結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
201 / 234

番外編【恒例行事になりそうです】10お菓子交換

しおりを挟む
「……ということがありまして。まさか、スーパーで彼に会うとは思いませんでした」

「私も、最近、会社外で当間に会いましたよ」

『はあ』

 私と大鷹さんはお互いに視線を合わせて、深いため息を吐く。夕食時、大鷹さんが近くのスーパーで当間を見かけたことを話してくれた。偶然にも、私もファミレスで当間に会っている。会社の知り合いに会うなど、めったにないのだが、どうして当間はこうも、立て続けに私たちの前に現れるのか。話題に上がるだけで、憂鬱な気分になる。せっかくの今日の夕食の鳥鍋がおいしく感じなくなってしまう。

「まったく、嫌になりますね。もういっそのこと、当間に私たちの前に現れるなって、言っておきますか?」

「別に言わなくても良いと思います。彼だって僕たちと遭遇したくて遭遇していないと思いますので。あくまで本当に偶然、僕たちと居合わせてしまったのだと思いたい、です」

 明日、会社で当間に会ったら、ビシッと言ってやろうと意気込んでいたら、大鷹さんにやんわりと止められる。しかし、偶然というのが信じられないのか、語尾がしりすぼみになっている。これ以上、当間の話をしていたら、どんどん暗い気持ちになり、せっかくの大鷹さんとの団らんタイムが楽しめなくなってしまう。

「当間の話はこの辺にしましょう?それで、わざわざお菓子の買い出しに行ってきたらしいですが、今年はなにをくれる予定ですか?」

 守君たちとお菓子作りをしたということは、今年のバレンタインも私に何かしらのお菓子をくれるということだ。昨年は秘密にして、サプライズでくれたが、今年は事前に買物に行ったと話してくれた。中身は当日開けてのお楽しみ、でも構わないが、教えてくれたらそれはそれで当日が待ち遠しくなる。

「今年は……」

 ここで大鷹さんが口をつぐむ。何やらあごに手を当てて考え込んでいる。私はまた何か、変な事を言っただろうか。振り返ってみるが、特に思い当たる節はない。

「彼と会ってしまったことが衝撃的過ぎて、つい、紗々さんに今年のバレンタインも手作りお菓子をあげることを話してしまいました。本当はサプライズにしたかったのですが……」

 なるほど、それなら中身は当日のお楽しみということだろう。それにしても、今年も男四人でお菓子作りとは、彼らは相当仲が良いようだ。

「大鷹さんって、もしかして友達が少ない、とかですか?」

「いきなりですね。なぜ、そう思ったんですか?」

「だって、今年も守君たちと仲良くお菓子作りをしているので。あとは、最近、大鷹さんって、友達と食事や旅行に出かけていないなと思いまして」

「別に少なくはないと思いますけど。そもそも、僕は友達よりも、紗々さんと過ごす方が大切というか」

 大鷹さんは私の言葉に心外だという顔をしていたが、私と過ごす時間を優先して、という言葉が引っかかる。

「私を優先しなかったら、遊びに行くってことですか?」

「いや、そんなわけ」

 そうだとしたら、何だというのか。今日の私はどうかしている。きっと、当間が私たちの前にやたら現れるせいだ。

「とりあえず、友達の件はおいておいて、男四人という点を萌えポイントにします」

「紗々さんがそれで納得してくれたのなら、それでいいですけど。紗々さんは僕に何を作ってくれるんですか?河合江子たちと作ったのでしょう?」

「エエト……。私も当日のサプライズということにしてください」

 私が河合さんたちと一緒に作ったのはマカロンだ。河合さんと梨々花さんがオシャレで可愛らしいものということで勝手に選んでいた。当然、私に拒否権はなく、買い出しをして一緒に作った。とはいえ、彼女達がお菓子作りの経験者だったので、失敗することなくマカロンは無事に完成した。味見もしたのだが、とてもおいしかった。これなら大鷹さんも喜んでくれるだろう。

 ちなみにきらりさんは、大鷹さんが言っていた通り、料理全般が苦手なようだった。とはいえ、私たちの迷惑にならないように河合さんたちの指示に素直に従って動いていた。

 今年のバレンタインは手作りお菓子の交換ということになる。お互いに他の人と一緒に作る共同作業になったが、手作りお菓子の交換ということに変わりない。

「大人になっても、一緒にお菓子を作ってくれる人がいるって、なんだかいいですね」

「まあ、悪くはないですね。今年のバレンタインが楽しみです」

「もう、明日に迫っていますけどね」

 大鷹さんと視線が合い、お互いににっこりと微笑む。すでに私も大鷹さんも明日あげるお菓子の準備は万端だ。

「明日が楽しみです。バレンタインって、女性から男性に贈るイベントだと思っていますけど、こうやってお互いに手作りお菓子を交換というのも、アリな気がします」

「そう言ってもらえると、作った甲斐があるというものです」

 明日はいよいよ、バレンタイン当日。あいにくの平日だが、仕事終わりが楽しみだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...