朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~

折原さゆみ

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 家に帰ると、どっと疲れが出て、玄関に倒れこんでしまった。

「た、ただいま」

「おかえりなさい。彼女と話は……、できたようですね」

 出迎えてくれたのは、翼君だった。話したいことはたくさんあるが、どこから話したらいいものだろうか。

「話は無事に済んだのか?」

 後ろからは狼貴君が顔を出す、翼君も狼貴君も少年姿にケモミミ尻尾の通常スタイルでのお出迎えだ。彼らのケモミミと尻尾を見ているうちに、あることを思い出す。


「そういえば、車坂の件を聞くのを忘れていました!」

「別にあんな奴のことなんて聞く必要はないだろう?」

「でも、車坂は鬼崎さんに一度捕まっていたみたいですから」

「それはあやつが油断していたせいだ。それで、何か進展はあったのか?いや、ありすぎて混乱しているな」

 私の心を読んだ九尾が面白そうに口をゆがめている。

「話したいことはたくさんあるけど、いったん休ませてください」

 玄関を上がって倒れこんでいる状態では何ともならない。私の言葉に、翼君たちは苦笑して、先に夕食でも食べましょうと心優しい提案をしてくれた。

「ぐううう」

 私の腹も食事を優先しろと訴えていた。




 今日の夕食は餃子だった。どうやら、翼君と狼貴君が手作りしてくれたようだ。私が自分の部屋でゴロゴロしている間に準備してくれた。形が不ぞろいで中身の量もバラバラのそれにほっこりとした気持ちになっていると、翼君が今日の夕食が餃子に決まった理由を恥ずかしそうに教えてくれた。

「どうしても、餃子の気分になってしまって、狼貴に相談したら、手伝ってくれると言ってくれたので、ですが、なかなか市販のようにうまくは作れませんね」

「別に味はうまいから、われはこれでもいいと思うぞ。中身もぎゅっと詰まっていてこれはこれでいい」

「私もおいしいと思います。手作りって、どうしてこんなに温かい気持ちになるのでしょう」

 思わずつぶやいた言葉に、私の涙腺はあっさりと崩壊してしまった。どうやら、私の涙腺は、大学に入学してから、だいぶ緩くなってしまったらしい。ほろほろと涙が目からあふれ出てくる。

「ええと、これはその、昔を思い出してしまいまして。す、すぐに収まりますから、少しだけ時間を」

「ご、ごめんなさい。そんな、こと僕、考えもしなくて」

「え!別に翼君たちが悪いわけでは……」

「大丈夫だ。今はオレ達がお前のそばにいる。それに、一人ではないだろう?大学にも仲間がいるから、お前は一人じゃない」

 泣いている私の頭をぎゅっと抱きしめられた。顔を上げると、そこには狼貴君の姿があった。

「狼貴君は……」

 他人である私に対してこんなにも優しい狼貴君が、犬史君と会って別れを告げられるのだろうか。狼貴君はすでに人間ではないため、ぬくもりは感じることができなかったが、彼のやさしさは身体全体に伝わってきた。



 夕食が私のせいで妙な雰囲気になってしまったが、何とか完食して、私たちは一息つくために、食後のお茶を飲んでいた。翼君が気を利かせて、気持ちを落ち着かせる効果のある紅茶を私たちに出してくれた。彼も気が利いて優しい。九尾の眷属にしておくにはもったいない二人だと、私は彼らを見ながらしみじみ思った。

 一息ついて、私の気持ちが落ち着いてから、今後の予定を彼らに伝えた。GW最終日に、私は鬼崎さんの家に向かうことになっていた。犬史君とは結局、連絡を取っていないため、GWに会う予定はない。

「ということで、鬼崎さんも今回の件に関わっていますが、その後ろには、私の大学の教授がいたというわけなんですが」

 鬼崎さんから聞いた話を終えた私を彼らはじっと見つめてくる。私は何も悪いことはしていない。少し、彼女に能力を使っただけだ。その能力のおかげで、私たちは大事な情報を手に入れることができたのだ。じっと見つめられる意味がわからない。

「まったく、お主は警戒心が足らんな」

「いえ、僕たちがもっと警戒していれば、こんなことにはなりませんでした。僕たちが未熟なばかりに」

「オレも、もっと早く犬史との別れを決めていれば、こんなことにはならなかった」

 九尾は私を興味深そうに見ていたが、翼君たちは反対に申し訳ない気持ちが瞳に込められていた。

「とはいえ、過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい。どうせなら、狼貴がわざわざ犬史とやらに自らコンタクトをとる必要がなくなって、手間が省けたから、ラッキーと思うことにした方が、気分は楽になるぞ」





「楽になるって、どういうことでしょうか?」

 九尾の言葉の意味がわからず質問すると、はあと大げさにため息を吐かれてしまった。バカにしたような態度に腹が立つが、ぐっと怒りを我慢してため息の理由を聞くことにした。

「犬史というガキと鬼崎という女はつながっている。それは間違いがないのだろう?」

「そうですけど」

「ああ、わかりました。九尾、それは良いアイデアです。朔夜さん、鬼崎さんという女性と連絡はとれますか?」

「連絡先は交換しましたけど、鬼崎さんに連絡した方がいいことがあるのですか?」

 九尾の意図に気付いた翼君が興奮したように私に尋ねる。狼貴君を見ると、彼も同じように何か気付いたのか、私に指示する。

「彼女に連絡を取れるなら、取ってくれると助かる」

『犬史と会えるように手配してもらえないか』

 狼貴君の言葉でようやく九尾の言葉の意味を理解した。確かに鬼崎さんに犬史君に会えるか聞いてみれば、わざわざ狼貴君たちが彼の実家に足を運ぶ必要はなくなる。


「ですが、それは同時に、彼女に私たちと犬史君の関係をばらすようなものになります」

「仕方ないだろう。それに、お主の話だとすでに、われたちの正体はばれているのだろう?今更、そんなことを心配しても意味がない」

 九尾がそういうのなら、そうなのだろうか。不安は残るが、私は鬼崎さんと連絡を取ることにした。

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