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番外編【性癖という武器】3薄気味悪い会話
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「先輩って、主人公みたいな陰キャ、って言われたことないですか?」
「なんですか、それ?」
週明け、仕事の休憩中に河合さんが突然、わけのわからないことを言い始めた。陰キャはわかるが「主人公みたい」という修飾語が意味不明だ。
今日もまた、私と河合さん二人が同時に休憩らしい。私は昨日の残りが詰まったお弁当を広げるが、河合さんはコンビニで買ったおにぎりが昼食のようだ。私たちはそれぞれの昼食を口に運びつつ会話する。ちなみに私の夕食はピーマンの肉詰めだ。黒焦げと化したピーマンだが食べられないこともない。
「ほら、異世界転生系とか、エロ同人誌とかだと、陰キャが主人公な話って多いじゃないですか?なんとなく、先輩がその系統っぽいなと思いまして」
「はあ」
河合さんの言動は理解できないことが多い。彼女が今時の若者であり、私との間にジェネレーションギャップでも生じているのか。それにしては、私の小説の大ファンだし、よくわからない。
「まあ、先輩って見た目はあんまり陰キャっぽくないですけど。どちらかというと、きつめの印象を受けます。前髪も眉上でショートだし、陰キャとは真逆の髪型ではありますね」
「河合さんは、それで言うと『ヒロインから恋人を奪う、あざと女みたいな容姿』ですね」
『ははははははは』
いったい、仕事の昼休憩中に何を話しているのやら。私の返しに河合さんは乾いた笑い声をあげるが、その笑い声は奇しくも私とかぶり、休憩室は不気味な笑い声で満たされる。
「急に変なこと言ってすみません。でもほら、こうやって冗談でも言っていないと、『アレら』の姿を見ながら平穏な気持ちで仕事できないでしょう?」
「一応、あれでも付き合っている男女だから、それに対して『アレら』っていうのはちょっと……」
「言いたくもなりますよ!何ですか。あの薄気味悪い会話!まだおおたかっちが先輩に掛ける言葉の方が何億倍もましですよ!それに、先輩をバカにするあの言葉は許せません!」
なにやら、河合さんのご機嫌は斜めらしい。私も河合さんの言うアレらに関しては思うところも多い。職場でしていい会話の限度を超えた下品な会話をしていることもある。
私と河合さんがアレらと言っているのは、私の幼馴染とその恋人のことだ。あれから、私の幼馴染はかなり年下の社員と付き合い始めた。つまり、当間と梨々花ちゃんの話が聞くに堪えないということだ。
「大鷹さんと比較しなくても……。まあ、年の差10歳であれは、確かにやばい気はするけどね」
思い返してみるが、なかなかひどい。確かに私をバカにしている言葉もあるが、大鷹さん関係の悪口はすでに慣れているので気にしない。例えば、今朝の会話だと。
『当間くん、これ、わからないんだけど。ああ、ごめんね、当間君もまだ入ったばかりで知らないよね』
『梨々花ちゃん、大丈夫だよ。わからないけど、一緒に考えよう。それで、今夜だけど、どっちの家に行く?』
『私は今、仕事の話をしているんですう。でも、今日はどうしようかなあ。昨日、当間君が激しかったから、今日はシーツを丸洗いして干しているんですよ。今日は天気も悪いから、乾いていないかも……』
『じゃあ、今日は僕の家だね。定時で上がれるように仕事頑張るよ。梨々花ちゃんと出会ってから、仕事に精が出るよ。転職してきて周りが知らない人だらけの中で不安だったけど、梨々花ちゃんみたいな天使に出会えて、僕は本当に幸せ者だよ』
『当間君ったら、大げさだよ。それに、知り合いなら一人いたんでしょう?』
『ああ、あれは気にしなくていいよ。ただのモブみたいなものだから。それに、どんな汚い手を使ったのか知らないけど、あれは絶対結婚詐欺にあってるね。彼女にあんなイケメンの相手は相応しくない』
『えええ。ひどいですよお。でもお、倉敷先輩って、結婚してるのに旧姓で仕事しているらしいですよ。その辺も何か関係あるのかも』
『あんな奴は気にしなくていいよ。じゃあ、今日はオレの家に集合。今日は金曜日だから、オールで楽しもうな!』
『何をオールするのやら。でも、それは先輩次第です!私、最近、体力ついてきたので!』
『若いなあ』
『アハハハハ!』
思い出しただけで気持ち悪くなる。この会話を白昼堂々、仕事中にしているのだ。人手不足が深刻な世の中、辞めさせるわけにもいかないが、とっとと二人してこの職場からいなくなって欲しい。
「僻地の支店にでも異動になってしまえばいい」
思わず漏れ出た独り言だが、ばっちりと河合さんには聞こえていたらしい。同感だと頷かれる。とはいえ、彼らの会話でわかったことがある。
「とりあえず、漫画みたいな謎の会話は現実でも繰り広げられることがわかりました」
「確かにそういわれれば、そうかもしれないですね。先輩、なんとかして彼らを小説に登場させて、ギッタンギッタンに懲らしめてやることってできませんかね?」
「なかなか無理なことを言いますね。まあ、検討はしてみます」
個人情報流出を避けつつ、そんな感じの人物を小説に登場させる。できないこともないが、身バレをする可能性も出てくるし、ばれたら訴えられる。しかし、時折やっていることだ。今回も気をつけて執筆すればいい。
「そろそろ、休憩時間終わりですね」
「午後からも頑張りましょう。先輩、期待していますよ!」
うっとうしい会話が聞こえてくるかもしれないが、左から右に流して午後からも仕事を頑張るしかない。私たちは一つため息をついて、食べたものを片付ける。休憩室を出て午後の仕事に向かった。
「なんですか、それ?」
週明け、仕事の休憩中に河合さんが突然、わけのわからないことを言い始めた。陰キャはわかるが「主人公みたい」という修飾語が意味不明だ。
今日もまた、私と河合さん二人が同時に休憩らしい。私は昨日の残りが詰まったお弁当を広げるが、河合さんはコンビニで買ったおにぎりが昼食のようだ。私たちはそれぞれの昼食を口に運びつつ会話する。ちなみに私の夕食はピーマンの肉詰めだ。黒焦げと化したピーマンだが食べられないこともない。
「ほら、異世界転生系とか、エロ同人誌とかだと、陰キャが主人公な話って多いじゃないですか?なんとなく、先輩がその系統っぽいなと思いまして」
「はあ」
河合さんの言動は理解できないことが多い。彼女が今時の若者であり、私との間にジェネレーションギャップでも生じているのか。それにしては、私の小説の大ファンだし、よくわからない。
「まあ、先輩って見た目はあんまり陰キャっぽくないですけど。どちらかというと、きつめの印象を受けます。前髪も眉上でショートだし、陰キャとは真逆の髪型ではありますね」
「河合さんは、それで言うと『ヒロインから恋人を奪う、あざと女みたいな容姿』ですね」
『ははははははは』
いったい、仕事の昼休憩中に何を話しているのやら。私の返しに河合さんは乾いた笑い声をあげるが、その笑い声は奇しくも私とかぶり、休憩室は不気味な笑い声で満たされる。
「急に変なこと言ってすみません。でもほら、こうやって冗談でも言っていないと、『アレら』の姿を見ながら平穏な気持ちで仕事できないでしょう?」
「一応、あれでも付き合っている男女だから、それに対して『アレら』っていうのはちょっと……」
「言いたくもなりますよ!何ですか。あの薄気味悪い会話!まだおおたかっちが先輩に掛ける言葉の方が何億倍もましですよ!それに、先輩をバカにするあの言葉は許せません!」
なにやら、河合さんのご機嫌は斜めらしい。私も河合さんの言うアレらに関しては思うところも多い。職場でしていい会話の限度を超えた下品な会話をしていることもある。
私と河合さんがアレらと言っているのは、私の幼馴染とその恋人のことだ。あれから、私の幼馴染はかなり年下の社員と付き合い始めた。つまり、当間と梨々花ちゃんの話が聞くに堪えないということだ。
「大鷹さんと比較しなくても……。まあ、年の差10歳であれは、確かにやばい気はするけどね」
思い返してみるが、なかなかひどい。確かに私をバカにしている言葉もあるが、大鷹さん関係の悪口はすでに慣れているので気にしない。例えば、今朝の会話だと。
『当間くん、これ、わからないんだけど。ああ、ごめんね、当間君もまだ入ったばかりで知らないよね』
『梨々花ちゃん、大丈夫だよ。わからないけど、一緒に考えよう。それで、今夜だけど、どっちの家に行く?』
『私は今、仕事の話をしているんですう。でも、今日はどうしようかなあ。昨日、当間君が激しかったから、今日はシーツを丸洗いして干しているんですよ。今日は天気も悪いから、乾いていないかも……』
『じゃあ、今日は僕の家だね。定時で上がれるように仕事頑張るよ。梨々花ちゃんと出会ってから、仕事に精が出るよ。転職してきて周りが知らない人だらけの中で不安だったけど、梨々花ちゃんみたいな天使に出会えて、僕は本当に幸せ者だよ』
『当間君ったら、大げさだよ。それに、知り合いなら一人いたんでしょう?』
『ああ、あれは気にしなくていいよ。ただのモブみたいなものだから。それに、どんな汚い手を使ったのか知らないけど、あれは絶対結婚詐欺にあってるね。彼女にあんなイケメンの相手は相応しくない』
『えええ。ひどいですよお。でもお、倉敷先輩って、結婚してるのに旧姓で仕事しているらしいですよ。その辺も何か関係あるのかも』
『あんな奴は気にしなくていいよ。じゃあ、今日はオレの家に集合。今日は金曜日だから、オールで楽しもうな!』
『何をオールするのやら。でも、それは先輩次第です!私、最近、体力ついてきたので!』
『若いなあ』
『アハハハハ!』
思い出しただけで気持ち悪くなる。この会話を白昼堂々、仕事中にしているのだ。人手不足が深刻な世の中、辞めさせるわけにもいかないが、とっとと二人してこの職場からいなくなって欲しい。
「僻地の支店にでも異動になってしまえばいい」
思わず漏れ出た独り言だが、ばっちりと河合さんには聞こえていたらしい。同感だと頷かれる。とはいえ、彼らの会話でわかったことがある。
「とりあえず、漫画みたいな謎の会話は現実でも繰り広げられることがわかりました」
「確かにそういわれれば、そうかもしれないですね。先輩、なんとかして彼らを小説に登場させて、ギッタンギッタンに懲らしめてやることってできませんかね?」
「なかなか無理なことを言いますね。まあ、検討はしてみます」
個人情報流出を避けつつ、そんな感じの人物を小説に登場させる。できないこともないが、身バレをする可能性も出てくるし、ばれたら訴えられる。しかし、時折やっていることだ。今回も気をつけて執筆すればいい。
「そろそろ、休憩時間終わりですね」
「午後からも頑張りましょう。先輩、期待していますよ!」
うっとうしい会話が聞こえてくるかもしれないが、左から右に流して午後からも仕事を頑張るしかない。私たちは一つため息をついて、食べたものを片付ける。休憩室を出て午後の仕事に向かった。
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