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4カラスの道案内
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「カーカー」
私たちが見つめていることに気付くと、カラスはバサバサと部屋の窓に近づいてきた。まるで私たちが自分に気付くまでじっと様子をうかがっていたかのようだ。
「また面倒な能力を持った奴だな。我たちの敵になるほどの物でもないが」
「僕、鳥って苦手なんだよね。特にカラス。真っ黒で気味悪いし」
九尾と七尾がなぜか率先して窓に近づき、そのまま窓を開けてしまった。文句を言う割に、その口調はやけに楽しそうだ。この状況を楽しんでいるのかもしれない。彼らにとって、人間のいざこざなど暇つぶしにしかならないのだろう。
「カーカー」
真っ黒な身体に真っ赤な瞳を持ったカラスが部屋の中に入ってくる。まるで私たちのことを値踏みするかのように天井をぐるりと一周旋回すると、雨水君の目の前に降り立った。
「お前が迎えに来たということは、唐洲も朔夜の採用の件に関わりたいから、協力を申し出たということか」
雨水君の言葉にカラスがまるで正解だというように一声鳴く。やはり、普通のカラスではないようだ。
「漫画や小説、アニメで見る『式神』とか『使い魔』とかでしょうか。それとも、動物を意のままに操る系の能力で、誰かが遠隔でカラスを操っている?」
「この状況でカラスの素性に興味を持つのはさすが蒼紗さんです」
「一気に緊張感がなくなる」
つい、思ったことが口から出てしまう。翼君と狼貴君に飽きられてしまうが、気になるのだから仕方ない。
「人の家に勝手に上がり込んできたからには、それ相応の対価を支払う覚悟はあるのだろうな」
「丸焼きになりたくなかったら、さっさと案内しなよ。愚図野郎」
私の興味本位な独り言を無視して、九尾がカラスをひとにらみする。瞳が金色に輝き、全身も光り出す。七尾も九尾と同じように身体が金色に光り出した。どちらも好戦的な様子だが、止める理由はない。
カラスの丸焼きがこの場にできるかと身構えていたら、七尾が急にカラスをひょいとつかみ、部屋から放り出してしまった。先ほどまでの好戦的な態度が一変、つまらなそうな態度に変わっている。自分から窓を開けて受け入れたのに、また外に出してしまう行動の意味がわからない。
「じゃあ、僕たちも行きましょう!」
なぜか、翼君が私たちにカラスの後を追うよう指示する。翼君の指示に従い、おとなしく九尾たちは私の部屋から出ていく。
「ちょ、ちょっと待ってください。すぐ出かける準備しますから」
彼らは人外でなおかつ男の子だ。化粧もいらないし、身だしなみにそこまで気を遣う必要はない。しかし、私は年若き女子大生である。部屋着の灰色のスウェット上下で、化粧もしていない顔で家を出るわけにはいかない。すでに雨水君にはすっぴんをさらしているが、それが出かけるのに化粧をしない理由にはならない。
「女は面倒な生き物だな。とはいえ、急ぐ必要はない。ゆっくり準備して家を出るがいい」
慌てて私が九尾たちに声をかけると、最後に部屋を出た九尾が振り返る。そして、意味深に笑っていた。待たせている身としてはゆっくり準備などしていられない。
部屋に一人取り残された私は、大急ぎで服を決め、一階の洗面所で化粧をする。面接ということなので、塾で来ているいつもの服装にした。白い半そでのカッターシャツに黒いスラックス。上に紺色のカーディガンを羽織る。
すでに家の中には誰もいなかった。九尾たちは外で私を待っているのだろう。
「いってきます」
靴を履き、玄関を出る際に誰もいない家に挨拶する。玄関の外では九尾たちが私を待っていた。出かけるということで、彼らの頭にもお尻にケモミミも尻尾も生えていなかった。そして、少年から青年へと姿を変え、ただのイケメンが四人となっていた。
「雨が止んでいますね」
家を出ると、雨は止んでいてうっすらと陽がさしていた。天気予報では今日一日雨だと言っていた。とはいえ、雨水君が来た時点で雨は止んでいた。いくら雨水君が晴れ男だとしてありえない現象だ。つまり、雨水君は。
「オレが能力を使っている。だから、朔夜が濡れる心配はない」
空を見上げて青空を眺めていたら、雨水君に声をかけられる。予想通り、雨水君は自分の能力を使っていた。
「それは助かります。本来なら出かける予定がなかった休日に出かけるんですから、雨が降っていないに越したことはありません」
「カーカー」
雨水君と話していると、自分の存在を主張するようにカラスが大きな声で鳴きだした。私たちはカラスの先導のもと、目的地である組合がある建物に向かうことにした。雨水君だって組合に所属しているのなら、当然、組合の本部の場所は知っているはずだ。しかし特に文句を言うことはなく、カラスに従って歩く私たちの後ろを追いかけるだけだった。
「まさか駅の近くのビルの中に入っているとは思いませんでした」
カラスが案内してくれたのは、私が大学の通学に使っている最寄り駅だった。駅の構内に入る入り口付近でカラスが旋回を始めたので、てっきり駅の中のビルに組合が入っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「違う。もしそうだとしたら、朔夜の身が危険すぎる」
「とはいえ、蒼紗の家がばれてしまったが、まあ、人間の記憶を操作することなど容易いことだ。問題はないだろう」
なるほど。確かに彼らの言う通りである。私が使う最寄り駅にそんなものがあったとしたら、九尾とともに生活している私が目をつけられないわけがない。
九尾はカラスに向けて手を伸ばす。すると、カラスが旋回をやめ、私たちの前からいなくなる。どこかに飛び去ってしまった。
「これで、あいつは持ち主のもとに帰るだろう。カラスの見た光景は、別の場所にすり替えておいた。まったく、カラスを見張りにつけられているなんて、お前はよほど組合から警戒されているようだな」
「まあ、オレは桜華の一番近くに居た人間だからな」
九尾と会話しながら雨水君は駅の構内に入っていく。私たちも雨水君に続いて中に入っていく。カラスの案内など必要なかったということか。ということは、先ほどまでの道案内は単なる茶番だったということだ。ここからは雨水君が案内してくれるだろう。
私はカバンに電車の定期券のパスケースをつけていたので、そのまま改札を通り抜ける。雨水君も電子カードを持っていたので、同じように改札を抜ける。問題は九尾たちだが。
「電車なんて久しぶりに乗りますね」
「……。少し、楽しみだ」
「僕も人間の乗り物には興味がある」
翼君と狼貴君は電車に乗るのが楽しみなようで、目をキラキラさせている。七尾も同じように目を輝かせていた。九尾だけは彼らと違った反応を見せた。私を一度見て、雨水君に声をかける。
「経費とやらで、我らの電車代を落としてもらえばいい。そのくらい、構わないだろう?」
私が電車賃の心配をしていることを見抜かれてしまう。ちらりと雨水君の様子をうかがうと、目が合った。
「お前らがついてくるのは想定内だった。経理に掛け合ってみるから、朔夜は心配しなくていい」
何と心強い言葉。その言葉を信じて、私は九尾たちの分の切符を買い、しっかりと領収書をもらうのだった。
そして、私たちはカラスではなく、雨水君の案内のもと、組合の本部に向かうため、電車に乗ることになった。
私たちが見つめていることに気付くと、カラスはバサバサと部屋の窓に近づいてきた。まるで私たちが自分に気付くまでじっと様子をうかがっていたかのようだ。
「また面倒な能力を持った奴だな。我たちの敵になるほどの物でもないが」
「僕、鳥って苦手なんだよね。特にカラス。真っ黒で気味悪いし」
九尾と七尾がなぜか率先して窓に近づき、そのまま窓を開けてしまった。文句を言う割に、その口調はやけに楽しそうだ。この状況を楽しんでいるのかもしれない。彼らにとって、人間のいざこざなど暇つぶしにしかならないのだろう。
「カーカー」
真っ黒な身体に真っ赤な瞳を持ったカラスが部屋の中に入ってくる。まるで私たちのことを値踏みするかのように天井をぐるりと一周旋回すると、雨水君の目の前に降り立った。
「お前が迎えに来たということは、唐洲も朔夜の採用の件に関わりたいから、協力を申し出たということか」
雨水君の言葉にカラスがまるで正解だというように一声鳴く。やはり、普通のカラスではないようだ。
「漫画や小説、アニメで見る『式神』とか『使い魔』とかでしょうか。それとも、動物を意のままに操る系の能力で、誰かが遠隔でカラスを操っている?」
「この状況でカラスの素性に興味を持つのはさすが蒼紗さんです」
「一気に緊張感がなくなる」
つい、思ったことが口から出てしまう。翼君と狼貴君に飽きられてしまうが、気になるのだから仕方ない。
「人の家に勝手に上がり込んできたからには、それ相応の対価を支払う覚悟はあるのだろうな」
「丸焼きになりたくなかったら、さっさと案内しなよ。愚図野郎」
私の興味本位な独り言を無視して、九尾がカラスをひとにらみする。瞳が金色に輝き、全身も光り出す。七尾も九尾と同じように身体が金色に光り出した。どちらも好戦的な様子だが、止める理由はない。
カラスの丸焼きがこの場にできるかと身構えていたら、七尾が急にカラスをひょいとつかみ、部屋から放り出してしまった。先ほどまでの好戦的な態度が一変、つまらなそうな態度に変わっている。自分から窓を開けて受け入れたのに、また外に出してしまう行動の意味がわからない。
「じゃあ、僕たちも行きましょう!」
なぜか、翼君が私たちにカラスの後を追うよう指示する。翼君の指示に従い、おとなしく九尾たちは私の部屋から出ていく。
「ちょ、ちょっと待ってください。すぐ出かける準備しますから」
彼らは人外でなおかつ男の子だ。化粧もいらないし、身だしなみにそこまで気を遣う必要はない。しかし、私は年若き女子大生である。部屋着の灰色のスウェット上下で、化粧もしていない顔で家を出るわけにはいかない。すでに雨水君にはすっぴんをさらしているが、それが出かけるのに化粧をしない理由にはならない。
「女は面倒な生き物だな。とはいえ、急ぐ必要はない。ゆっくり準備して家を出るがいい」
慌てて私が九尾たちに声をかけると、最後に部屋を出た九尾が振り返る。そして、意味深に笑っていた。待たせている身としてはゆっくり準備などしていられない。
部屋に一人取り残された私は、大急ぎで服を決め、一階の洗面所で化粧をする。面接ということなので、塾で来ているいつもの服装にした。白い半そでのカッターシャツに黒いスラックス。上に紺色のカーディガンを羽織る。
すでに家の中には誰もいなかった。九尾たちは外で私を待っているのだろう。
「いってきます」
靴を履き、玄関を出る際に誰もいない家に挨拶する。玄関の外では九尾たちが私を待っていた。出かけるということで、彼らの頭にもお尻にケモミミも尻尾も生えていなかった。そして、少年から青年へと姿を変え、ただのイケメンが四人となっていた。
「雨が止んでいますね」
家を出ると、雨は止んでいてうっすらと陽がさしていた。天気予報では今日一日雨だと言っていた。とはいえ、雨水君が来た時点で雨は止んでいた。いくら雨水君が晴れ男だとしてありえない現象だ。つまり、雨水君は。
「オレが能力を使っている。だから、朔夜が濡れる心配はない」
空を見上げて青空を眺めていたら、雨水君に声をかけられる。予想通り、雨水君は自分の能力を使っていた。
「それは助かります。本来なら出かける予定がなかった休日に出かけるんですから、雨が降っていないに越したことはありません」
「カーカー」
雨水君と話していると、自分の存在を主張するようにカラスが大きな声で鳴きだした。私たちはカラスの先導のもと、目的地である組合がある建物に向かうことにした。雨水君だって組合に所属しているのなら、当然、組合の本部の場所は知っているはずだ。しかし特に文句を言うことはなく、カラスに従って歩く私たちの後ろを追いかけるだけだった。
「まさか駅の近くのビルの中に入っているとは思いませんでした」
カラスが案内してくれたのは、私が大学の通学に使っている最寄り駅だった。駅の構内に入る入り口付近でカラスが旋回を始めたので、てっきり駅の中のビルに組合が入っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「違う。もしそうだとしたら、朔夜の身が危険すぎる」
「とはいえ、蒼紗の家がばれてしまったが、まあ、人間の記憶を操作することなど容易いことだ。問題はないだろう」
なるほど。確かに彼らの言う通りである。私が使う最寄り駅にそんなものがあったとしたら、九尾とともに生活している私が目をつけられないわけがない。
九尾はカラスに向けて手を伸ばす。すると、カラスが旋回をやめ、私たちの前からいなくなる。どこかに飛び去ってしまった。
「これで、あいつは持ち主のもとに帰るだろう。カラスの見た光景は、別の場所にすり替えておいた。まったく、カラスを見張りにつけられているなんて、お前はよほど組合から警戒されているようだな」
「まあ、オレは桜華の一番近くに居た人間だからな」
九尾と会話しながら雨水君は駅の構内に入っていく。私たちも雨水君に続いて中に入っていく。カラスの案内など必要なかったということか。ということは、先ほどまでの道案内は単なる茶番だったということだ。ここからは雨水君が案内してくれるだろう。
私はカバンに電車の定期券のパスケースをつけていたので、そのまま改札を通り抜ける。雨水君も電子カードを持っていたので、同じように改札を抜ける。問題は九尾たちだが。
「電車なんて久しぶりに乗りますね」
「……。少し、楽しみだ」
「僕も人間の乗り物には興味がある」
翼君と狼貴君は電車に乗るのが楽しみなようで、目をキラキラさせている。七尾も同じように目を輝かせていた。九尾だけは彼らと違った反応を見せた。私を一度見て、雨水君に声をかける。
「経費とやらで、我らの電車代を落としてもらえばいい。そのくらい、構わないだろう?」
私が電車賃の心配をしていることを見抜かれてしまう。ちらりと雨水君の様子をうかがうと、目が合った。
「お前らがついてくるのは想定内だった。経理に掛け合ってみるから、朔夜は心配しなくていい」
何と心強い言葉。その言葉を信じて、私は九尾たちの分の切符を買い、しっかりと領収書をもらうのだった。
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