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「ジリリリリリ」
目覚ましの音で目が覚める。目を開けると、そこには見慣れた自分の部屋の天井があった。ベッドから起き上がり辺りを見渡しても、自分の部屋の光景が広がるばかりである。カーテンの隙間から光が漏れている。どうやら、朝になったようだ。時刻を確認すると、6時半を過ぎていて、大学の一限目を受けるためには起きなければならない時間だ。
「あれ、なんで私、泣いているんだろ」
目の下が濡れているなと思って手で拭うが、新たに目から涙が出てくる。そのため、手だけでは拭いきれずに頬が濡れていく。どうしてこんなに悲しい気持ちになっているのだろうか。しばらく考えていたら、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
家に居るのは、私と居候している九尾たちだけだ。寝起きでパジャマのままだが構わない。私が入室を許可すると、ドアを開けて遠慮がちに翼君が顔を出す。その後ろには狼貴君と九尾の姿があった。
「そろそろ起きないと、大学に遅刻するかと思って起こしに来たんですけど……。な、なんで泣いているんですか?」
「嫌な夢でも見たのか?」
私が泣いていることに気付いたのか、翼君と狼貴君が慌てて部屋に入ってくる。そして心配そうに私の顔を覗き込んできた。いつもなら、彼らのケモミミ少年姿を見るだけで悲しみなど簡単に消し飛ぶのに、今日はなぜか涙が止まらず、悲しい気持ちがなくなることもなかった。
「ふむ、今日は大学を休んだ方がよさそうだな。蒼紗、その夢が本当なら、病院に急いだ方がいい」
「やっぱり、私が悲しい気持ちになっているのは夢のせい、ということですか?ええと、でも、大学を休むわけには」
「大学とお主の見た夢、どちらが大事かなんて、考えなくてもわかるだろう?」
翼君と狼貴君は私が泣いていることを心配してくれたが、九尾だけは勝手に私の心を読み、涙の理由に納得して頷いている。その上で、私に問いかけてくる。
夢の内容を今さながらに思い出す。そうだ、私は荒川結女と病室で話していた。彼女は自分の死が近いことを知り、私に最期の言葉と称して昔話をしていた。その途中で夢から目覚めたのだ。夢から覚める直前、何か重要なことを言っていた気がするが、何を言っていたのだろうか。そこだけが思い出せない。
今朝見た夢が予知夢だとしたら、確かに大学に行っている場合ではない。九尾の言う通り、大学より大事なのは今朝見た夢である。今日は大学を休んだ方がいいだろう。
「わかりました。ジャスミンたちに連絡を入れておきます」
とりあえず、外出することは確定なので、九尾たちを部屋から追い出す。彼らは特に異論を唱えることなく、素直に部屋から出ていく。ベッドわきに置かれたスマホに手を伸ばし、急いでジャスミンと綾崎さんに連絡を入れる。すでに大学に行く支度をしているのか、メッセージは既読になることはなかった。
「病院か……」
私が病院に顔を出すことで、彼女が死んでしまったら。夢は彼女との会話の途中で終わってしまった。そのため、それ以降のことはどうなるかわからない。
「私の行動が彼女を死に追い詰めているとしたら……」
無意識に出た言葉は誰に聞かれるでもなく、静かな部屋に響き渡る。つい、口に出してしまったことを後悔する。自分の言葉が本当になってしまうかもしれないと恐怖を覚える。とはいえ、もしそうだとして、すでに彼女の寿命はそう長くはない。残り5年ないかもしれない。
未来など誰にもわからない。私の予知夢だって完全なものでもない。私はパジャマから灰色のTシャツと七分丈のジーンズに着替え部屋を出る。
彼女に会う覚悟はできた。どのみち、人間の命は有限で、いずれ死を迎えるのだ。だったら、それが早いか遅いかだけの違いである。私みたいな例外を除けば、死は皆のもとに訪れる。だったら、私のせいでと責める必要はないのだと開き直ることにした。
「おはようございます。今日はいい天気で、お見舞い日和ですね」
一階のリビングに入ると、すでに翼君と狼貴君が私のために朝食をセットしてくれていた。彼らはすでに朝食を食べてしまったのか、今日は食べないのか、私一人分しかテーブルに用意されていなかった。九尾たちは人間ではないので、食事も睡眠も必要ない。必要ないのに食事をするときもある。
九尾たちはソファに座ってくつろいでいた。私がにこやかに朝の挨拶をすると、なぜかぎょっとされてしまう。しかし、そんなことを気にすることなく、席に着く。そして、テーブルに置かれたトーストされた食パンにリンゴジャムを塗って食べ始める。ちらりと窓の外を見ると、まるで私の心の悲しみを現すかのような土砂降りの雨が降っていた。朝起きたときは降っていなかったはずだ。薄日が漏れていて、雨音もしなかったのに。天気予報はどうだっただろうか。
まあ、天気が良くても悪くても、荒川結女に会いに行くのは決定事項だから気にしないことした。
『急用が何か気になるけど、蒼紗のことだからよほどのことがあるんでしょうね。後でじっくり、その急用とやらを聞いてあげるから、楽しみにしていなさいね』
『急用が何か気になりますが、今は聞きません。また、大学に来た時に教えてください。大学の授業については心配しなくて大丈夫です!ちゃんと蒼紗さんの分のプリントをもらっておきます!』
朝食を食べ終え、スマホを確認すると、ジャスミンと綾崎さんから返信が来ていた。良い友達を持ったものだ。急用の理由を聞かれないことにほっとしてスマホを閉じる。
「準備ができたようだな」
