転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第9話 阻止

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 一九三六年一月十六日。
 朝の新聞には一面で、ロンドン海軍軍縮会議から脱退したというニュースが報じられた。
「まぁ、予定通りっちゃ予定通りか」
 海軍の下士官から朝食を貰ったついでに、このニュースを聞いた宍戸の感想はこの通りである。
 そしてこれにより、海軍の軍拡競争が始まることを意味していた。
「海軍の戦力は増強されることになるけど、果たしてどこまでやっていけるかだな……」
 宍戸は少し考える。
(現在の仮想敵国はアメリカだ。アメリカの物量はすさまじいものだし、実際過去の日本はそれが原因で敗戦したようなものだ。もし戦うようなことがあれば、短期決戦でケリを着けるしかない……)
 宍戸はチラッとスマホを見る。
(もしもの時は、アメリカの転生者であるカーラ・パドックを交渉人として使う手もある。まぁ、あくまでも手段の一つにすぎないけど)
 大統領と面会できる立場とはいえ、転生者という認識がどこまで影響力を持つのかは不透明だ。それなら、通常の外交を行ったほうが早い。
「やることはまだまだ多いな……」
 その翌日。内務省の役人がやってきた。
「クーデターの首謀者らを、国家転覆を企てた容疑で逮捕しました」
「やることが早いっすね……」
「罪をでっちあげる方法はいくらでもあります。我々が一番法律の近くで仕事している人間ですので」
「こわー……」
 さすがの宍戸も引いた。
「それで、彼らをどうするつもりですか?」
「当然、全員死刑にします。ですが、全員自白しましたので、内乱罪の適用ではなく、不当な武力行使をしようとした罪に問います」
「なんというか、ご愁傷様としかいいようがないですね……」
「また、今回の事件を公表し、国家転覆などの危険思想を持った人間を逮捕できるような法律の制定も行う予定です」
「し、思想犯保護観察法……」
 少し危ない方向に向かっているような気もするが、元の世界でもそんな感じであった。おそらくそこまで強い影響は出ないだろう。
「とにもかくにも、今はクーデターを阻止できたことを喜ぶべきなんでしょうな」
 宍戸が言う。安堵はできないが、少し安心した。
「後は関東軍が満州から撤退してくれるかだが……」
 今の心配事はそこだ。このままいけば、大陸側と太平洋側の二正面で戦争を起こすことになる。ただでさえ資源のない日本が、より資源のない状況へと追い込まれる。それだけは何としても阻止しなければならない。
「開戦まで時間がない。早くしなければ……」

━━

 ドイツ、ベルリン。総統官邸の地下。そこに、幽閉された一人の女性がいた。
 ローザ・ケプファー。宍戸と同じ転生者だ。
 彼女は転生以来、この場所に囚われている。
 そこに、一人の男性が大勢の部下を連れてやってきた。
「ご機嫌はいかがかね? ケプファー君」
 第二次世界大戦を勃発させた元凶とも言える男、アドルフ・ヒトラーである。
「乙女をこんな場所に幽閉するなんて、いい趣味してるわね」
「君は少し勘違いしているようだ。君がここに幽閉されているのは、君がこの世界で最も情報を持っている人間の一人だからだ。その力は諜報などでは決して奪うことのできない情報もある。それを私のために使ってみないか?」
「嫌よ。それを使えばどうなるか、あなたが一番良く知っているじゃない」
「当然だとも。私の夢は、この祖国を発展させて、アーリア人のための最高な国にすることだ。そのためには、どうしても君の協力が必要だ」
「……そう。なら、一つ教えてあげる。あなたの末路とも言うべき最期を」
「末路、だと?」
「そうよ。あなたが始めた戦争は、やがて自分の首を絞める結果になるわ。ソ連がベルリン市街地に侵入し、そしてあなたは地下の司令室で自殺する……」
「……なるほど、スターリンの軍勢にやられるよりはマシだろうな」
 ヒトラーは少し笑う。
「なぜ笑っているの? あなたは追い込まれる運命にあるのよ?」
「未来から来た君なら分かっているだろう。私は死線を何度もくぐってきた。そして今、こうして総統として君臨している。そのような未来が訪れるのなら、そうならないように対策するだけだ。私は崇高なるアーリア人の頂点に立つ人間なのだからな」
 そういってヒトラーは、ケプファーの前から去る。
 それを確認したケプファーは、強張らせた肩の力を抜く。
「はぁぁぁ……。なんとかなったぁ……」
 彼女は人前では凛々しい雰囲気を醸し出しているが、それは極度の緊張状態に陥っているからである。本当の彼女は、臆病な性格なのだ。
「それから、どうやってここを出よう……?」
 彼女はこの総統官邸からの脱出を考えていた。臆病ゆえの逃避癖。危険な場所からは逃げるという、生物の本能的なことをしているのだ。
 戦いたくない、だから逃げる。嫌なことから逃げ出し、自分のできることを進んでやる。それが、彼女の目指す生き方なのだろう。
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