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第2章

第35話【まさかのボスモンスター】

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 ひとまず俺らパーティは俺のレベルキャップ解放のクエストを受けることにした。
 知らなかったが、同じ大学のヒミコとミーシャは早々に課題など終わらして、ゲームを楽しんでいたらしい。

 会っても全然ゲームの話なんてしていなかったから、てっきり俺と一緒かと思っていた。
 だがヒミコなりに俺に気を使ってくれてたんだと分かると、気恥しい感じになる。

「生産職のレベルキャップ解放はまた違うんだよな?」

 俺や戦闘職の場合は毎回ボスモンスターを倒すクエストクリアが条件だが、生産職もそうだとするとバランス的に問題がありそうだ。
 気になった時は素直に聞くのが一番いい、調べろと言われたら調べるけどな。

「ええ。生産職の場合は、特定のアイテム製作達成とか、レベルが低い時などはお使いクエストみたいなものもありますわね」
「防具や武器だと一つ作ればいい場合も多いけど、【薬師】は数が多いから面倒なのよねー」

「武器と薬では制作時間も必要な素材にも雲泥の差があるのだから仕方ないだろう。逆に渡して消えるクエスト武器を何個も作るなんて、気が狂うぞ?」
「あ! ちょっとそれ【薬師】を下に見てない? 薬だってものによっちゃあ集めるの大変な素材だってあるんだからね!」

 やっぱり生産職はボスモンスターを倒すようなクエストでは無いらしい。
 それにしてもひと口で生産職と言っても結構違いがあるんだな。

 戦闘職だって色々あるんだからそりゃそうか。
 まぁ、【商人】は生産職でも戦闘職でもないみたいだけどな。

「そう言えば、今まで戦闘職はレベルキャップ解放のクエストは同じものだったみたいですが、アップデート後のは職業毎に違うみたいですよ?」
「そうそう! 60レベルのキャップ解放は、どれも似たような攻撃を仕掛けてくるボスモンスターだって」

「いや、ちょっと待てよ? それってつまり剣士のボスは剣士、魔道士のボスは魔道士ってことだよな?」
「なんだ、ショーニン。そんな当たり前のことをわざわざ言って。梅雨のせいで頭にカビでも生えたか?」

 頭にカビ生えたらやばいだろ!
 いや、万年床に寝てて、背中にカビが生えた後輩なら知ってるけどな……。

 そうじゃない。そんなことはどうでもいい。
 それにしてもトンヌラって、意外と毒舌か?

 まぁ、バカにしているって言うよりはネタを振ってるって感じで嫌な感じはしないからいいけどな。
 しかし、つまり俺のレベルキャップ解放クエストのボスモンスターは、【商人】ってことになる。

「まぁ、行けば分かるか。クエスト受けるNPCは一緒なんだよな?」
「そうよ。あー、ショーニンってまだ新しく出来た街、リーブルに行ったことないんだっけ? まずはそこからかな」

 新しい街か。
 一度行ったこともある街ならポーターでひとっ飛びできるが、行ったことがない場所は無理だ。

 すでにクエストをクリアしている三人は行ってるだろうが、再開したばかりの俺は当然の事ながら行ったことがない。
 たどり着くには地道に移動しなければならなかった。

「遠いのか?」
「いや。そこまでだな。まぁ、ゲームだしな。移動にばかり時間をかけてもしょうがあるまい。寄り道さえしなければすぐに着く」

 トンヌラの言うのは当たり前といえば当たり前だな。
 物語の世界のファンタジーの世界のように、街から街まで徒歩だと一週間かかる、なんてことになったら誰も遊ばない。

「それじゃあ早速向かうか。悪いけど道案内頼むよ」
「ええ! 任してくださいね!」

 ヒミコが張り切った声を上げる。
 さて、【物好き】パーティの冒険開始だ。



「へー。意外と生産職も戦えるんだな?」
「アップデートのおかげだな。パーティを組むことを推奨したから、生産職も戦いに参加しようと思えばできるっていう風に、スキルがかなり増えたな」

