パイロンに二つ抱え、バイルシュタイン艦隊へと接近していた。
 残念ながらモスキートは魚雷を搭載できるようにはできておらず、またできるようになるには再設計のための時間が必要である。そのため、今回は爆弾のみでバイルシュタイン艦隊を何とかしなくてはならないのだ。
「敵のレーダーを気にすることもなく接近できるのは良いことだが、機銃掃射を受ける可能性があるのが難点だな。これがあるから艦艇への攻撃は嫌なんだ」
 そんなことを、パイロットである軍曹がボヤく。
 そこに、先頭を行く隊長機からの通信が入る。
『敵は動く上に反撃までしてくる。ここは緩降下爆撃で攻撃する。俺の後に続くように。ただし、命中しないようなら、各個が進路を変更して爆撃しろ』
 そのように命令をする。
 やがて、夕陽に照らされたバイルシュタイン艦隊を発見するだろう。その先頭を進むビスマルクに狙いを定め、モスキートの群れが襲い掛かる。
「敵の航空機がこっちに来たな。狩りの時間だ。対空戦闘用意」
 ヴェルマー少将が全艦に命令を出す。対空機銃が上空のほうを向き、照準を定める。
「目標まで三〇〇〇メートル!」
「対空戦闘開始!」
 機銃が一斉に火を噴く。曳光弾の光が夕陽に映えるだろう。
 綺麗な光景とは裏腹に、そこでは命のやり取りが行われていた。
『そろそろだ! 緩降下開始! 目標を中央の艦に設定!』
 隊長機から順番に、降下角度二十度程度で降りていく。
 そのまま照準をプリンツ・オイゲンに定める。
「軍曹、もう少し左です」
「了解」
 爆撃手が照準器で照準を合わせ、それを補正するようにパイロットが機体を操縦する。
「爆弾倉開きます」
 スイッチを入れると、爆弾倉が開く。その時になると、対空砲の攻撃が激しくなる。一発二発ほど、機体をかすめていく。
「……投下!」
 爆弾が投下され、モスキートは反転していく。この時点で墜とされたモスキートは一割にも上っていた。
 爆弾は自由落下をし、ほとんどは海面に吸い込まれる。
 しかしながら、その中でも数個はプリンツ・オイゲンに命中した。甲板上で爆発する爆弾。
 だが、甲板は強固に作られており、五〇〇ポンドでは大きなダメージを与えることができなかった。いわゆる小破止まりである。
『これでもまともにダメージを与えられなかったか……』
 隊長機から、残念そうな通信が入ってくる。
 モスキートの群れは、そのまま帰っていく。
 航空基地に戻って再装填しようとしたのだが、幸か不幸か、バイルシュタイン艦隊周辺にスコールが降り始めたのだ。
 スコールが降っている上に、これから夜になる。これ以上の攻撃はできないだろう。その上、イギリス側はバイルシュタイン艦隊を見失った。
「これなら、次の目標にたどり着けるだろう」
 そんなことを言っているときだった。レーダー探知に反応があった。
「前方に複数の船舶が見えます」
「船の種類は分かるか?」
「この大きさなら、おそらく商船でしょう」
「ふむ……。このスコールと暗闇では、まともに攻撃することはできないだろう。夜が明けたら、すぐに攻撃する」
 このように決定される。
 そして翌朝。スコールもどこかへ行き、商船の様子がはっきり見える。
「さぁ、攻撃開始だ」
 その時である。複数の商船の一部が変形し、中から砲身が出てきた。
「時代錯誤のコイツで、どこまで行けるだろうか……」
 そのように言うのは、イギリス商船に見せかけた軍用船、Qシップでの司令官であった。
 Qシップは時代に合わせて、五インチ砲を搭載している。駆逐艦の砲で、どこまで戦えるのか。それは未知数であった。
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