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番外編【変人になりたい】6七夕
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※前回の話とはつながっていません。
「ところで、今日は七夕ですね」
「もう、そんな時期ですか?紗々さんは何か、お願い事はしましたか?」
「特に何も。笹も飾っていないし、短冊もないので」
あっという間に七夕の季節がやってきた。今日は7月7日。今年は当日の夜は雨も降らず、織姫と彦星が出会えそうな天気予報だ。とはいえ、7月に入ってからの猛暑は身に堪える。
「僕も短冊とか書いていないですけど、お願い事はありますよ」
『紗々さんとずっといられますように』
「とか、当たり前なことを……。ええと」
今年もまた、去年と同じように私も大鷹さんも暑さで頭がやられているらしい。私が冗談で言った言葉に、大鷹さんの声が合わさってきれいなハモリを見せた。私も大鷹さんもまさかハモるとは思わず、数秒間、お互いをまじまじと見つめてしまう。
「当たり前……ですか。うれしいことを聞きました。最近、僕とずっと一緒にいようと思ってくれる発言が多いですが、何度聞いてもうれしいものです」
改めて自分の発言が大鷹さんの口から言われると、恥ずかしくなってしまう。エアコンが効いた涼しい部屋の中なのに、変な汗をかいてしまった。顔も赤くなっているに違いない。
「いやいや、それはいったん、置いておきましょう。せっかく七夕に願いごとをするのなら、もっと大きな願い事をするべきじゃないですか?何か、夢とかやりたいこととかないんですか?」
私が恥ずかしい思いをしているのに、大鷹さんは全然平気な様子で惚気ている。恥ずかしさをごまかすように、他に願いごとはないのか聞いてみると、なぜか大鷹さんは首をかしげて悩んでいる。私なんて、願いごとはたくさんあり過ぎて七夕の短冊に書ききれないほどあるというのに。
「イケメンハイスペックモテ男は、願いごとなんてしなくてもすでにすべてを持ち合わせていますってか。ああ、ああ、そうですかあああああ」
つい、汚い心の内が口から出てしまった。恥ずかしい思いと、願いごとをしなくてもよいほどの恵まれているスペックに頭が混乱したということにしておこう。
「別に願い事がないわけではないですよ。イケメンハイスペックモテ男とは、絶妙にダサいネーミングセンスですね」
まったく、大鷹さんは心が広いのか、私がおかしいことへの理解が深すぎるのか、変な発言をした後の反応が薄すぎる。顔も赤くなっていないし、言葉に動揺も見られない。
「僕の事は気にしなくていいですよ。それより、紗々さんは何か願い事があるみたいですね。せっかくだし、短冊に願いごとを書いて飾っておきます?せっかくのイベントごとに乗っかるのも悪くないでしょう?」
大鷹さんの提案により、七夕らしく短冊に願いごとを書くことになった。昼食後、リビングのテーブルには準備よろしく長方形の短冊が2枚、置かれていた。さらには短冊をつるすことができるよう、笹の枝まで置いてある。
「買い物に行ったときに七夕コーナーがあって、『ご自由にお取りください』ってあったから、もらってきました。役に立ってよかった」
私もよくいく店なのだが、全然気にしていなかった。いつも会社帰りに寄るので、疲れていて周りに目を向ける余裕がなかった。ご丁寧に笹まで持ち帰ってきているが、自分の部屋に置いていたのか、私はまったく笹の存在に気付かなかった。
「いつ、もらってきたんですか?」
「紗々さんが夕食当番の時だった気がするから……。一昨日ですね」
夕食当番だからと言って、気付かないものだろうか。最近の暑さで疲れているのか、周りも見えていないし、精神的に余裕がなさすぎる。
「僕も実はまだ、書いていないんです。でも紗々さんに願いごとを伝えて良かった。もう叶った願いを書くのはもったいないですからね。別の願い事にします。どちらの色に書きますか?」
「じゃ、じゃあ、こっちの黄色い方に私は書きます」
2枚の短冊、黄色と水色のそれぞれにお互いの願い事を書くことになった。
「紗々さん、裏と表に書いたんですか?それだと2個の願いごとになりますよね?普通、七夕の願いごとって一つじゃないですか?」
「書けと言ったのは大鷹さんです。それに、そもそも織姫と彦星が一年に一回出会うっていう日なのですから、他人の願いなんて二人は気にしないですよ。神様なんていないわけだし、願いごとを何個書いても問題はないはずです」
「暴論ですね。まあ、いいと思いますよ」
「そういう大鷹さんだって、人のこと言えますか?私と同じで裏と表に書いているように見えますが」
「確かに、そうかもしれません。それで、一斉に見せ合いっこでもしますか?」
「遠慮します」
そんなわけで、私たちは七夕当日に短冊に願いごとを書いて、笹に飾って七夕のイベントを楽しんだのだった。
『大鷹さんとずっと一緒に居られますように』
『小説が商業化されますように』
『紗々さんとずっと一緒に居られますように』
『僕たち夫婦が病気や怪我なく一年が過ごせますように』
短冊の見せあいこそしなかったが、大鷹さんも私もお互いの短冊の内容は確認できても、内容に口出すことはなかった。花瓶を出してそこに笹をさして玄関の棚に飾ることにした。
「ところで、今日は七夕ですね」
「もう、そんな時期ですか?紗々さんは何か、お願い事はしましたか?」
「特に何も。笹も飾っていないし、短冊もないので」
あっという間に七夕の季節がやってきた。今日は7月7日。今年は当日の夜は雨も降らず、織姫と彦星が出会えそうな天気予報だ。とはいえ、7月に入ってからの猛暑は身に堪える。
「僕も短冊とか書いていないですけど、お願い事はありますよ」
『紗々さんとずっといられますように』
「とか、当たり前なことを……。ええと」
今年もまた、去年と同じように私も大鷹さんも暑さで頭がやられているらしい。私が冗談で言った言葉に、大鷹さんの声が合わさってきれいなハモリを見せた。私も大鷹さんもまさかハモるとは思わず、数秒間、お互いをまじまじと見つめてしまう。
「当たり前……ですか。うれしいことを聞きました。最近、僕とずっと一緒にいようと思ってくれる発言が多いですが、何度聞いてもうれしいものです」
改めて自分の発言が大鷹さんの口から言われると、恥ずかしくなってしまう。エアコンが効いた涼しい部屋の中なのに、変な汗をかいてしまった。顔も赤くなっているに違いない。
「いやいや、それはいったん、置いておきましょう。せっかく七夕に願いごとをするのなら、もっと大きな願い事をするべきじゃないですか?何か、夢とかやりたいこととかないんですか?」
私が恥ずかしい思いをしているのに、大鷹さんは全然平気な様子で惚気ている。恥ずかしさをごまかすように、他に願いごとはないのか聞いてみると、なぜか大鷹さんは首をかしげて悩んでいる。私なんて、願いごとはたくさんあり過ぎて七夕の短冊に書ききれないほどあるというのに。
「イケメンハイスペックモテ男は、願いごとなんてしなくてもすでにすべてを持ち合わせていますってか。ああ、ああ、そうですかあああああ」
つい、汚い心の内が口から出てしまった。恥ずかしい思いと、願いごとをしなくてもよいほどの恵まれているスペックに頭が混乱したということにしておこう。
「別に願い事がないわけではないですよ。イケメンハイスペックモテ男とは、絶妙にダサいネーミングセンスですね」
まったく、大鷹さんは心が広いのか、私がおかしいことへの理解が深すぎるのか、変な発言をした後の反応が薄すぎる。顔も赤くなっていないし、言葉に動揺も見られない。
「僕の事は気にしなくていいですよ。それより、紗々さんは何か願い事があるみたいですね。せっかくだし、短冊に願いごとを書いて飾っておきます?せっかくのイベントごとに乗っかるのも悪くないでしょう?」
大鷹さんの提案により、七夕らしく短冊に願いごとを書くことになった。昼食後、リビングのテーブルには準備よろしく長方形の短冊が2枚、置かれていた。さらには短冊をつるすことができるよう、笹の枝まで置いてある。
「買い物に行ったときに七夕コーナーがあって、『ご自由にお取りください』ってあったから、もらってきました。役に立ってよかった」
私もよくいく店なのだが、全然気にしていなかった。いつも会社帰りに寄るので、疲れていて周りに目を向ける余裕がなかった。ご丁寧に笹まで持ち帰ってきているが、自分の部屋に置いていたのか、私はまったく笹の存在に気付かなかった。
「いつ、もらってきたんですか?」
「紗々さんが夕食当番の時だった気がするから……。一昨日ですね」
夕食当番だからと言って、気付かないものだろうか。最近の暑さで疲れているのか、周りも見えていないし、精神的に余裕がなさすぎる。
「僕も実はまだ、書いていないんです。でも紗々さんに願いごとを伝えて良かった。もう叶った願いを書くのはもったいないですからね。別の願い事にします。どちらの色に書きますか?」
「じゃ、じゃあ、こっちの黄色い方に私は書きます」
2枚の短冊、黄色と水色のそれぞれにお互いの願い事を書くことになった。
「紗々さん、裏と表に書いたんですか?それだと2個の願いごとになりますよね?普通、七夕の願いごとって一つじゃないですか?」
「書けと言ったのは大鷹さんです。それに、そもそも織姫と彦星が一年に一回出会うっていう日なのですから、他人の願いなんて二人は気にしないですよ。神様なんていないわけだし、願いごとを何個書いても問題はないはずです」
「暴論ですね。まあ、いいと思いますよ」
「そういう大鷹さんだって、人のこと言えますか?私と同じで裏と表に書いているように見えますが」
「確かに、そうかもしれません。それで、一斉に見せ合いっこでもしますか?」
「遠慮します」
そんなわけで、私たちは七夕当日に短冊に願いごとを書いて、笹に飾って七夕のイベントを楽しんだのだった。
『大鷹さんとずっと一緒に居られますように』
『小説が商業化されますように』
『紗々さんとずっと一緒に居られますように』
『僕たち夫婦が病気や怪我なく一年が過ごせますように』
短冊の見せあいこそしなかったが、大鷹さんも私もお互いの短冊の内容は確認できても、内容に口出すことはなかった。花瓶を出してそこに笹をさして玄関の棚に飾ることにした。
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