補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第四十五話

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 ハンスはセレナに降ろしてもらうと、残りの三匹のオーガをどうするか考え込んだ。
 先程の魔法は相手を混乱させ同士討ちさせるもので、それなりに知性がないと有用でないが、群れで居る場合にはこちらの戦力を温存したまま、相手の戦力だけ削る中々の効果が見られた。

 しかし、現状では、複数マルチを上手く当てるために、なるべく近寄る必要があるなど、運用上の改善が必要だった。
 ただ、これを例えば王国貴族などが多く集まる場所で放ったとしたら……ハンスはこれだけは絶対に世に出してはいけないと、心に誓った。

 まぁ、全ての魔法も道具も、使い方次第では、毒にも薬にもなるのだが。
 ハンスはそう思いながら、自分の知識欲と魔法への情熱を具現化するために開発した、混乱コンフューズの魔法を今度どう扱うか思案した。

 この魔法の開発過程で思いついた補助魔法、精神安定カームは場合によっては有用な魔法だ。
 これだから魔法の研究は止められない、そう思いながら、いい加減現実に思考を戻し、残り三匹のオーガへかける魔法を唱え始めた。

広範囲睡眠ラージスリープ!」

 やっぱりこれが安全で楽だよなぁ、と思いながら、先程の二匹のオーガにも使った補助魔法をかける。
 補助魔法による巨大な魔法陣がオーガの身体に落ちていくが、オーガの身体にぶつかると、弾けて消えた。

「うお!?」

 思わぬ出来事にハンスは変な声を上げる。

「ハンス様!」

 距離を既に詰めてきたオーガの拳が、ハンスの居た地点に上から振り下ろされる。
 地面が砕ける音と共に砂埃が舞い、手応えを感じなかったのか、オーガはきょろきょろと獲物の行方を探した。

「ふぅ。危なかった。助かったよ。セレナ」
「大丈夫ですが、どうなったんですか?」

 ハンスは今、セレナの小脇に抱えられた姿で、下からセレナの顔を覗き込みながら話している。
 オーガの攻撃の直前、危険を察知したセレナがハンスを抱えてその場から逃げたのだ。

「うーん。気付かなかったが、どうやら使い勝手がいいと思っていた睡眠スリープも欠点があるらしい。いきり立った魔物には効かないようだ」

 先程の同士討ちで、オーガたちの感情は高ぶっていた。
 興奮した状態では寝ることなど出来ないのだろう。

「参ったな。一体一体倒していくか? いや。これでどうかな?」

 するとハンスは、別の呪文を唱え始めた。
 それはここに来る間にセレナにかけた強化魔法だった。

 ハンスの意図が分からず、いつでもオーガの攻撃を避けれるよう、セレナはハンスを抱えたまま身構えた。
 少女の小脇に挟まれたまま、空中で指を細かく動かしながら、ブツブツとつぶやく青年。

 本人達は至って真面目なのだが、傍から見るとなかなかな絵柄になっていた。
 そんな事などお構い無しにハンスの魔法が完成する。

広範囲精神安定ラージカーム!」

 放たれた魔法陣はオーガに魔法陣を刻み、興奮していたオーガ達は穏やかになった。
 間髪入れずに、先程不発に終わった広範囲睡眠ラージスリープを唱える。

 落ち着いたためか、今度は抵抗もなく三匹のオーガはすやすやと眠りについた。
 念の為、それぞれに複数睡眠マルチスリープかけ、睡眠の深度を上げると、セレナは一匹ずつ、一撃の元に仕留めていった。

「こういう使い方もあるんだなぁ。どうだ? セレナも驚いたろ?」

 ハンスは自分の発見にまんざらでもない笑みを浮かべ、セレナに同意を求める。
 相変わらずセレナには何が起こったのか、ハンスが何をしたのか分からなかったが、嬉しそうにするハンスを気遣い、ぶんぶんと頭を上下に振った。
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