7 / 27
7流されるまま……
しおりを挟む
「真珠はとてもきれいだね。俺はそんな真珠と付き合えて本当に幸せ者だ」
「アリガトウゴザイマス」
あれから、私はやばい男と知りながら、マッチングアプリで出会った葛谷真(くずやしん)という男と付き合っていた。
出会って2回目の夜、私たちは一夜をともにした。彼は行為の最中、私をきれいだと褒め称えた。確かに私はモデルをしたこともあり、外見だけは人に誇れると言ってもいい。そのため、きれいだと褒められてもあまり心に響かない。私にとって、きれいだと言われるのは当たり前のことである。
夜が明けた次の日、彼は私に正式に付き合いたいと告白してきた。ここで断ればよかったものの、私は昨晩の疲れから思考が鈍っていて、つい、告白を受け入れてしまった。
そこからはなし崩し的に付き合う事になり、弟がいる手前、なかなか彼との別れを切り出せなくなってしまった。彼は私のあいまいな態度を肯定と受け止め、付き合い始めて3か月後、同棲をしないかと持ち掛けてきた。
夕食を共にして、ホテルで一夜を過ごした日のことだ。行為が終わり、ベッドで横になっていたら、彼が起き上がり、唐突に話し始めた。
「そろそろ、付き合い始めて3か月が経つね。どうかな、俺は真珠とこれからもずっと一緒に居たいと思っているんだけど」
「はあ」
「そこで考えたんだけど、僕たち、同棲したらどうかと思って」
「同棲」
「そう、こうやって、休日に会うのもいいけど、俺は毎日、真珠と顔を合わせたいなって」
「少し、考えさせてください」
「そうだね、俺達にとって、大事な話だからね。今日も楽しかったよ。それと、今日も真珠はとてもきれいだった」
彼は、付き合い始めてすぐに私に対して遠慮がなくなり、敬語だった話し方が砕けた話し方に変化した。恐らく、こちらが普段の話し方なのだろう。そして、私の事を呼び捨てするようになった。しかし、私は話し方を変えることはなかった。そもそも、別れようと思っていた相手に馴れ馴れしく話しかけられるはずもない。
さて、付き合って3か月も経てば、もうすぐ30歳になる私も、すでに30代の彼も結婚が視野に入ってくる。同棲をすることで、お互いの良いところも悪いところも見えてくる。結婚を考えているのなら、同棲は避けては通れない道だろう。
とはいえ、私は彼との将来は考えていない。3か月も優柔不断に彼と会い続けた私は、彼に期待を持たせている。それをはっきりと断らなくては、このまま同棲が始まり、最終的に結婚を持ち掛けられそうだ。
別れるなら、これが最後のチャンスだ。しかし、いきなり同棲を断り、別れるなんて話をしても、彼は納得しないだろう。考えるふりをして、次回、やんわりとお断りしよう。
そんなことを思っていたが、結局、私は流されるままに彼との同棲を始めてしまった。理由は簡単だ。
「ねえ、姉ちゃん、今の彼とはうまくいっているの?」
「私も気になります。お姉さんには幸せになってもらいたいです」
弟とその恋人であるアリアさんのせいだ。彼らはことあるごとに、私と彼の仲の進捗状況を聞いてくる。そして、決まって2人はその時、甘々な雰囲気を醸し出しているのだ。そのため、意地になって彼との付き合いを続けている。
(だって、言い出しにくい。彼と別れた、なんて言ったら、『今度は僕たちが姉ちゃんの恋人を見つけるよ』って張り切りそうだし)
ということで、本当は自分の弱い心が原因なのだが、弟たちのせいにして、今日まで彼とお付き合いを続け、ついには同棲することになってしまった。
弟たちは、自分たちのせいで私を不幸せにしていることをわかっているだろうか。過剰な心配が私をどんどん、幸せから遠ざけていることに気付いてほしい。
こうして、私と彼は同棲を始めることになったが、彼はとんでもないクズ男だと発覚するのに時間はかからなかった。
『今日は会社の飲み会で遅くなるから、夕飯はいらない』
『今日から出張だから、家に帰らない』
『会社の同期の家で飲んでくる』
『結婚式に参加してくる』
同棲を初めてすぐは、彼は家事を積極的に手伝ってくれた。私も彼も仕事をしているので、手伝うという表現はおかしいが、それでも役割分担して協力して家事を行えていたように思う。
しかし、同棲を初めて1か月を過ぎた辺りから、彼の帰りが遅くなり始めた。そして、それと同時に家事をすることがなくなった。
「アリガトウゴザイマス」
あれから、私はやばい男と知りながら、マッチングアプリで出会った葛谷真(くずやしん)という男と付き合っていた。
