33 / 56
第3章
第74話【フィナリス】
しおりを挟む
「これがフィナリスか。上から見るだけでもオリジンとは全然違うねぇ」
飛竜の上から眺めた眼下に広がる景色に、他のメンバーと違って初めてフィナリスに訪れるカーラがそんな感想を言う。
たしかに、様々な意味でダンジョンを中心に発展していった街オリジンとは、これから向かう街フィナリスは大きく異なる。
フィナリスの主な産業は二つ。
一つは農業で、もう一つは鉱山からの採掘だ。
街を中心に北側には様々な鉱石が採れる山脈が連なり、その山から流れてくる川を囲むように農耕地帯が広がっている。
その生産量は国の中でも随一と言われ、近隣のみならず広い地域にその農作物や金属が運ばれるんだとか。
「それにしてもカーラ。本当に良かったのかい? オリジンの街とは違って、こっちでは武具なんかあまり需要がなさそうだけど」
「言っただろう? あたしはハンスの精錬したカネしかもう打つ気はないって。武具が要らないなら、農具でも何でも打ちゃあいいのさ」
そんな話をしていたら、飛竜は下降を始めた。
どうやらもうすぐ着くらしい。
「さぁ、みなさん。これからは少し歩きますが、まずは新しいギルド舎に向かいましょう」
アイリーンに促され、俺たちは新しく購入したギルド舎へと向かう。
俺とアイリーンが選んだ建物だが、少し古かったため改修をお願いしている。
完成後の建物を見るのは、アイリーン以外俺も初めてだった。
フィナリスの街は、中心にヴァイト伯爵の屋敷があり、それを囲む様に市街地が形成されている。
もともとは利便性の関係から街の西に広がる河川の近くに街の中心があったらしいが、人口増加とそれに伴う畑の増設により、今の形になったのだとか。
「わぁ、なんだかおいしそうな匂いがいろんなところからするねぇ!!」
街を歩いていると、オティスが嬉しそうにそんなことを言う。
そんなオティスに笑みを向けながら、アイリーンが説明をする。
「この街は農作物で有名ですが、近くの河川が運河の役目をしているため、色々な品が集まる中継地でもあります。様々な食材を用いた料理が楽しめるはずですよ」
「そうなんだ! 前来たときはそれどころじゃなかったから。今日からは色々と楽しみが増えるねぇ!」
「ははは。まずは楽しく食事が出来るように、ギルドの仕事をきちんとこなさないとな。特に私とオティスはダンジョンの探索者だったんだから、新しく出来ることを探さないと」
「えー。僕はほら。マスターに貸してるスライムがきちんと仕事してくれてるから。ソフィアくらいじゃない? ここでの仕事がまだ決まってないの」
オティスに言われ、ソフィアは言葉を詰まらせる。
確かに、探索者だった二人はダンジョンが無いこのフィナリスで、どんな仕事をやってもらうかまだ未決定だ。
とは言っても、ダンジョン探索で鍛えたその身体一つで、色々なことが出来ると思ってあまり心配はしていないが。
それよりもこの街で需要を満たす商品の開発を考えないといけないかもしれない。
「着きました。ここが、私たちの新しいギルド舎です。少し古い建物でしたが、改修は済んでいますから安心してくださいね」
「わぁ! 凄い!! 古いだなんて全然分からないよ! 新築みたいじゃない!?」
オティスははしゃぎながら、一番乗りだとギルド舎へ駆けていく。
俺たちもそれを笑いながら、後に続いた。
「おお。意外と広いねぇ。こりゃあいい。あたしの工房はどっちだい?」
「カーラさんの工房は右の扉を抜けて突き当りです。すでに炉は作られてますから」
「オティス。俺の工房はこっちだ。スライムたちの移動を頼むよ。それにしても、随分いい仕事をしてくれたな。前来た時とは見違えるようだよ」
「ええ。ヴァイト伯爵の働きかけがあったみたいですね。後でお礼を言っておいてください」
そういえば、ヴァイト伯爵にも挨拶をしにいかなければいけないな。
ギルドの方の手続きはアイリーンがやってくれているから問題ないだろう。
「それじゃあ、俺はヴァイト伯爵の所へ行ってこようかな。あ、そうだ。ソフィア。一緒に来てくれる? この前、今度来るときはソフィアを連れてきて欲しいってヴァイト伯爵に頼まれてたんだ」
