171 / 234
番外編【自分の着たいものを着ればいい】2前髪は短いに越したことはない(切りすぎ注意)
しおりを挟む
「先輩、前髪どうしたんですか?」
月曜日の朝、出勤して更衣室で制服に着替えていたら、河合さんに話しかけられた。更衣室にはたまたま、私一人しかいなかったので河合さんと二人きりになった。私と河合さんが二人きりになるタイミングが結構ある。
冬至を終えた次の日、私は美容院に髪を切りに行った。いつも担当してくれる人に空きがなかったので、違う人を指名して切ってもらったのが、それがいけなかった。大鷹さんには苦笑いをされたが、変とはいわれなかった。私も切られた直後は何とも思わなかったのだが、帰宅後、洗面所の鏡を見てじわじわと前髪が短すぎてやばいことを実感した。
そうして、週明けの月曜日に河合さんに決定的な言葉を言われたわけだ。どうしたんですか、なんて言葉は変だと言っているようなものだ。
「や、やっぱり切り過ぎですよね」
「い、いえ、別に変とは言っていませんけど、接客業をするものとしてさすがにその短さはちょっと……」
やはり短く切り過ぎたのだ。どうしても、前髪が目に入るのが嫌で短く切ってもらうことが多いのだが、やり過ぎは良くない。
「短いのは短いで、先輩らしさが出ていて良いと思いますよ。ところで、前々から聞こうと思っていたんですけど、先輩の冬の私服っていつも同じなんですか?」
「同じとは?」
前髪の話題はここで終わりらしい。私もこれ以上突っ込まれたくはないのでありがたいが、次に河合さんが話題にした服装もあまり触れられたくない話題だった。そもそも、服装についての話題は、先日大鷹さんと語り合ったばかりだ。同じ話をもう一度別の人に話すのは面倒くさい。
「会社の出勤と退勤に関しては、制服に着替えるので特に何を着ていてもいいとは思うんですけど、どこか出かけるときはやっぱりオシャレしたいじゃないですか?」
「はあ」
回りくどい言い方をしているが、結局何が言いたいのか。朝は時間に余裕がないことが多い。腕時計を見るともうすぐ始業の時間だ。すでに着替えを終えたので更衣室を出たほうがいい。
がちゃり。
「おはようございます」
「おはよう、倉敷さん、河合さん」
『おはようございます』
私たちの会話はここで中断された。同僚の平野さんと安藤さんが更衣室に入ってきた。
「あれ、倉敷さん、髪の毛切ったんだね」
「そうだね。ずいぶん、思い切った長さだね」
「あはははは」
どうやら、世間的に見て、私の前髪はかなり短いらしい。いつもは眉上まで前髪を切ってもらうのだが、ぱっつんヘアにならないように少しだけ斜めにしてもらったり、前髪の間に変化をつけるためにギザギザにしたりと工夫してもらっていた。しかし、今回はぱっつんヘアになってしまった。そこが変に見える理由だろう。
そもそも、30代にもなる女性がぱっつん前髪なのがおかしいのだ。まあ、できるだけ短くしてくださいと頼んだが私も大概なのかもしれないが。
こうして、私は短い前髪のまま(短すぎて修正しようがない)接客をするため、銀行の窓口に立つのだった。
とはいえ、他人の前髪など見て指摘するほど暇な人間はあまりいない。銀行に来るお客さんたちは仕事の合間に来る人もいる。そのため、私自身に面と向かって前髪を指摘するお客さんはひとりもいなかった。
「今日、河合さんに私服について言及されました」
短い前髪をしたまま、一日の仕事を終えて帰宅。急に寒くなったので、コートの前をシッカリと閉じて車に乗る。寒くなると、風邪やインフルエンザが流行りだす。私も接客業をしているので、お客さんから移される可能性が高い。しっかりと防寒して寒さに備えている。
帰宅後、夕食の塩鮭と豚汁を食べながら、大鷹さんに今日会った出来事を話していく。基本的に大鷹さんは自分のことを多くは語らない。私の方から自分の身の回りのことを話し、それに対して、大鷹さんが僕は~と話してくれることが多い。
「河合江子が……」
「そうですよ。ていうか、大鷹さんと河合さんってたまにびっくりするくらい、私に質問する内容が同じ時がありますよね?やっぱり、元恋人同士のことはあ」
「心外ですね。僕が質問した内容を河合江子がまねているだけかもしれません」
私の話は途中で遮られた。まあ、私が大鷹さんにとっての地雷発言をしたので仕方ない。それにしても、彼らはなにが原因で別れたのだろうか。似た者同士でくっつくカップルもいる中、彼らほどの似た者同士でなぜ別れたのかは気になるところだ。とはいえ、彼らが別れていなかったら、私と大鷹さんがこうして結婚していなかったのだから、理由を聞いたところで縁りを戻してとは言い難い。聞かないのが正解だろう。
「さすがにまねするってことはないと思いますけど」
「それで、僕にした時と同じように説明したんですか?」
大鷹さんの機嫌が急に悪くなった。さて、どうやって夫の機嫌を直したらいいだろうか。考えても正解などわからないので、とりあえず事実だけを伝えておく。
「いえ、朝の着替え中に質問されて時間がなかったので説明はしていません。昼休憩の時間は合わなかったので、今日は質問だけで終わってしまいました」
「なるほど。まあ、河合江子に詳しい説明は不要です。今度聞かれたとしても、無視して構いません」
「なんか、河合さんに対してアタリが強いですよね。ああ、面白いネタが思いつきました!」
「突然ですね。ですが、思いついたということは、また先生の新作が読めるということで、僕としては嬉しい限りです」
「こういうのはどうですか?」
私は今さっき思いついたネタを大鷹さんに披露することにした。
