補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

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第七話

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 このままでは話が前に進まない、少女の喋り方指導のためにここまでわざわざ連れてきたのではない。
 ハンスは話を前に進めることに決めた。

「まぁ。いいか。それもおいおい直してくれよ? ところで肺を患っているね? 隠さなくてもいい。それで君をどうしようってことは無いんだ」
「すいません。やっぱりご存知だったんですね。コホッコホッ。一年ほど前から」

 ハンスが見た所、これは目には見えないほど小さな魔物が呼吸を司る器官、学者達は「肺」と呼んでいる部分に巣食ったため発症する病気だった。
 治癒するためには魔物を全て消滅するだけの力を持った聖女に魔法をかけてもらうか、体力をつけ、自分自身が持つとされる体内の力によって、魔物に打ち勝つしか無いとされている。

 神や神霊の力を扱うとされている回復魔法の担い手、聖女は生まれた時の資質で決まると言われている。
 有名なのは大聖堂に居る大聖女シルフィや現国王の末娘エマなどだ。

 ハンスが研究した攻撃魔法や補助魔法と、聖女が使う回復魔法は、同じ魔法と言っても、全くの別物で、一方は論理的な説明が付き、色々な原理が論じられているが、もう一方は論理性も何も無い、まさに神の御業だった。
 ハンスとしては、使う者の絶対数が少なく、そのどれもが秘密主義のように方法を公表しないだけで、研究すれば何が原理があると思っているのだが、残念ながらそれを証明する手段がない。

 優れた聖女はどんな病も傷もたちどころに治してしまうといわれ、聖女は発見され次第、国の宝として専門の施設に送られてしまう。
 聖女エマのみが、聖女であると判明した後も、以前と変わらない生活を送ることのできた唯一の例だろう。

「その状態では、ろくな体力も残っていまい。良くそれで一年間も耐えられたな。普通の人間ならとっくにあの世行きだ。だが残念ながら俺には回復魔法は使えない。あれは聖女だけの秘術だとされているからな。本当かどうか疑わしいものだが。だがそのままでは戦闘もままならんだろう」
「あの。ハンス様。お言葉で大変申し訳ありませんが、私に魔物と戦わせるなど、できるとは思えません。ましてやハンス様をお守りしながらなどとは……」

 確かにこの少女の様子では、ハンスが自分で戦った方がまだまマシだろう。
 強化魔法は自分にかけることは出来ないが、状態異常をかけさえすれば、大抵の魔物にだって勝つ自信がある。

 ただし、かけることが出来れば、の話だ。
 敵は檻の中にいる訳ではなく、縦横無尽に動き回るだろうし、いつも一体だけとは限らない。

 それに魔法を唱える間、ハンスは完全に無防備になる。
 どう考えても、護衛となる者、そしてハンスの代わりに戦う者が必要だった。

 本当ならパーティとして登録が許される五人、ハンスの他に残り四人のメンバーが欲しいところだが、欲は言うまい。
 まずはこの少女とギルドのクエストを受け、当面の収入を得ることが一番である。

「ああ。それについては心配はいらない。君にぴったりの魔法があるんだ。と、その前にその肩の魔法の説明がまだだったね。それは奴隷紋のようで効果は全然異なる。いいかい? きちんと聞くんだよ?」

 ハンスはセレナにハンスの創った魔法の効果を説明した。
 要約すると、ハンスの意に反したとハンスが判断した時には、いつでも苦痛を与えることが出来るという事、一方でハンスに生命の危機が訪れても、苦痛は発生しないという事だった。

「俺を守る君が、一緒に動けなくなっては意味が無いからね。でも勘違いしちゃダメだよ? 俺がそう念じれば、いつでも苦痛を与えることが出来るし、条件付けだって自由なんだ。寝ている時に不意をつこうと思っても、俺への攻撃自体が苦痛の引き金となる。解けるのは俺しかいない」

 セレナは神妙な顔付きでこの説明に耳を傾け、時折咳をしながら、何度も首を縦に振った。
 ハンスはその様子に満足しながら、これからセレナにかける魔法の呪文を唱え始めた。

体力甚大タフネス!」

 今度はセレナの左肩に紋様が浮かび上がった。
 別に紋様付ける場所は何処でもいいのだが、見えない所に付けるよりは狙いを定めやすいし、何よりどうせ付けるなら左右対称がいいだろうという、よく分からないハンスの美的センスによるものだった。

「この魔法は、単純に対象の体力を上げる効果があるんだ。どうだ? さっきとは違って、疲労感がないだろう?」

 セレナは不思議そうな顔をして自分の身体を見ていた。
 白を通り越して青かった顔色は血の気を取り戻し、頬は軽く朱に染まっている。

 一年間続いた身体のだるさも嘘のように消え、まだ咳は出るものの、動かすことも辛かった手足をめいっぱい動かしても、少しの辛さも感じることはなくなった。
 回復魔法を使えないという先程の言葉は嘘で、たった今自分に回復魔法かけてくれたのかと、セレナは思った。

「あ、ありがとうございます! 身体が、身体がすごく軽いです!」
「うん。それは良かった。でも気を付けてくれよ。病気が治ったわけじゃないからね。でも、それが本来の君の身体だ。それなら俺よりもずっと戦力になりそうだ」

「え? 病気が治ったわけじゃないんですか? 咳は確かにまだ出ますけど、全然苦しくなくなりましたけど……」
「言っただろう? 俺は回復魔法は使えないんだ。それは補助魔法。俺が開発した魔法の効果さ。まぁ、体力が戻れば、そのうち自分自身の力で病気を治すことが出来るだろう。それまでは他の強化はかけられないからな」

 セレナはハンスの言っていることの半分も理解出来ずに、ただ、相槌のように首を縦に振るだけだった。
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