補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第四十四話

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「う、うーん……」

 眠りから覚めた魔術師は辺りを見渡す。
 状況がよく飲み込めないのか、かぶりを振って意識を集中させる。
 ふと目線の先に倒れて動かない二匹のオーガの死体を見つけ、我に返った。

「み、みんなは!?」

 自分の発した声のあまりの大きさに驚きながらも、直ぐに自分の横ですやすやと眠る三人に気付いた。
 慌てて身を屈め、先程オーガの攻撃を受けた二人の容態を確認する。

 どうやら誰かが応急処置をしてくれたようだ。
 まだ息は荒いものの、口元や身体からはほのかに回復薬独特の臭いを感じ、ほっと安堵の息を吐く。

 怪我を逃れた前衛を起こすと、それぞれで仲間を担ぎ、出口へと歩き始めた。
 動き出す前に辺りに人影を探したが見つからず、助けてくれたお礼も言えずに申し訳ない気持ちになったが、仲間の手当が優先なので、その場を後にした。

 オーガの死体をそのままにするのはもったいない気もしたが、自分たちが倒したわけでもなく、肩に仲間を担いだ状態では、なるべく荷物を減らしたかったため、何も取らずにいった。
 一応確認したところ、討伐報告に必要な、オーガの頭の角は切り取られ、持ち帰られているようだ。

 それにしても何故自分たちが寝ていたのか、あのオーガたちを一撃の元に倒したのは誰なのか、疑問は色々残ったまま、彼らは無事に街へと戻った。
 仲間の手当を済ませ、完治した後は、再びダンジョンへと潜って行った。



「あのままで大丈夫だったんですか? ハンス様」
「ん? ああ。彼らのことか。大丈夫だろう。効果は弱めてあるから今頃目覚めているはずだよ。それに周りには魔物の気配は無かったんだろう?」

 セレナはハンスの問いに頷くと、ハンスの動きを制するため、左腕をハンスの前にかざした。
 ハンスはそれを見て、立ち止まり、セレナの方に目をやる。

「この先敵がいます。数は……すいません。数えられません。大勢いるようです」
「オーガか?」

 再びセレナはハンスの問いに頷く。
 ハンスはセレナに周囲の状況を、特に周りに他の冒険者たちが居ないかを確認させた。

「周囲には他の生き物の気配は感じられません。人間も含めてです」
「よし。この状況なら試せそうだ。セレナ、作戦は覚えてるな?」
「大丈夫です! 安心してお任せ下さい!」

 しーっと唇の前に人差し指を立て、ハンスはこれから唱える魔法の呪文と魔法陣を用意する。
 出来れば複数にかけたいが、残念ながらこの魔法の性質上、広範囲ラージは適さなかった。

 命中力を上げるため、出来るだけオーガに近付いてから、複数マルチを唱えるしかないのだ。
 準備が終わると、ハンスは無言でセレナに合図を送る。

 呪文を唱え終わっているため、他の言葉を発することが出来ないのだ。
 魔法陣はハンスの動きに合わせて、ふよふよと空中を移動していく。

 少し進むと、そこには十匹以上のオーガが集まっていた。
 こちらに気付いていないようだが、今回はもう少し近付く必要がある。

 意を決して、ハンスは走り出し、オーガの攻撃が届かないギリギリまで近付いた。
 セレナもハンスに寄り添うように、ハンスの後ろにピタリとついている。

複数混乱マルチコンフューズ!」

 複数の光線がオーガに向かって放たれ、そのいくつかが、オーガに当たり、オーガの身体に魔法陣を刻み込む。
 途端にそのオーガ達は狂ったようにその場で腕を振り回し、近くに居る仲間を掴んで噛み付き始めた。

 それを見たハンスはというと、セレナに持ち上げられ、速やかにその場から離脱していた。
 今のセレナには筋力増強ストロングが付与されているため、ハンス一人抱えていても、普段と変わらぬ速度で移動することが出来る。

「上手くいったようだな」

 ハンスの目線の先では、ハンスの補助魔法によって、敵味方の区別を無くしたオーガたちが、近くにいる仲間のオーガに無作為に攻撃を繰り返していた。
 突然の仲間の変容に戸惑いながらも、正常なオーガたちは自分自身の身を守るため、異常な行動を示すオーガに、反撃を行っている。

 しばらく同士討ちが続き、やがて十匹以上いたオーガたちは、三匹まで数を減らした。
 その結果に満足し、強く何度も頷いているハンスを、セレナは複雑な感情で眺めていた。

 ハンスは今、セレナに背中と膝の裏辺りに手を添えられて、持たれた格好のままだった。
 それは、女性なら誰もが夢見る、男性にして欲しい抱き上げ方、そのものだった。
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