朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~

折原さゆみ

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「おはようございます」

「おはよう。あれ、蒼紗、なんか顔色が悪いけど、どうしたの?もしかして、昨日変なものでも食べた?」

「おはようございます。佐藤さんの言う通りです。もし、体調が悪いようなら、私が蒼紗さんの代わりに、授業のプリントやノートを取ってあげますよ」

「心配してくれてありがとうございます。ちょっと夢見が悪かっただけです。今日の服装と相まって、顔色が悪く見えるだけでしょう。早くしないと、授業に遅れますよ」

 大学に着くと、ジャスミンと綾崎さんがいつも通りに挨拶をくれた。今朝のことを引きづっていたのか、顔色が優れない私に気を使ってくれている。夢の内容を言うわけにはいかず、私はあいまいに答えを濁し、授業がある教室に向かうことにした。


 今日の私の服装は、気分も下がっていたので、いっそのことその系統で行けば、逆に気分が上がるのではないかと思い、ホラー系のコスプレをすることにした。私の答えに納得したのか、二人はそれ以上、私を心配するような言葉はかけてこなかった。

「まあ、そう言われてみればそうだけど。蒼紗の言う大丈夫は信用ならないわ。何かあったら、いや何かある前に相談はしなさいよ。私たち、親友でしょ」

「蒼紗さんは、一人でいろいろ抱え込みすぎだと思います。私を頼ってもいいですから、いやむしろ、頼ってください!」

 二人から頼もしい言葉をもらい、調子が少し良くなった。私たちは一限目の授業がある教室に向かった。




「おや、すごい恰好をしているね。今日はお化け仮装大会でも開催しているのかい?」

「出たな、けだもの」

 授業が終わり、廊下を三人で歩いていると、私の服装にツッコミを入れる声が聞こえた。私の格好について、二人は深く追及してこなかったのに、新たに現れた青年は、興味があるようだ。

「おはようございます。七尾。これは、貞子という日本のゆうれ」

「蒼紗先輩にぴったりかもしれないね。だって、今までの人生、幽霊みたいに生きてたって、九尾から聞いたよ。それで、余計にその服装が似合っているかもしれないね」

 私たちの前に現れたのは七尾だった。七尾は、私の言葉を最後まで聞かず、好き勝手に言い始めた。幽霊という言葉に、大学に入る前の生活を思い出してしまった。

「幽霊みたいな生活……。あながち間違いではないかもしれません。他人と深く交わらず、浅くつき合い、表面上だけの関係。時が経てば忘れられてしまうような儚い存在。とはいえ、そのような存在として生きるしかなかったともいえますが」

 長く働いていると、自分の特異体質がばれて不審に思われてしまう。それを避けるために職を転々としてきた。誰にも仕事を辞める本当の理由を告げることができず、一人寂しい思いをしていた。


「ちょっと、いきなり何を言うのかしら。蒼紗が幽霊なんて、そんなことないでしょ。蒼紗はちゃんとした人間で、私たちと同じように生きているわ!蒼紗、何を一人でぶつぶつ言っているの?あんたはここでは幽霊じゃなくて、一人の生身の人間として、朔夜蒼紗として生きていいのよ!」

「そうですよ。蒼紗さんの知り合いだか何だか知りませんが、蒼紗さんへの侮辱は許しませんよ!」

 ジャスミンと綾崎さんが私をかばうように、七尾の前に立ちふさがる。七尾が人外であると知っている私は、彼女たちに危害を加えないように、七尾を説得する。

「七尾、彼女たちは私の友達ですから、危害を加えたら許しませんよ!」

「危害を加えるつもりはないよ。九尾にも、君に迷惑をかけることは禁止されているからね。でもさ、僕、もっと人間生活を満喫したいんだよね。最近、授業も退屈だし、何か面白いことってないかな?」

 七尾は、私たちに危害を加えないと言ったが、彼ら人外の言うことは信用できない。警戒するに越したことはない。私がそんなことを考えていると、ジャスミンは彼の言葉に興味を示した。

「面白ことを教えてあげたら、蒼紗にちょっかいをかけなくなるのね」

「そうだね。でも、中途半端に僕を彼女から遠ざけようとしても無駄だよ。今のところ、蒼紗先輩の相手をするのが一番退屈しないからね」




「面白いこと……」

 ジャスミンが七尾と話している間に、綾崎さんが何やら考え込んでいた。七尾にとって面白いこと、人間ではない彼が面白いと思うものは何だろうか。そういえば、七尾の話の中には、自分が人間ではないみたいな発言が出ているが、それについて綾崎さんはどう思っているのだろうか。綾崎さんを見る限り、七尾のことを人外だと認識している様子はない。ただの変な人だという認識だろうか。

「そういえば、七尾は、お金はどうしていますか。おそらく、雨水君に頼りきりだと思いますが。自分で働いてお金を稼いでみたはどうでしょう?七尾は働いたことってありませんよね?」

 綾崎さんのことはひとまず置いておく。七尾が面白いと思うことを考える。当然、人間とは違うだろう。それならば、人間ならばいずれ体験することになる、働いてお金を得るという体験をしてみてはどうか。

「自分でお金を稼ぐ?ああ、人間が血眼になってやっていることか。嫌だね」

 私の提案はすぐに却下された。

「僕はそんなもののために、時間を拘束されたくない。僕が今までどこで生きていたか知っているでしょう?お金のために、人間がどれだけ醜い争いをしてきたのか知っているのに、働くなんてばからしい。バイトってやつを雨水のガキはしているけど、あれは僕のしもべみたいものだから、働くのは当然だね」

 大学の短期バイトか何かをさせて、私たちに接触する機会を減らす案は没となった。他にも、大学のサークル活動、ボランティア活動などいろいろ提案するが、なかなか七尾は興味を示さない。





「そうだ!新歓コンパにでも参加したらどうでしょう?」

 綾崎さんが嬉しそうに七尾に提案する。悩んで出た言葉が「新歓コンパ」だったことに驚かされる。綾崎さんはどちらかと言うと、大学では真面目な部類で、私と一緒に居るせいか、あまりそう言ったイベントごとに興味がなさそうに見えた。だがよく考えたら、綾崎さんは「妖怪調査サークル」などと言う、怪しいサークルに所属している。思い返せば、バレンタインの時も随分と張り切っていた。案外、イベントごとが好きなのかもしれない。
 
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