歯をみがいて化粧をして、出かける準備完了だ。玄関に向かうと、すでに九尾たちが待っていた。彼らも私と一緒に出掛けるようだ。
目覚ましの音で目が覚める。目を開けると、そこには見慣れた自分の部屋の天井があった。ベッドから起き上がり辺りを見渡しても、自分の部屋の光景が広がるばかりである。カーテンの隙間から光が漏れている。どうやら、朝になったようだ。時刻を確認すると、6時半を過ぎていて、大学の一限目を受けるためには起きなければならない時間だ。
「あれ、なんで私、泣いているんだろ」
目の下が濡れているなと思って手で拭うが、新たに目から涙が出てくる。そのため、手だけでは拭いきれずに頬が濡れていく。どうしてこんなに悲しい気持ちになっているのだろうか。しばらく考えていたら、ドアをノックする音がした。
「どうぞ」
家に居るのは、私と居候している九尾たちだけだ。寝起きでパジャマのままだが構わない。私が入室を許可すると、ドアを開けて遠慮がちに翼君が顔を出す。その後ろには狼貴君と九尾の姿があった。
「そろそろ起きないと、大学に遅刻するかと思って起こしに来たんですけど……。な、なんで泣いているんですか?」
「嫌な夢でも見たのか?」
私が泣いていることに気付いたのか、翼君と狼貴君が慌てて部屋に入ってくる。そして心配そうに私の顔を覗き込んできた。いつもなら、彼らのケモミミ少年姿を見るだけで悲しみなど簡単に消し飛ぶのに、今日はなぜか涙が止まらず、悲しい気持ちがなくなることもなかった。
「ふむ、今日は大学を休んだ方がよさそうだな。蒼紗、その夢が本当なら、病院に急いだ方がいい」
「やっぱり、私が悲しい気持ちになっているのは夢のせい、ということですか?ええと、でも、大学を休むわけには」
「大学とお主の見た夢、どちらが大事かなんて、考えなくてもわかるだろう?」
翼君と狼貴君は私が泣いていることを心配してくれたが、九尾だけは勝手に私の心を読み、涙の理由に納得して頷いている。その上で、私に問いかけてくる。
夢の内容を今さながらに思い出す。そうだ、私は荒川結女と病室で話していた。彼女は自分の死が近いことを知り、私に最期の言葉と称して昔話をしていた。その途中で夢から目覚めたのだ。夢から覚める直前、何か重要なことを言っていた気がするが、何を言っていたのだろうか。そこだけが思い出せない。
今朝見た夢が予知夢だとしたら、確かに大学に行っている場合ではない。九尾の言う通り、大学より大事なのは今朝見た夢である。今日は大学を休んだ方がいいだろう。
「わかりました。ジャスミンたちに連絡を入れておきます」
とりあえず、外出することは確定なので、九尾たちを部屋から追い出す。彼らは特に異論を唱えることなく、素直に部屋から出ていく。ベッドわきに置かれたスマホに手を伸ばし、急いでジャスミンと綾崎さんに連絡を入れる。すでに大学に行く支度をしているのか、メッセージは既読になることはなかった。
「病院か……」
私が病院に顔を出すことで、彼女が死んでしまったら。夢は彼女との会話の途中で終わってしまった。そのため、それ以降のことはどうなるかわからない。
「私の行動が彼女を死に追い詰めているとしたら……」
無意識に出た言葉は誰に聞かれるでもなく、静かな部屋に響き渡る。つい、口に出してしまったことを後悔する。自分の言葉が本当になってしまうかもしれないと恐怖を覚える。とはいえ、もしそうだとして、すでに彼女の寿命はそう長くはない。残り5年ないかもしれない。
未来など誰にもわからない。私の予知夢だって完全なものでもない。私はパジャマから灰色のTシャツと七分丈のジーンズに着替え部屋を出る。
彼女に会う覚悟はできた。どのみち、人間の命は有限で、いずれ死を迎えるのだ。だったら、それが早いか遅いかだけの違いである。私みたいな例外を除けば、死は皆のもとに訪れる。だったら、私のせいでと責める必要はないのだと開き直ることにした。
「おはようございます。今日はいい天気で、お見舞い日和ですね」
一階のリビングに入ると、すでに翼君と狼貴君が私のために朝食をセットしてくれていた。彼らはすでに朝食を食べてしまったのか、今日は食べないのか、私一人分しかテーブルに用意されていなかった。九尾たちは人間ではないので、食事も睡眠も必要ない。必要ないのに食事をするときもある。
九尾たちはソファに座ってくつろいでいた。私がにこやかに朝の挨拶をすると、なぜかぎょっとされてしまう。しかし、そんなことを気にすることなく、席に着く。そして、テーブルに置かれたトーストされた食パンにリンゴジャムを塗って食べ始める。ちらりと窓の外を見ると、まるで私の心の悲しみを現すかのような土砂降りの雨が降っていた。朝起きたときは降っていなかったはずだ。薄日が漏れていて、雨音もしなかったのに。天気予報はどうだっただろうか。
まあ、天気が良くても悪くても、荒川結女に会いに行くのは決定事項だから気にしないことした。
『急用が何か気になるけど、蒼紗のことだからよほどのことがあるんでしょうね。後でじっくり、その急用とやらを聞いてあげるから、楽しみにしていなさいね』
『急用が何か気になりますが、今は聞きません。また、大学に来た時に教えてください。大学の授業については心配しなくて大丈夫です!ちゃんと蒼紗さんの分のプリントをもらっておきます!』
朝食を食べ終え、スマホを確認すると、ジャスミンと綾崎さんから返信が来ていた。良い友達を持ったものだ。急用の理由を聞かれないことにほっとしてスマホを閉じる。
「準備ができたようだな」
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