 リーブルに向かう道中、それぞれがどんなことができるのか一通り見せ合うことにした。
 モンスターが出ないわけじゃないが、横道にそれたりダンジョンの中に入ったりしなければ、遭遇する敵の強さは大したことがなかった。

 この辺りも最高レベルだけが集まるだけじゃなく、中級のプレイヤーも到達が可能にするための配慮だな。
 せっかくアップデートしたのに、前コンテンツをクリアしないと次が全く遊べないんじゃあ面白み半減だからな。

 自由が売りのこのゲームで、必要最低限以上の道筋を作るのは良くないって考えなんだろう。
 そもそもオンラインゲームが初めての俺だが、どっちがプレイヤーとして楽しいかって聞かれたら、自由が多い方がいいに決まってる。

 ちなみに【武器職人】のトンヌラは、いくつかの攻撃スキルの他に、味方の攻撃力を上げるスキルを持っていた。
 一方【防具職人】のヒミコは味方の防御力を上げるスキルなんてのを持っている。

 なかなか使い勝手がいいのが【薬師】のミーシャで、スキルを使う度に素材アイテムや薬自体を消費することになるが、味方の回復や強化、更には敵に様々な状態異常の付与や弱体化など万能な性能を見せた。

「意外と強いんじゃないのか? このパーティー」
「いやいや。正直、ショーニン。流石というかなんというか。お前が居れば俺たちなんか要らんだろ」

「そんなことないだろ? 【複利計算】が無くなったからせいで自前で瞬発力を上げる方法無いしな。それにパーティ特典の効果だって馬鹿にならないし。しかもまだ二人も枠が空いてるから。色々楽しそうだろ?」
「確かにそーね。まぁ、こんな変な構成のパーティにわざわざ入るなんていう物好きはそうそう居ないだろうけど」

 そんな話をしながら進んでいると、目的の街リーブルに到着した。
 次からはすぐに飛べるよう、忘れずにポーターに行き記録を取る。

 リーブルの街並みは端的に言って面白い。
 本の様な形をした建物が、ずらりと並んでいる。

 まるで小人になって大きな図書館にでも迷い込んだ様な錯覚を覚える。
 そうヒミコに聞いたら、リーブルというのは『本』という外国語なんだとか。

「早速クエストを受けようか。あいつだったな?」

 教えてもらったNPCに話しかけクエストを受ける。
 内容は『悪徳商人を懲らしめる』というざっくりしたもの。

 指定されたボスモンスターがいるダンジョンに進むと、そこは商館のような場所だった。
 出てくる敵はどれも俺と同じ亜人種で、色んな職業が居た。

 アップデート後も変わらぬ火力が出るのと、更に他の三人の補助や攻撃もあり、サクサクと進みやがてボスモンスターの場所にたどり着く。
 ただ、商館でボスモンスター役の悪徳商人にこき使われているという設定なのか、所々に出現するNPCはどれもこれも人間と同じ見た目だったのが気になった。

「よし。行くぞ。はてさて。どんな感じのボスモンスターなのかな? まぁ、悪徳商人だって言うんだから【商人】なんだろうけど」

 他の扉に比べて重厚な作りの木でできた扉を開けるとそこに目的のボスが居た。
 俺は一目見て、驚きの声を上げる。

 他の三人も空いた口が塞がらない様子だ。
 そりゃそうだろ。

「まじか……これがここのボスモンスター【アキンドー】……ってまんま俺じゃねぇか!!」

 目の前に居たのは、ドッペルゲンガーを使った訳でもないのに現れた、見た目も装備も俺と瓜二つの【悪徳商人】。
 唯一の違いは黒い俺を反転したように、体毛も装備も白に染まっていることだけだった。

☆☆☆

いつもインフィニティ・オンラインをお楽しみいただきありがとうございます。
少し更新に時間が空いてしまいましたが、今回も無事更新することが出来ました。

ところで、今回出現したボスモンスター【アキンドー】ですが、以前募集したこれから出現するボスモンスター募集で案を出していただいたものを元に作っています。

ちなみに提案いただいたのは
サーバー名:ナロー
プレイヤー名:小倉あん様
ありがとうございました!!

今後もちょこちょここういうイベントを開催しようと思っていますので、こぞって参加いただけたらと思います。
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