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番外編【新しい扉を開く】5変な夢
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「やる気が出ない、やる気が出ない……」
私は真っ暗な空間に立っていた。壁も床も真っ黒で明かりもない場所だ。どうにも気味が悪い。そして、それを増長させるような不気味な声が真っ暗な空間に響き渡る。音の正体を探るために手探りで歩いていくと、ひとりの女性がうずくまっていた。手にはスマホを持っていて、画面の光が女性をぼんやりと照らしていた。
「あの、どうされたんですか?」
「ああ、お前か。まったく、どうして私はこんな思いをしているのに、お前は……」
思い切って声をかけると、女性は私のことを『お前』呼ばわりしてきた。失礼な女性である。とはいえ、ここには私と目の前の女性しかいない。
「失礼ですが、ここがどこだかわかりますか?」
「さあね。どこでもいいんじゃないの。どうせ、これは夢なんだから」
「夢……。なるほど」
夢、というのは便利な言葉だ。夢なら、どこにいても、どんなことをしても夢ということで許される。夢から覚めてしまえば、現実に戻れるからだ。女性がそう言うのなら、いつ夢から覚めるかわからないが、そのうち勝手に意識がここから離れるだろう。なんとなくそう思った。
『ゲームオーバーです』
「あああああああ!もう少しだったのに」
私がこの場について考えていると、突然、スマホから無機質な音が鳴り始める。女性のスマホ画面をのぞくと、そこには『ゲームオーバー』という文字がでかでかと表示されていた。どうやら、この真っ暗闇な空間でゲームをしていたらしい。こんな怪しい空間でよくゲームなどしていられるものだ。ずいぶんと図太い神経をしている。挙句の果てにはゲームに負けて悔しがっていた。
「そういう訳だから、あんたには、やる気が出ない呪いをかけたからよろしく」
「嫌ですよ、そんな呪い」
女性の言葉を聞くなり、意識が徐々に薄れていく。きっと、これで私は夢から覚めるのだろう。薄れる意識の中でそう感じた。
「まさか、4月1日にこんな夢を見るとは思いませんでした」
「僕も、まさかそんな夢を紗々さんから聞かされるとは思いませんでした」
私はさっそく、朝食時に大鷹さんに今朝見た夢を話した。最初は頷きながらも冷静に話を聞いていた大鷹さんだが、私が話し終えるころには困惑した表情になっていた。確かに、私も自分の夫が性転換していて、さらには自分以外の相手から告白を受けていた、などという夢を聞かされたら、同じ表情になるだろう。
「いや、それはそれで興奮するか」
「何にですか?」
「ああ、こちらの話しです。あと、夢で思い出したんですけど、それ以外にも変な夢を見ました」
目を覚ましたきっかけは目覚ましの音で、直前に見ていた夢が大鷹さんたち(女子高生)に告白される夢だった。しかし、その前にも夢を見ていたことを思い出す。
「私によく似た人が、【やる気が出ない】と呪文のようにつぶやきながら、真っ暗闇な空間でスマホゲームをしていました」
「いったい、誰の何の夢を聞かされているんですかね?僕は」
「私に言わないでください。あと、その女性に……」
やる気が出ない呪いをかけられた。
「夢の中の女性に何か言われたのですか?」
「いえ、トクニナニモ。とはいえ、あんな夢を見たことでひとつ、決心したことがあります」
ああはなりたくないものだ。
私は大鷹さんに呪いのことを話さなかった。話したら、呪いが現実になりそうだったからだ。夢だからといって、笑い飛ばせるような言葉ではない。
「確かにやる気が出ない時は誰だってありますからね。夢の中のその人も、何か嫌な事があって、現実逃避の最中かもしれませんよ。まあ、あくまで紗々さんの夢の中の人の話しですが」
『はあ』
私たちは朝から盛大なため息をはく。これから会社だというのに、二人してなんて低いテンションなのか。私たちは急いで朝食の食パンを平らげ、仕事に向かうための準備をしていく。
「今朝見た夢は、特に、僕たちに告白されたとかいう話は、河合江子には絶対に話さないでくださいね」
「……。ゼンショシマス」
「その間が気になりますが、絶対ですよ。約束を破ったら」
「破ったら?」
「帰ってきたら、僕とディープキスをしてもらいます」
「お断り」
「では、くれぐれも口を閉じていてくださいね」
大鷹さんは背後に黒いオーラを纏いながら、笑顔で私に今朝見た夢の内容を口外しないよう口留めしてきた。普通なら、こんなイケメンからのキスなどご褒美でしかないが、私にとってはそうではない。
「では、先に仕事に行きますね。いってきます」
私が固まっている間に、大鷹さんは家を出る支度を終えたらしい。カバンを持って、玄関に向かっていく。慌てて私も大鷹さんについていく。マンガのような『いってきますのキス』などしないが、見送りはしている。
「いってらっしゃい。私もすぐに家を出ます」
大鷹さんは私に軽く手を振り、そのまま家を出ていった。
「私も急がなくちゃ」
リビングに戻り、棚に置かれた置時計を見ると、家を出る時刻が迫っていた。私も急いで服を着替え、カバンを持って家を出る。外は4月だというのに、ひんやりとしていた。そして、新社会人の初出勤の日を歓迎する気がないような、どんよりとした曇り空だった。