月曜日の朝、出勤して更衣室で制服に着替えていたら、河合さんに話しかけられた。更衣室にはたまたま、私一人しかいなかったので河合さんと二人きりになった。私と河合さんが二人きりになるタイミングが結構ある。
冬至を終えた次の日、私は美容院に髪を切りに行った。いつも担当してくれる人に空きがなかったので、違う人を指名して切ってもらったのが、それがいけなかった。大鷹さんには苦笑いをされたが、変とはいわれなかった。私も切られた直後は何とも思わなかったのだが、帰宅後、洗面所の鏡を見てじわじわと前髪が短すぎてやばいことを実感した。
そうして、週明けの月曜日に河合さんに決定的な言葉を言われたわけだ。どうしたんですか、なんて言葉は変だと言っているようなものだ。
「や、やっぱり切り過ぎですよね」
「い、いえ、別に変とは言っていませんけど、接客業をするものとしてさすがにその短さはちょっと……」
やはり短く切り過ぎたのだ。どうしても、前髪が目に入るのが嫌で短く切ってもらうことが多いのだが、やり過ぎは良くない。
「短いのは短いで、先輩らしさが出ていて良いと思いますよ。ところで、前々から聞こうと思っていたんですけど、先輩の冬の私服っていつも同じなんですか?」
「同じとは?」
前髪の話題はここで終わりらしい。私もこれ以上突っ込まれたくはないのでありがたいが、次に河合さんが話題にした服装もあまり触れられたくない話題だった。そもそも、服装についての話題は、先日大鷹さんと語り合ったばかりだ。同じ話をもう一度別の人に話すのは面倒くさい。
「会社の出勤と退勤に関しては、制服に着替えるので特に何を着ていてもいいとは思うんですけど、どこか出かけるときはやっぱりオシャレしたいじゃないですか?」
「はあ」
回りくどい言い方をしているが、結局何が言いたいのか。朝は時間に余裕がないことが多い。腕時計を見るともうすぐ始業の時間だ。すでに着替えを終えたので更衣室を出たほうがいい。
がちゃり。
「おはようございます」
「おはよう、倉敷さん、河合さん」
『おはようございます』
私たちの会話はここで中断された。同僚の平野さんと安藤さんが更衣室に入ってきた。
「あれ、倉敷さん、髪の毛切ったんだね」
「そうだね。ずいぶん、思い切った長さだね」
「あはははは」
どうやら、世間的に見て、私の前髪はかなり短いらしい。いつもは眉上まで前髪を切ってもらうのだが、ぱっつんヘアにならないように少しだけ斜めにしてもらったり、前髪の間に変化をつけるためにギザギザにしたりと工夫してもらっていた。しかし、今回はぱっつんヘアになってしまった。そこが変に見える理由だろう。
そもそも、30代にもなる女性がぱっつん前髪なのがおかしいのだ。まあ、できるだけ短くしてくださいと頼んだが私も大概なのかもしれないが。
こうして、私は短い前髪のまま(短すぎて修正しようがない)接客をするため、銀行の窓口に立つのだった。
とはいえ、他人の前髪など見て指摘するほど暇な人間はあまりいない。銀行に来るお客さんたちは仕事の合間に来る人もいる。そのため、私自身に面と向かって前髪を指摘するお客さんはひとりもいなかった。
「今日、河合さんに私服について言及されました」
短い前髪をしたまま、一日の仕事を終えて帰宅。急に寒くなったので、コートの前をシッカリと閉じて車に乗る。寒くなると、風邪やインフルエンザが流行りだす。私も接客業をしているので、お客さんから移される可能性が高い。しっかりと防寒して寒さに備えている。
帰宅後、夕食の塩鮭と豚汁を食べながら、大鷹さんに今日会った出来事を話していく。基本的に大鷹さんは自分のことを多くは語らない。私の方から自分の身の回りのことを話し、それに対して、大鷹さんが僕は~と話してくれることが多い。
「河合江子が……」
「そうですよ。ていうか、大鷹さんと河合さんってたまにびっくりするくらい、私に質問する内容が同じ時がありますよね?やっぱり、元恋人同士のことはあ」
「心外ですね。僕が質問した内容を河合江子がまねているだけかもしれません」
私の話は途中で遮られた。まあ、私が大鷹さんにとっての地雷発言をしたので仕方ない。それにしても、彼らはなにが原因で別れたのだろうか。似た者同士でくっつくカップルもいる中、彼らほどの似た者同士でなぜ別れたのかは気になるところだ。とはいえ、彼らが別れていなかったら、私と大鷹さんがこうして結婚していなかったのだから、理由を聞いたところで縁りを戻してとは言い難い。聞かないのが正解だろう。
「さすがにまねするってことはないと思いますけど」
「それで、僕にした時と同じように説明したんですか?」
大鷹さんの機嫌が急に悪くなった。さて、どうやって夫の機嫌を直したらいいだろうか。考えても正解などわからないので、とりあえず事実だけを伝えておく。
「いえ、朝の着替え中に質問されて時間がなかったので説明はしていません。昼休憩の時間は合わなかったので、今日は質問だけで終わってしまいました」
「なるほど。まあ、河合江子に詳しい説明は不要です。今度聞かれたとしても、無視して構いません」
「なんか、河合さんに対してアタリが強いですよね。ああ、面白いネタが思いつきました!」
「突然ですね。ですが、思いついたということは、また先生の新作が読めるということで、僕としては嬉しい限りです」
「こういうのはどうですか?」
私は今さっき思いついたネタを大鷹さんに披露することにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる