44 / 52
第四十四話
しおりを挟む
「う、うーん……」
眠りから覚めた魔術師は辺りを見渡す。
状況がよく飲み込めないのか、頭を振って意識を集中させる。
ふと目線の先に倒れて動かない二匹のオーガの死体を見つけ、我に返った。
「み、みんなは!?」
自分の発した声のあまりの大きさに驚きながらも、直ぐに自分の横ですやすやと眠る三人に気付いた。
慌てて身を屈め、先程オーガの攻撃を受けた二人の容態を確認する。
どうやら誰かが応急処置をしてくれたようだ。
まだ息は荒いものの、口元や身体からはほのかに回復薬独特の臭いを感じ、ほっと安堵の息を吐く。
怪我を逃れた前衛を起こすと、それぞれで仲間を担ぎ、出口へと歩き始めた。
動き出す前に辺りに人影を探したが見つからず、助けてくれたお礼も言えずに申し訳ない気持ちになったが、仲間の手当が優先なので、その場を後にした。
オーガの死体をそのままにするのはもったいない気もしたが、自分たちが倒したわけでもなく、肩に仲間を担いだ状態では、なるべく荷物を減らしたかったため、何も取らずにいった。
一応確認したところ、討伐報告に必要な、オーガの頭の角は切り取られ、持ち帰られているようだ。
それにしても何故自分たちが寝ていたのか、あのオーガたちを一撃の元に倒したのは誰なのか、疑問は色々残ったまま、彼らは無事に街へと戻った。
仲間の手当を済ませ、完治した後は、再びダンジョンへと潜って行った。
◇
「あのままで大丈夫だったんですか? ハンス様」
「ん? ああ。彼らのことか。大丈夫だろう。効果は弱めてあるから今頃目覚めているはずだよ。それに周りには魔物の気配は無かったんだろう?」
セレナはハンスの問いに頷くと、ハンスの動きを制するため、左腕をハンスの前にかざした。
ハンスはそれを見て、立ち止まり、セレナの方に目をやる。
「この先敵がいます。数は……すいません。数えられません。大勢いるようです」
「オーガか?」
再びセレナはハンスの問いに頷く。
ハンスはセレナに周囲の状況を、特に周りに他の冒険者たちが居ないかを確認させた。
「周囲には他の生き物の気配は感じられません。人間も含めてです」
「よし。この状況なら試せそうだ。セレナ、作戦は覚えてるな?」
「大丈夫です! 安心してお任せ下さい!」
しーっと唇の前に人差し指を立て、ハンスはこれから唱える魔法の呪文と魔法陣を用意する。
出来れば複数にかけたいが、残念ながらこの魔法の性質上、広範囲は適さなかった。
命中力を上げるため、出来るだけオーガに近付いてから、複数を唱えるしかないのだ。
準備が終わると、ハンスは無言でセレナに合図を送る。
呪文を唱え終わっているため、他の言葉を発することが出来ないのだ。
魔法陣はハンスの動きに合わせて、ふよふよと空中を移動していく。
少し進むと、そこには十匹以上のオーガが集まっていた。
こちらに気付いていないようだが、今回はもう少し近付く必要がある。
意を決して、ハンスは走り出し、オーガの攻撃が届かないギリギリまで近付いた。
セレナもハンスに寄り添うように、ハンスの後ろにピタリとついている。
「複数混乱!」
複数の光線がオーガに向かって放たれ、そのいくつかが、オーガに当たり、オーガの身体に魔法陣を刻み込む。
途端にそのオーガ達は狂ったようにその場で腕を振り回し、近くに居る仲間を掴んで噛み付き始めた。
それを見たハンスはというと、セレナに持ち上げられ、速やかにその場から離脱していた。
今のセレナには筋力増強が付与されているため、ハンス一人抱えていても、普段と変わらぬ速度で移動することが出来る。
「上手くいったようだな」
ハンスの目線の先では、ハンスの補助魔法によって、敵味方の区別を無くしたオーガたちが、近くにいる仲間のオーガに無作為に攻撃を繰り返していた。
突然の仲間の変容に戸惑いながらも、正常なオーガたちは自分自身の身を守るため、異常な行動を示すオーガに、反撃を行っている。
しばらく同士討ちが続き、やがて十匹以上いたオーガたちは、三匹まで数を減らした。
その結果に満足し、強く何度も頷いているハンスを、セレナは複雑な感情で眺めていた。
ハンスは今、セレナに背中と膝の裏辺りに手を添えられて、持たれた格好のままだった。
それは、女性なら誰もが夢見る、男性にして欲しい抱き上げ方、そのものだった。
眠りから覚めた魔術師は辺りを見渡す。
