ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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第3章

第74話【フィナリス】

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「これがフィナリスか。上から見るだけでもオリジンとは全然違うねぇ」

 飛竜の上から眺めた眼下に広がる景色に、他のメンバーと違って初めてフィナリスに訪れるカーラがそんな感想を言う。
 たしかに、様々な意味でダンジョンを中心に発展していった街オリジンとは、これから向かう街フィナリスは大きく異なる。

 フィナリスの主な産業は二つ。
 一つは農業で、もう一つは鉱山からの採掘だ。

 街を中心に北側には様々な鉱石が採れる山脈が連なり、その山から流れてくる川を囲むように農耕地帯が広がっている。
 その生産量は国の中でも随一と言われ、近隣のみならず広い地域にその農作物や金属が運ばれるんだとか。

「それにしてもカーラ。本当に良かったのかい? オリジンの街とは違って、こっちでは武具なんかあまり需要がなさそうだけど」
「言っただろう? あたしはハンスの精錬したカネしかもう打つ気はないって。武具が要らないなら、農具でも何でも打ちゃあいいのさ」

 そんな話をしていたら、飛竜は下降を始めた。
 どうやらもうすぐ着くらしい。

「さぁ、みなさん。これからは少し歩きますが、まずは新しいギルド舎に向かいましょう」

 アイリーンに促され、俺たちは新しく購入したギルド舎へと向かう。
 俺とアイリーンが選んだ建物だが、少し古かったため改修をお願いしている。
 完成後の建物を見るのは、アイリーン以外俺も初めてだった。

 フィナリスの街は、中心にヴァイト伯爵の屋敷があり、それを囲む様に市街地が形成されている。
 もともとは利便性の関係から街の西に広がる河川の近くに街の中心があったらしいが、人口増加とそれに伴う畑の増設により、今の形になったのだとか。

「わぁ、なんだかおいしそうな匂いがいろんなところからするねぇ!!」

 街を歩いていると、オティスが嬉しそうにそんなことを言う。
 そんなオティスに笑みを向けながら、アイリーンが説明をする。

「この街は農作物で有名ですが、近くの河川が運河の役目をしているため、色々な品が集まる中継地でもあります。様々な食材を用いた料理が楽しめるはずですよ」
「そうなんだ! 前来たときはそれどころじゃなかったから。今日からは色々と楽しみが増えるねぇ!」

「ははは。まずは楽しく食事が出来るように、ギルドの仕事をきちんとこなさないとな。特に私とオティスはダンジョンの探索者だったんだから、新しく出来ることを探さないと」
「えー。僕はほら。マスターに貸してるスライムがきちんと仕事してくれてるから。ソフィアくらいじゃない? ここでの仕事がまだ決まってないの」

 オティスに言われ、ソフィアは言葉を詰まらせる。
 確かに、探索者だった二人はダンジョンが無いこのフィナリスで、どんな仕事をやってもらうかまだ未決定だ。

 とは言っても、ダンジョン探索で鍛えたその身体一つで、色々なことが出来ると思ってあまり心配はしていないが。
 それよりもこの街で需要を満たす商品の開発を考えないといけないかもしれない。

「着きました。ここが、私たちの新しいギルド舎です。少し古い建物でしたが、改修は済んでいますから安心してくださいね」
「わぁ! 凄い!! 古いだなんて全然分からないよ! 新築みたいじゃない!?」

 オティスははしゃぎながら、一番乗りだとギルド舎へ駆けていく。
 俺たちもそれを笑いながら、後に続いた。

「おお。意外と広いねぇ。こりゃあいい。あたしの工房はどっちだい?」
「カーラさんの工房は右の扉を抜けて突き当りです。すでに炉は作られてますから」

「オティス。俺の工房はこっちだ。スライムたちの移動を頼むよ。それにしても、随分いい仕事をしてくれたな。前来た時とは見違えるようだよ」
「ええ。ヴァイト伯爵の働きかけがあったみたいですね。後でお礼を言っておいてください」

 そういえば、ヴァイト伯爵にも挨拶をしにいかなければいけないな。
 ギルドの方の手続きはアイリーンがやってくれているから問題ないだろう。

「それじゃあ、俺はヴァイト伯爵の所へ行ってこようかな。あ、そうだ。ソフィア。一緒に来てくれる? この前、今度来るときはソフィアを連れてきて欲しいってヴァイト伯爵に頼まれてたんだ」
「うん? 私が? 構わないが、何の用事だ?」

「さあ。要件はソフィアが来た時に伝えるって言っていたけど」
「そうか。なんだろうな。まぁ、さっき言ったように特にやることがまだないからな」

 早速俺はソフィアと二人でヴァイト伯爵の屋敷へと向かった。
 門番に話しかけると、どうやら俺の顔を覚えていてくれたみたいで、真面目な顔から柔和な顔付きへと変化を見せる。

「ハンス様ですね? ヴァイト様から話は伺っております。今、案内の者を呼びますので、少々お待ちいただけますか?」

 丁寧な挨拶の後、門番の一人が屋敷内に連絡を取りに向かう。
 しばらくした後現れたのは、ぴったりとしたメイド服を着込んだ若い女性だった。

「リラと申します。ヴァイト様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」

 俺とソフィアは、リラの案内に従い屋敷内を歩き、やがて以前ヴァイト伯爵と会った時にも通された部屋の前に着く。

「ヴァイト様はすでに中でいらっしゃいます」

 そう言いながら部屋の中へとリラは入っていく。
 それに続き、中に入ると、中央のソファに腰掛けるヴァイト伯爵が目に入った。

「おお。ハンス殿。予定通り今日からこの街で新しくギルドを発足させるのだったな。まぁ、座りなさい」
「ヴァイト伯爵。言われた通りソフィアを連れてきました。それと、失礼ですが、そちらの方は?」

 俺の質問に、ヴァイト伯爵はすでに部屋に居るもう一人の男性へと目を向けた。
 その男は、武具を身に着け、ヴァイト伯爵の後ろに佇んでいる。

「ああ、この者は当家の兵士長を務めるモルガンという。今回ソフィア殿に相談したいことがあって、同席させているのだ」

 ヴァイト伯爵がそう言うと、モルガンは俺たちに向かって一礼をした。
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平穏時代の最強賢者〜伝説を信じて極限まで鍛え上げたのに、十回転生しても神話の魔王は復活しないので、自分で一から育てることにした
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