結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
上 下
159 / 206

番外編【変人になりたい】6七夕

しおりを挟む
※前回の話とはつながっていません。


「ところで、今日は七夕ですね」

「もう、そんな時期ですか?紗々さんは何か、お願い事はしましたか?」

「特に何も。笹も飾っていないし、短冊もないので」

 あっという間に七夕の季節がやってきた。今日は7月7日。今年は当日の夜は雨も降らず、織姫と彦星が出会えそうな天気予報だ。とはいえ、7月に入ってからの猛暑は身に堪える。

「僕も短冊とか書いていないですけど、お願い事はありますよ」

『紗々さんとずっといられますように』

「とか、当たり前なことを……。ええと」

 今年もまた、去年と同じように私も大鷹さんも暑さで頭がやられているらしい。私が冗談で言った言葉に、大鷹さんの声が合わさってきれいなハモリを見せた。私も大鷹さんもまさかハモるとは思わず、数秒間、お互いをまじまじと見つめてしまう。

「当たり前……ですか。うれしいことを聞きました。最近、僕とずっと一緒にいようと思ってくれる発言が多いですが、何度聞いてもうれしいものです」

 改めて自分の発言が大鷹さんの口から言われると、恥ずかしくなってしまう。エアコンが効いた涼しい部屋の中なのに、変な汗をかいてしまった。顔も赤くなっているに違いない。

「いやいや、それはいったん、置いておきましょう。せっかく七夕に願いごとをするのなら、もっと大きな願い事をするべきじゃないですか?何か、夢とかやりたいこととかないんですか?」

 私が恥ずかしい思いをしているのに、大鷹さんは全然平気な様子で惚気ている。恥ずかしさをごまかすように、他に願いごとはないのか聞いてみると、なぜか大鷹さんは首をかしげて悩んでいる。私なんて、願いごとはたくさんあり過ぎて七夕の短冊に書ききれないほどあるというのに。

「イケメンハイスペックモテ男は、願いごとなんてしなくてもすでにすべてを持ち合わせていますってか。ああ、ああ、そうですかあああああ」

 つい、汚い心の内が口から出てしまった。恥ずかしい思いと、願いごとをしなくてもよいほどの恵まれているスペックに頭が混乱したということにしておこう。

「別に願い事がないわけではないですよ。イケメンハイスペックモテ男とは、絶妙にダサいネーミングセンスですね」

 まったく、大鷹さんは心が広いのか、私がおかしいことへの理解が深すぎるのか、変な発言をした後の反応が薄すぎる。顔も赤くなっていないし、言葉に動揺も見られない。

「僕の事は気にしなくていいですよ。それより、紗々さんは何か願い事があるみたいですね。せっかくだし、短冊に願いごとを書いて飾っておきます?せっかくのイベントごとに乗っかるのも悪くないでしょう?」



 大鷹さんの提案により、七夕らしく短冊に願いごとを書くことになった。昼食後、リビングのテーブルには準備よろしく長方形の短冊が2枚、置かれていた。さらには短冊をつるすことができるよう、笹の枝まで置いてある。

「買い物に行ったときに七夕コーナーがあって、『ご自由にお取りください』ってあったから、もらってきました。役に立ってよかった」

 私もよくいく店なのだが、全然気にしていなかった。いつも会社帰りに寄るので、疲れていて周りに目を向ける余裕がなかった。ご丁寧に笹まで持ち帰ってきているが、自分の部屋に置いていたのか、私はまったく笹の存在に気付かなかった。

「いつ、もらってきたんですか?」

「紗々さんが夕食当番の時だった気がするから……。一昨日ですね」

 夕食当番だからと言って、気付かないものだろうか。最近の暑さで疲れているのか、周りも見えていないし、精神的に余裕がなさすぎる。

「僕も実はまだ、書いていないんです。でも紗々さんに願いごとを伝えて良かった。もう叶った願いを書くのはもったいないですからね。別の願い事にします。どちらの色に書きますか?」

「じゃ、じゃあ、こっちの黄色い方に私は書きます」

 2枚の短冊、黄色と水色のそれぞれにお互いの願い事を書くことになった。

「紗々さん、裏と表に書いたんですか?それだと2個の願いごとになりますよね?普通、七夕の願いごとって一つじゃないですか?」

「書けと言ったのは大鷹さんです。それに、そもそも織姫と彦星が一年に一回出会うっていう日なのですから、他人の願いなんて二人は気にしないですよ。神様なんていないわけだし、願いごとを何個書いても問題はないはずです」

「暴論ですね。まあ、いいと思いますよ」

「そういう大鷹さんだって、人のこと言えますか?私と同じで裏と表に書いているように見えますが」

「確かに、そうかもしれません。それで、一斉に見せ合いっこでもしますか?」

「遠慮します」

 そんなわけで、私たちは七夕当日に短冊に願いごとを書いて、笹に飾って七夕のイベントを楽しんだのだった。

『大鷹さんとずっと一緒に居られますように』
『小説が商業化されますように』

『紗々さんとずっと一緒に居られますように』
『僕たち夫婦が病気や怪我なく一年が過ごせますように』

 短冊の見せあいこそしなかったが、大鷹さんも私もお互いの短冊の内容は確認できても、内容に口出すことはなかった。花瓶を出してそこに笹をさして玄関の棚に飾ることにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

処理中です...