私は真っ暗な空間に立っていた。壁も床も真っ黒で明かりもない場所だ。どうにも気味が悪い。そして、それを増長させるような不気味な声が真っ暗な空間に響き渡る。音の正体を探るために手探りで歩いていくと、ひとりの女性がうずくまっていた。手にはスマホを持っていて、画面の光が女性をぼんやりと照らしていた。
「あの、どうされたんですか?」
「ああ、お前か。まったく、どうして私はこんな思いをしているのに、お前は……」
思い切って声をかけると、女性は私のことを『お前』呼ばわりしてきた。失礼な女性である。とはいえ、ここには私と目の前の女性しかいない。
「失礼ですが、ここがどこだかわかりますか?」
「さあね。どこでもいいんじゃないの。どうせ、これは夢なんだから」
「夢……。なるほど」
夢、というのは便利な言葉だ。夢なら、どこにいても、どんなことをしても夢ということで許される。夢から覚めてしまえば、現実に戻れるからだ。女性がそう言うのなら、いつ夢から覚めるかわからないが、そのうち勝手に意識がここから離れるだろう。なんとなくそう思った。
『ゲームオーバーです』
「あああああああ!もう少しだったのに」
私がこの場について考えていると、突然、スマホから無機質な音が鳴り始める。女性のスマホ画面をのぞくと、そこには『ゲームオーバー』という文字がでかでかと表示されていた。どうやら、この真っ暗闇な空間でゲームをしていたらしい。こんな怪しい空間でよくゲームなどしていられるものだ。ずいぶんと図太い神経をしている。挙句の果てにはゲームに負けて悔しがっていた。
「そういう訳だから、あんたには、やる気が出ない呪いをかけたからよろしく」
「嫌ですよ、そんな呪い」
女性の言葉を聞くなり、意識が徐々に薄れていく。きっと、これで私は夢から覚めるのだろう。薄れる意識の中でそう感じた。
「まさか、4月1日にこんな夢を見るとは思いませんでした」
「僕も、まさかそんな夢を紗々さんから聞かされるとは思いませんでした」
私はさっそく、朝食時に大鷹さんに今朝見た夢を話した。最初は頷きながらも冷静に話を聞いていた大鷹さんだが、私が話し終えるころには困惑した表情になっていた。確かに、私も自分の夫が性転換していて、さらには自分以外の相手から告白を受けていた、などという夢を聞かされたら、同じ表情になるだろう。
「いや、それはそれで興奮するか」
「何にですか?」
「ああ、こちらの話しです。あと、夢で思い出したんですけど、それ以外にも変な夢を見ました」
目を覚ましたきっかけは目覚ましの音で、直前に見ていた夢が大鷹さんたち(女子高生)に告白される夢だった。しかし、その前にも夢を見ていたことを思い出す。
「私によく似た人が、【やる気が出ない】と呪文のようにつぶやきながら、真っ暗闇な空間でスマホゲームをしていました」
「いったい、誰の何の夢を聞かされているんですかね?僕は」
「私に言わないでください。あと、その女性に……」
やる気が出ない呪いをかけられた。
「夢の中の女性に何か言われたのですか?」
「いえ、トクニナニモ。とはいえ、あんな夢を見たことでひとつ、決心したことがあります」
ああはなりたくないものだ。
私は大鷹さんに呪いのことを話さなかった。話したら、呪いが現実になりそうだったからだ。夢だからといって、笑い飛ばせるような言葉ではない。
「確かにやる気が出ない時は誰だってありますからね。夢の中のその人も、何か嫌な事があって、現実逃避の最中かもしれませんよ。まあ、あくまで紗々さんの夢の中の人の話しですが」
『はあ』
私たちは朝から盛大なため息をはく。これから会社だというのに、二人してなんて低いテンションなのか。私たちは急いで朝食の食パンを平らげ、仕事に向かうための準備をしていく。
「今朝見た夢は、特に、僕たちに告白されたとかいう話は、河合江子には絶対に話さないでくださいね」
「……。ゼンショシマス」
「その間が気になりますが、絶対ですよ。約束を破ったら」
「破ったら?」
「帰ってきたら、僕とディープキスをしてもらいます」
「お断り」
「では、くれぐれも口を閉じていてくださいね」
大鷹さんは背後に黒いオーラを纏いながら、笑顔で私に今朝見た夢の内容を口外しないよう口留めしてきた。普通なら、こんなイケメンからのキスなどご褒美でしかないが、私にとってはそうではない。
「では、先に仕事に行きますね。いってきます」
私が固まっている間に、大鷹さんは家を出る支度を終えたらしい。カバンを持って、玄関に向かっていく。慌てて私も大鷹さんについていく。マンガのような『いってきますのキス』などしないが、見送りはしている。
「いってらっしゃい。私もすぐに家を出ます」
大鷹さんは私に軽く手を振り、そのまま家を出ていった。
「私も急がなくちゃ」
リビングに戻り、棚に置かれた置時計を見ると、家を出る時刻が迫っていた。私も急いで服を着替え、カバンを持って家を出る。外は4月だというのに、ひんやりとしていた。そして、新社会人の初出勤の日を歓迎する気がないような、どんよりとした曇り空だった。
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