状況がよく飲み込めないのか、頭を振って意識を集中させる。
ふと目線の先に倒れて動かない二匹のオーガの死体を見つけ、我に返った。
「み、みんなは!?」
自分の発した声のあまりの大きさに驚きながらも、直ぐに自分の横ですやすやと眠る三人に気付いた。
慌てて身を屈め、先程オーガの攻撃を受けた二人の容態を確認する。
どうやら誰かが応急処置をしてくれたようだ。
まだ息は荒いものの、口元や身体からはほのかに回復薬独特の臭いを感じ、ほっと安堵の息を吐く。
怪我を逃れた前衛を起こすと、それぞれで仲間を担ぎ、出口へと歩き始めた。
動き出す前に辺りに人影を探したが見つからず、助けてくれたお礼も言えずに申し訳ない気持ちになったが、仲間の手当が優先なので、その場を後にした。
オーガの死体をそのままにするのはもったいない気もしたが、自分たちが倒したわけでもなく、肩に仲間を担いだ状態では、なるべく荷物を減らしたかったため、何も取らずにいった。
一応確認したところ、討伐報告に必要な、オーガの頭の角は切り取られ、持ち帰られているようだ。
それにしても何故自分たちが寝ていたのか、あのオーガたちを一撃の元に倒したのは誰なのか、疑問は色々残ったまま、彼らは無事に街へと戻った。
仲間の手当を済ませ、完治した後は、再びダンジョンへと潜って行った。
◇
「あのままで大丈夫だったんですか? ハンス様」
「ん? ああ。彼らのことか。大丈夫だろう。効果は弱めてあるから今頃目覚めているはずだよ。それに周りには魔物の気配は無かったんだろう?」
セレナはハンスの問いに頷くと、ハンスの動きを制するため、左腕をハンスの前にかざした。
ハンスはそれを見て、立ち止まり、セレナの方に目をやる。
「この先敵がいます。数は……すいません。数えられません。大勢いるようです」
「オーガか?」
再びセレナはハンスの問いに頷く。
ハンスはセレナに周囲の状況を、特に周りに他の冒険者たちが居ないかを確認させた。
「周囲には他の生き物の気配は感じられません。人間も含めてです」
「よし。この状況なら試せそうだ。セレナ、作戦は覚えてるな?」
「大丈夫です! 安心してお任せ下さい!」
しーっと唇の前に人差し指を立て、ハンスはこれから唱える魔法の呪文と魔法陣を用意する。
出来れば複数にかけたいが、残念ながらこの魔法の性質上、広範囲は適さなかった。
命中力を上げるため、出来るだけオーガに近付いてから、複数を唱えるしかないのだ。
準備が終わると、ハンスは無言でセレナに合図を送る。
呪文を唱え終わっているため、他の言葉を発することが出来ないのだ。
魔法陣はハンスの動きに合わせて、ふよふよと空中を移動していく。
少し進むと、そこには十匹以上のオーガが集まっていた。
こちらに気付いていないようだが、今回はもう少し近付く必要がある。
意を決して、ハンスは走り出し、オーガの攻撃が届かないギリギリまで近付いた。
セレナもハンスに寄り添うように、ハンスの後ろにピタリとついている。
「複数混乱!」
複数の光線がオーガに向かって放たれ、そのいくつかが、オーガに当たり、オーガの身体に魔法陣を刻み込む。
途端にそのオーガ達は狂ったようにその場で腕を振り回し、近くに居る仲間を掴んで噛み付き始めた。
それを見たハンスはというと、セレナに持ち上げられ、速やかにその場から離脱していた。
今のセレナには筋力増強が付与されているため、ハンス一人抱えていても、普段と変わらぬ速度で移動することが出来る。
「上手くいったようだな」
ハンスの目線の先では、ハンスの補助魔法によって、敵味方の区別を無くしたオーガたちが、近くにいる仲間のオーガに無作為に攻撃を繰り返していた。
突然の仲間の変容に戸惑いながらも、正常なオーガたちは自分自身の身を守るため、異常な行動を示すオーガに、反撃を行っている。
しばらく同士討ちが続き、やがて十匹以上いたオーガたちは、三匹まで数を減らした。
その結果に満足し、強く何度も頷いているハンスを、セレナは複雑な感情で眺めていた。
ハンスは今、セレナに背中と膝の裏辺りに手を添えられて、持たれた格好のままだった。
それは、女性なら誰もが夢見る、男性にして欲しい抱き上げ方、そのものだった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる