いとしのチェリー

旭ガ丘ひつじ

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縁結び

22 ゲームオーバー

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ウォッシングマシーン、フリッジ、テレビ
三種の神器にとり憑いたネコツキが合体したパワードスーツを装備したモルモットの料理長セロリンあらためアイアンシェフトリプルスリーとの激闘の末に勝利した桜桃はネズミ達に盗みをしないことを約束させた
そして目的の食材をパパッと集めて究極のねこまんまを完成させたのであった

それから主治医と共にベルの付いた喫茶店風の扉を抜けて転移
地上はコクトウデザートへとやって来た

ここは日が昇ることのない極夜の世界
藤紫の満天の下、褐色の砂が波打つ
コラノキだけが点々と生きていて
気味の悪いネコツキが彷徨う

その美しさとは裏腹に厳しい自然を体感する

吹き荒ぶ砂塵
起伏の激しい砂丘
行手を阻む砂壁の迷宮

時折、砂丘に上がって目的地を確認する
遠くに見える三角の建造物が目的地だ

冷えますねえ
お父さんは寒ないですか?

主治医はいつの間にか白衣から革ジャンにジーパンへと着替えていた
革手袋までしている

そうだな
一枚何か羽織るか

桜桃は警備服をすっぽり覆うベンチコートを羽織った
秋冬の警備員コーディネートである

さっきから何を採ってますの

これか
コーラの実だよ

ほへー
ここに生えてるの全部コーラの木なんや

後でクラフトコーラを作るために集めてるんだ

息子さんに飲ませてあげるんですね

あいつは嫌がるけどな
そのつもりだよ

家族思いの優しいお父さんや

もう夕方の六時だ
先を急ぐぞ

と言っておきながら、ゴーレムのネコツキや包帯のネコツキや砂のネコツキやサボテンのネコツキやフンコロガシのネコツキ等に喧嘩を売って歩いた

例えば、ゴーレムは生チョコ、フンコロガシの糞はトリュフチョコ、サボテンはメロン味のキャンディーとオヤツを落としてくれたので小腹は満たされた

お父さん
そないなことしとったら時間ナンボあっても足りませんて

そうだな
もう八時だから急がないと

ほんまですよ

あ!
先生は帰らないといけないじゃないか!

大丈夫ですよ
お父さんの隣で寝とるんで

「え!添い寝!」

ちゃいますよ!
隣のベッドです!

ああ、びっくりした

今日は最後まで付き合いますんで気にせんといて下さい
これも大事な仕事やさかい

申し訳ないな

いえ
仕事ですから

お、ちょうど良いのがいた

にゃにゃーん
ラクダのネコツキに吉備団子をやって一時的に仲間にした
桜桃と主治医は仲良く乗って目的地を目指すこと三分

意外と近かったですね

はっはっはっ!
でもラクダに乗るの楽しかったろう

ええ土産話が出来ましたわ

最後のミステリースポット、古代都市ラムネード
星の明かりをガラスがキラキラと細かく反射して神秘的な雰囲気に満ちている
風は平伏すように静かになった

いざ町へ踏み入る
ラムネのビンが立ち並び、ガラスの遺跡が規則正しく建っている
そこにはウシの落書きがまるでエジプトの壁画のように描かれていた
どこかにお宝が眠っているらしいが、それを探すのは今度にして奥へ進む

これが、、、

ゲームでもこりゃ堪りませんわ、、、

透き通った黄金色の四角い飴を重ねて作った金字塔
言わずもがなピラミッドである
二人は呼吸を忘れるほど目前のロマンスに見惚れた

月の神殿とも呼ばれ、この中にボスが待ち受ける
通路には植物を模したガラス細工の照明が二人を導くように続いていた
上がるのではなく下り
階段を降りた先には目が眩むばかりの秘宝が堆く積もる宝物庫があった
ここでも壁面にビッシリとウシの落書きが書いてある

まるで夢みたいだな!

これ売ったらナンボなるやろ

ははは、ちょっと先生
それアイテムじゃないから持って帰れないぞ

えーそうなんですか?
一個くらいお土産にくれてもええのに

おーい
それ盗んだら罰当たるどー

じぇじぇじぇ!
何ですのあの牛!こわっ!

モー待ちくたびれたど

やっぱりアンタがいたか
貞治さん

エメラルドの鼻輪をしたリアルサイズの丑の神様
名はサダハル
のんびりした性格でいつも気怠るそうにしている
言葉に田舎訛りがあるのが特徴だ

そんな彼と以前、江戸風の町で混飩というカオスの塊を巡って東西対抗綱引き合戦を行い雌雄を決したことがある
どちらのチームにつくかで、続けて戦うボスネコツキの種類が変わる
桜桃は天麩羅チームについて、貞治は寿司チームについた
天麩羅のネコツキは油を流し
寿司のネコツキは酢を流し
綱引きは四分半も膠着して熾烈を極めた

なんや楽しそうですね

ああ
楽しいし懐かしかったよ

運動会思い出したんですね

いや違う

え?

俺は子供の頃、よく牛と綱引きして遊んでたんだよ
それを思い出してな
かあー!懐かしい!!

どんな田舎に住んどったんですかそれ

道路もない山の中にある村だよ

へえー

モーいいかい
そろそろ儀式を始めんど

桜桃は貞治の指示を受けて祭壇にねこまんまを供えた
貞治はその前に横たわり身を捧げる
その献身的な姿は涙を誘うが、涙は出ない
桜桃はこれ以上ないほどの敬意を眼差しで注いだ

大黒天様お目覚めを
どうか未来に恵みをくだされ

貞治が呼び掛けると直ぐに反応があった
地鳴りと共に細やかな揺れが足元からグングンと迫ってきた
それがピークに達した時、祭壇からシュワシュワと赤い液体が漏れ出した
ちょっとだけホラーな雰囲気

貞治が横目でこちらを見遣る
その瞳は優しさで濡れていた

後んこと、よろしくお願いします

俺に任せとけ
あんたも猫さんも必ず救ってやる

ありがてえなあ
胸がギューとなって安心するよ

液体は意識をもって、ねこまんまと貞治の笑顔をあっという間に飲み込んだ
さらに、財宝の全てを凄まじい勢いで吸い込んで、みるみるうちに姿を変えていく

バステトコーラ

猫耳付きの、半透明の赤いスライム
牛をモチーフにした金とエメラルドの装身具を纏っている
閉じていた猫目が開いて二人の姿を捉えると、ぬるりと体を揺らして、滑るように部屋を出て行った

追いかけるぞ!

二人は慌てて追いかけて外まで飛び出した
バステトコーラはピラミッドの頂上まで上がると、煌々と降る月明かりを全身に浴びて、瞬く間に膨らんでキリン級の高さまで肥大化した

先生は隠れていてくれ

あんなん勝てますの

勝つ!

何かを助け守るのが警備員の仕事
桜桃はベンチコートを脱ぎ捨ててデコレーションソードを構えた

のはいいが物理攻撃は全く通用しないことを桜桃は知らない
ましてや大剣なんぞで挑めば、あんな風に柔らかく弾き返されて恥ずかしい格好で何度もひっくり返ることになる
特別クエストの報酬で貰える杖などを使った魔法攻撃が最善だ
この情報はこの世界の図書館でも確認できるぞ

ふにゃあ、、、

戦いに終わりなく
時刻は夜十時を迎えた
残念無念また明日
桜桃と先生は眠るように意識を失った

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