「うん? 私が? 構わないが、何の用事だ?」
「さあ。要件はソフィアが来た時に伝えるって言っていたけど」
「そうか。なんだろうな。まぁ、さっき言ったように特にやることがまだないからな」
早速俺はソフィアと二人でヴァイト伯爵の屋敷へと向かった。
門番に話しかけると、どうやら俺の顔を覚えていてくれたみたいで、真面目な顔から柔和な顔付きへと変化を見せる。
「ハンス様ですね? ヴァイト様から話は伺っております。今、案内の者を呼びますので、少々お待ちいただけますか?」
丁寧な挨拶の後、門番の一人が屋敷内に連絡を取りに向かう。
しばらくした後現れたのは、ぴったりとしたメイド服を着込んだ若い女性だった。
「リラと申します。ヴァイト様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
俺とソフィアは、リラの案内に従い屋敷内を歩き、やがて以前ヴァイト伯爵と会った時にも通された部屋の前に着く。
「ヴァイト様はすでに中でいらっしゃいます」
そう言いながら部屋の中へとリラは入っていく。
それに続き、中に入ると、中央のソファに腰掛けるヴァイト伯爵が目に入った。
「おお。ハンス殿。予定通り今日からこの街で新しくギルドを発足させるのだったな。まぁ、座りなさい」
「ヴァイト伯爵。言われた通りソフィアを連れてきました。それと、失礼ですが、そちらの方は?」
俺の質問に、ヴァイト伯爵はすでに部屋に居るもう一人の男性へと目を向けた。
その男は、武具を身に着け、ヴァイト伯爵の後ろに佇んでいる。
「ああ、この者は当家の兵士長を務めるモルガンという。今回ソフィア殿に相談したいことがあって、同席させているのだ」
ヴァイト伯爵がそう言うと、モルガンは俺たちに向かって一礼をした。
飛竜の上から眺めた眼下に広がる景色に、他のメンバーと違って初めてフィナリスに訪れるカーラがそんな感想を言う。
たしかに、様々な意味でダンジョンを中心に発展していった街オリジンとは、これから向かう街フィナリスは大きく異なる。
フィナリスの主な産業は二つ。
一つは農業で、もう一つは鉱山からの採掘だ。
街を中心に北側には様々な鉱石が採れる山脈が連なり、その山から流れてくる川を囲むように農耕地帯が広がっている。
その生産量は国の中でも随一と言われ、近隣のみならず広い地域にその農作物や金属が運ばれるんだとか。
「それにしてもカーラ。本当に良かったのかい? オリジンの街とは違って、こっちでは武具なんかあまり需要がなさそうだけど」
「言っただろう? あたしはハンスの精錬したカネしかもう打つ気はないって。武具が要らないなら、農具でも何でも打ちゃあいいのさ」
そんな話をしていたら、飛竜は下降を始めた。
どうやらもうすぐ着くらしい。
「さぁ、みなさん。これからは少し歩きますが、まずは新しいギルド舎に向かいましょう」
アイリーンに促され、俺たちは新しく購入したギルド舎へと向かう。
俺とアイリーンが選んだ建物だが、少し古かったため改修をお願いしている。
完成後の建物を見るのは、アイリーン以外俺も初めてだった。
フィナリスの街は、中心にヴァイト伯爵の屋敷があり、それを囲む様に市街地が形成されている。
もともとは利便性の関係から街の西に広がる河川の近くに街の中心があったらしいが、人口増加とそれに伴う畑の増設により、今の形になったのだとか。
「わぁ、なんだかおいしそうな匂いがいろんなところからするねぇ!!」
街を歩いていると、オティスが嬉しそうにそんなことを言う。
そんなオティスに笑みを向けながら、アイリーンが説明をする。
「この街は農作物で有名ですが、近くの河川が運河の役目をしているため、色々な品が集まる中継地でもあります。様々な食材を用いた料理が楽しめるはずですよ」
「そうなんだ! 前来たときはそれどころじゃなかったから。今日からは色々と楽しみが増えるねぇ!」
「ははは。まずは楽しく食事が出来るように、ギルドの仕事をきちんとこなさないとな。特に私とオティスはダンジョンの探索者だったんだから、新しく出来ることを探さないと」
「えー。僕はほら。マスターに貸してるスライムがきちんと仕事してくれてるから。ソフィアくらいじゃない? ここでの仕事がまだ決まってないの」
オティスに言われ、ソフィアは言葉を詰まらせる。
確かに、探索者だった二人はダンジョンが無いこのフィナリスで、どんな仕事をやってもらうかまだ未決定だ。
とは言っても、ダンジョン探索で鍛えたその身体一つで、色々なことが出来ると思ってあまり心配はしていないが。
それよりもこの街で需要を満たす商品の開発を考えないといけないかもしれない。
「着きました。ここが、私たちの新しいギルド舎です。少し古い建物でしたが、改修は済んでいますから安心してくださいね」
「わぁ! 凄い!! 古いだなんて全然分からないよ! 新築みたいじゃない!?」
オティスははしゃぎながら、一番乗りだとギルド舎へ駆けていく。
俺たちもそれを笑いながら、後に続いた。
「おお。意外と広いねぇ。こりゃあいい。あたしの工房はどっちだい?」
「カーラさんの工房は右の扉を抜けて突き当りです。すでに炉は作られてますから」
「オティス。俺の工房はこっちだ。スライムたちの移動を頼むよ。それにしても、随分いい仕事をしてくれたな。前来た時とは見違えるようだよ」
「ええ。ヴァイト伯爵の働きかけがあったみたいですね。後でお礼を言っておいてください」
そういえば、ヴァイト伯爵にも挨拶をしにいかなければいけないな。
ギルドの方の手続きはアイリーンがやってくれているから問題ないだろう。
「それじゃあ、俺はヴァイト伯爵の所へ行ってこようかな。あ、そうだ。ソフィア。一緒に来てくれる? この前、今度来るときはソフィアを連れてきて欲しいってヴァイト伯爵に頼まれてたんだ」
「うん? 私が? 構わないが、何の用事だ?」
「さあ。要件はソフィアが来た時に伝えるって言っていたけど」
「そうか。なんだろうな。まぁ、さっき言ったように特にやることがまだないからな」
早速俺はソフィアと二人でヴァイト伯爵の屋敷へと向かった。
門番に話しかけると、どうやら俺の顔を覚えていてくれたみたいで、真面目な顔から柔和な顔付きへと変化を見せる。
「ハンス様ですね? ヴァイト様から話は伺っております。今、案内の者を呼びますので、少々お待ちいただけますか?」
丁寧な挨拶の後、門番の一人が屋敷内に連絡を取りに向かう。
しばらくした後現れたのは、ぴったりとしたメイド服を着込んだ若い女性だった。
「リラと申します。ヴァイト様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
俺とソフィアは、リラの案内に従い屋敷内を歩き、やがて以前ヴァイト伯爵と会った時にも通された部屋の前に着く。
「ヴァイト様はすでに中でいらっしゃいます」
そう言いながら部屋の中へとリラは入っていく。
それに続き、中に入ると、中央のソファに腰掛けるヴァイト伯爵が目に入った。
「おお。ハンス殿。予定通り今日からこの街で新しくギルドを発足させるのだったな。まぁ、座りなさい」
「ヴァイト伯爵。言われた通りソフィアを連れてきました。それと、失礼ですが、そちらの方は?」
俺の質問に、ヴァイト伯爵はすでに部屋に居るもう一人の男性へと目を向けた。
その男は、武具を身に着け、ヴァイト伯爵の後ろに佇んでいる。
「ああ、この者は当家の兵士長を務めるモルガンという。今回ソフィア殿に相談したいことがあって、同席させているのだ」
ヴァイト伯爵がそう言うと、モルガンは俺たちに向かって一礼をした。
1
新作ハイファンタジーの投稿を開始しました!
子育てほのぼの物語です! 下記リンクから飛べます!!
『 平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした 』
子育てほのぼの物語です! 下記リンクから飛べます!!
『 平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした 』
お気に入りに追加
4,664
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。