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縁結び
21 チューチュー列車
しおりを挟むお気にの中華飯店を後にした桜桃と彼の主治医の先生は、人にネオンの装飾まで賑やかな中華街ハンバオバオから地下鉄に乗って隣町へ向かう
やがて到着したのはフレンチコースと呼ばれる洋式の田舎町
地下空間に円形の、長閑な田舎が再現されている
ミステリースポットはさらにその下、桜桃達が降り立った場所にある
さっそく改札で駅員に話し掛けて案内してもらう
お洒落な地下商店街の奥の隅
立ち入り禁止の通路を抜けて列車の整備工場までやって来た
現在は人ひとり寄り付かないと駅員が声を震わせて話す
どうもネズミ達が食材を盗んではここへ運んでいるらしい
ここは今やネズミの巣ってわけだ
非常灯の明かりだけで薄暗い
いかにもネズミが好みそう
ところで不気味なほど静かかと思えば、微かに物音が聞こえる
ふんわりと、いい匂いもする
駅員は逃げ去ってもういない
桜桃達は物音を頼りに奥へとそろりそろり進む
全ての列車に明かりが点いていて、中で何か野菜でも育てているようだ
えらい気味の悪いゲームでんな
何ですのこれ訳わからんわ
しっ!
ネズミに襲われるぞ!
と、ちょうど真ん中だけお店みたいに飾られている列車を見つけた
忍び足で近付いて、窓から、そっと頭半分出して中を覗いてみる
ひぇ
一両丸ごとウェルカムネズミ食堂になってやがる
客はいない、ネズミコックさんが四匹
オープン前の仕込みチューだろうか
あれま
ネズミだけにシチュー作ってまっせ
ネズミが食べるかな
そこはゲームですから
ほら見て、今度はハンバーグですわ
フランベしよったで
ひぇー本格的だなあ
コソコソ何してやがる
このネズミ野郎
ネズミに言われた
ムカつくけどネズミは好き
まさか見つかるとは、、、
驚いた心臓がマサチューセッツ州まで飛んで行くとこでしたわ
振り向くと大きな体のモルモットがいた
茶と白の毛並みのモルモットがいた
雰囲気はイカついけど、やっぱり瞳はくりくり
少し落ち着いてきた
わいらを料理するつもりか?
先生は情け無いことに桜桃の背に隠れながら言う
一方で桜桃は胸を張って、うんと背伸びもした
これでほんの僅か身長が上回ることになる
お前達が雑食なのは知っている
だがな、俺達は食われるつもりはないぞ
ははは
面白いこと言うじゃねえか
人間なんざ捕って食いやしねえよ
ほなら失礼します
待て
お父さん
何で止めますの
はよ逃げましょうや
ダメだ
話し合いのチャンスだ
いやーどうやろ
やいモルモット
名前はセロリンだ
ここの料理長をやっている
よろしくセロリン
単刀直入に訊く
何だ
食堂を経営するために食材を盗んでいるのか
いいや違う
食堂で扱う食材はここで育てたものだ
うちは野菜を専門にしていてな
嘘や!
叫んで否定したのは先生
その声には怯えが表れている
わいは見たで!
ハンバーグ焼いとったやん!
ほら今もや!
ありゃ大豆ハンバーグだぜ
なんや大豆かあ、、、
じゃあ、何のために盗みなんかやってるんだ
それは言えん
どうしてもと言うのなら対価を貰おうか
対価やて
図々しいやっちゃな
これでどうだ
ほう
用意がいいな
孝一さん
それどないしたんや
どうしたって
そりゃ素材を集めて焼いて貰ったんだよ
先生はクエストを進めていないのか
何も進めてません
はあ、、、何やってんだ
ゲームはやる気ないし
それにしても美味しそうなチーズケーキですこと
うむ!美味いぞ!
こりゃ最高のチーズケーキだ!
どうやってこのエレメンタルレアチーズケーキを作った!
ネズミの兄弟が焼いてくれた
まさか、、、グリルとグラタンのことか!
あいつらが焼いたなら、この美味さは納得だぜ
彼らはネズミの悪い噂を耳にして心配していた
知り合いなら、せめて盗みは止めるべきだ
ここの調査を依頼したのは彼らなんだぞ
そうか、、、しかしだ
究極のねこまんまを作らなきゃ、あのネコツキを復活させることは出来ん
別にせんでええわ
やらなきゃ世界を救えないんだよ
猫の怨念を遊んでやって晴らすのが目的だ
先生も前の世界をクリアしたんだろう
覚えてないのか
それが、まあ適当に話聞いてて
ゲームの方は、ほとんど娘に任せっきりやったんですわ
どうも苦手でね
はっはっはっ!そうか!
俺もだよ!
苦手だから息子に頼っちまった
やっぱりええ息子さんですね
はははいやいや
そちらこそ素敵な娘さんをお持ちで
へへへ
それで何の話でしたっけ?
何だった?
よく聞け人間
究極のねこまんまを作ってネコツキを復活させることだ
それや
よし分かった
俺達に出来ることがあれば助けよう
本気ですの!?
それ復活したら戦わなあきませんのやで!
本気や
これでええねん
なんで関西弁やねん
協力してくれるのか?
おう、俺達が材料を集めてやら
そん代わり質問がある
またか
何だ?
君達は猫が嫌いなのか、好きなのか、どっちなんだい
そら嫌いやろ
先生は黙ってて
すんません
「どっちもだよ」
どっちもかい
ま、ネズミそれぞれによるけどな
俺は好きだぜ
だから助けてやるために何だってする
でも嫌いだから、あんたに退治してもらう
それが猫を助ける結果になるんだからいいよな
いいだろう
ええんかい
いいんだ
ネズミ達に悪気が無いことがハッキリ分かったからな
ネズミを嫌いにならずに済んだよ
必要な時は協力してやるし、戦ってもやる
ほう、言うな
それならさっそく、俺と戦って貰おうか
このままお前達を帰しては仲間のネズミに示しがつかないのでな
かかってこい!
相手になってやる!
気配を感じて周囲を見回す
いつの間にかネズミに取り囲まれていた
赤い眼光が薄闇のなか無数に光る
先生はゴキブリよろしく列車の下に直ぐ避難した
一方で桜桃は臨戦態勢
彼らとの勝負を楽しみにしている
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