出会って2回目の夜、私たちは一夜をともにした。彼は行為の最中、私をきれいだと褒め称えた。確かに私はモデルをしたこともあり、外見だけは人に誇れると言ってもいい。そのため、きれいだと褒められてもあまり心に響かない。私にとって、きれいだと言われるのは当たり前のことである。
夜が明けた次の日、彼は私に正式に付き合いたいと告白してきた。ここで断ればよかったものの、私は昨晩の疲れから思考が鈍っていて、つい、告白を受け入れてしまった。
そこからはなし崩し的に付き合う事になり、弟がいる手前、なかなか彼との別れを切り出せなくなってしまった。彼は私のあいまいな態度を肯定と受け止め、付き合い始めて3か月後、同棲をしないかと持ち掛けてきた。
夕食を共にして、ホテルで一夜を過ごした日のことだ。行為が終わり、ベッドで横になっていたら、彼が起き上がり、唐突に話し始めた。
「そろそろ、付き合い始めて3か月が経つね。どうかな、俺は真珠とこれからもずっと一緒に居たいと思っているんだけど」
「はあ」
「そこで考えたんだけど、僕たち、同棲したらどうかと思って」
「同棲」
「そう、こうやって、休日に会うのもいいけど、俺は毎日、真珠と顔を合わせたいなって」
「少し、考えさせてください」
「そうだね、俺達にとって、大事な話だからね。今日も楽しかったよ。それと、今日も真珠はとてもきれいだった」
彼は、付き合い始めてすぐに私に対して遠慮がなくなり、敬語だった話し方が砕けた話し方に変化した。恐らく、こちらが普段の話し方なのだろう。そして、私の事を呼び捨てするようになった。しかし、私は話し方を変えることはなかった。そもそも、別れようと思っていた相手に馴れ馴れしく話しかけられるはずもない。
さて、付き合って3か月も経てば、もうすぐ30歳になる私も、すでに30代の彼も結婚が視野に入ってくる。同棲をすることで、お互いの良いところも悪いところも見えてくる。結婚を考えているのなら、同棲は避けては通れない道だろう。
とはいえ、私は彼との将来は考えていない。3か月も優柔不断に彼と会い続けた私は、彼に期待を持たせている。それをはっきりと断らなくては、このまま同棲が始まり、最終的に結婚を持ち掛けられそうだ。
別れるなら、これが最後のチャンスだ。しかし、いきなり同棲を断り、別れるなんて話をしても、彼は納得しないだろう。考えるふりをして、次回、やんわりとお断りしよう。
そんなことを思っていたが、結局、私は流されるままに彼との同棲を始めてしまった。理由は簡単だ。
「ねえ、姉ちゃん、今の彼とはうまくいっているの?」
「私も気になります。お姉さんには幸せになってもらいたいです」
弟とその恋人であるアリアさんのせいだ。彼らはことあるごとに、私と彼の仲の進捗状況を聞いてくる。そして、決まって2人はその時、甘々な雰囲気を醸し出しているのだ。そのため、意地になって彼との付き合いを続けている。
(だって、言い出しにくい。彼と別れた、なんて言ったら、『今度は僕たちが姉ちゃんの恋人を見つけるよ』って張り切りそうだし)
ということで、本当は自分の弱い心が原因なのだが、弟たちのせいにして、今日まで彼とお付き合いを続け、ついには同棲することになってしまった。
弟たちは、自分たちのせいで私を不幸せにしていることをわかっているだろうか。過剰な心配が私をどんどん、幸せから遠ざけていることに気付いてほしい。
こうして、私と彼は同棲を始めることになったが、彼はとんでもないクズ男だと発覚するのに時間はかからなかった。
『今日は会社の飲み会で遅くなるから、夕飯はいらない』
『今日から出張だから、家に帰らない』
『会社の同期の家で飲んでくる』
『結婚式に参加してくる』
同棲を初めてすぐは、彼は家事を積極的に手伝ってくれた。私も彼も仕事をしているので、手伝うという表現はおかしいが、それでも役割分担して協力して家事を行えていたように思う。
しかし、同棲を初めて1か月を過ぎた辺りから、彼の帰りが遅くなり始めた。そして、それと同時に家事をすることがなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」
帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。
混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。
ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。
これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる