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番外編【波乱の新年の幕開け】10私の夫、素敵でしょ
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河合さんと当間との食事会が終わったのは、20時30分過ぎだった。18時30分に予約をしていたので、約2時間話していたことになる。レストランの外に出ると、冬らしい寒さが身に染みた。
「先輩、旦那さんには今日の食事会の報告を入れておきますね」
「紗々ちゃん、今日はありがとう。紗々ちゃんの近況が聞けて楽しかったよ」
別れ際に放たれた彼らの言葉は、私にとっては嫌な言葉だった。河合さんに至っては、なぜ私の口からいうだけでは駄目なのか。絶対に私たちをからかって楽しむつもりだろう。
当間については、楽しかったのはお前と河合さんだけだと言いたい。私はちっとも楽しくなかったし、そもそもこの食事会自体に私は参加したくなかった。
「私も楽しかったです。河合さん、当間君。また来週、会社で会いましょう」
世の中、社交辞令というものがある。楽しくなくても、場の空気を読んだら、楽しかったというほかない。営業スマイルを思い出して笑顔で二人に声をかける。しかし、どうやらかなり変な顔になっているようだ。河合さんは私の顔を見て笑い出し、当間は笑いを抑えようと必死だ。
「紗々さん。食事会が終わったのなら、サッサと帰りましょう」
「お、大鷹さん!どうして」
レストランの駐車場で話していたら、本来、この場にいるはずのない人間の声がした。慌てて声のした方に身体を向けると、そこにはなぜか私の夫の大鷹さんが立っていた。今朝、迎えはいらないと言ったはずだ。食事会が終わったら連絡するという約束はしっかり守った。レストランを出るとき、【今から店を出て帰るよ】と簡潔なメッセージをスマホで送っている。
「エエト、あなたは」
突然の大鷹さんの登場に驚いているのは私だけではない。いきなり大鷹さんみたいなイケメンが目の前に現れたら、誰だった驚くに決まっている。そして、当間はさらに驚くことになるだろう。だって、このイケメンは。
「初めまして。紗々さんの夫の大鷹攻(おおたかおさむ)と申します。紗々さんがいつもお世話になっています」
大鷹さんは私が話す間もなく、当間に向けて挨拶を始めた。そう、彼こそが私の夫の大鷹さんだ。当間には結婚しているとは言ったが、大鷹さんの写真は見せていない。当間の表情をうかがうと、ぽかんという言葉がぴったりの間抜けな顔をさらしていた。河合さんは笑い過ぎてお腹が痛くなったのか、その場に蹲りひーひー言っている。
「本当に攻君って、心配性だよねえ」
「きらりさん!あなたまでなぜ?」
「僕の交通手段がないからですよ。タクシーを使おうかと考えましたが、これは良いけん制になるかと思いまして」
なぜ、当間ごときにけん制が必要なのか。大鷹さんは時々、暴走することがある。そんなことをしなくても、私が大鷹さん以外の男に惑わされることなどないというのに。
きらりさんは、今日も見事な男装をしていた。はたから見たら、大鷹さんときらりさんのイケメン二人が颯爽と駐車場を歩いているように見えただろう。これは確かに、当間へのけん制になる気がした。
「私は別に車を出すことは構わなかったよ。だって、こんな面白い状況に居合わせることができたから。おや、河合さんもいたのか」
「きらりさん!お久しぶりです。相変わらず、素敵ですよ」
「ありがとう。河合さんも今日もかわいいよ」
河合さんときらりさんは、大鷹さんの看病イベントで知り合い、意気投合して頻繁に連絡は取り合う仲になったらしい。出会うなり、私には到底できない高度な会話を繰り広げている。
「紗々ちゃんって、すごい人たちと知り合いなんだね。彼女は」
「大鷹さんの親戚かな。私の旦那、どう思う?素敵でしょ!」
「ステキデスネ」
当間は大鷹さんを前に男としての敗北を感じたらしい。私の言葉の返事が片言になっている。
ざまあみろ。
こんな時に言う言葉ではないが、大鷹さんが現れたことで、ようやく今日一日のイライラが解消された。
私と大鷹さんは、私の車で帰ることになった。運転は私がすることにした。
それにしても、きらりさんを足に使うなんて、とんでもない男だ。親戚ならこういうものだろうか。きらりさんは、全然気にしていないようで、そのまま大鷹さんを運んできた車で去っていった。河合さんも当間も自分の車で帰宅した。
「食事会はどうでした?」
「普通です。やはり、私は大鷹さんの隣が一番落ち着きます」
「いきなり惚気られても何も出ませんよ」
帰りの車の中で、大鷹さんに今日のことを質問される。楽しくなかったが、よく考えたら、私は昔から人見知りコミュ障で、どちらかというと、ひとりの方が好きなタイプだ。そうなると、誰と食事会をしたって、よほどの相手でない限り、楽しめない。しかし、楽しくなかったというのはなんだか違う気がした。
だからこそ、普通という回答に至った。
「明日はお休みですけど、家でゴロゴロしますか?」
「当り前です。私を誰だと思っているんですか?土日引きこもりのコミュ障ボッチですよ」
「そうでしたね。じゃあ、僕もそれに倣って、明日は一日、家で紗々さんの隣でゴロゴロします」
車の中はとても和やかな空気に包まれていた。ふと車から窓の外を見ると、満月に近い月がきれいに見えていた
今回の件で、大鷹さんがかなり嫉妬深いと判明した。それは逆にいえば、それだけ私を好きだということだ。こんなに愛される私は、とても幸せ者だ。そんな大鷹さんに嫌われたり、飽きられたりしないよう、これからも精進していこうと心に誓った。
当間の登場により、新年早々、波乱の幕開けとなった。と言いつつも、波乱というほどの事件が起きたわけでもなく、ただ私たちの日常にちょっとしたスパイスが降り注がれたという感じで終わった。
「先輩、旦那さんには今日の食事会の報告を入れておきますね」
「紗々ちゃん、今日はありがとう。紗々ちゃんの近況が聞けて楽しかったよ」
別れ際に放たれた彼らの言葉は、私にとっては嫌な言葉だった。河合さんに至っては、なぜ私の口からいうだけでは駄目なのか。絶対に私たちをからかって楽しむつもりだろう。
当間については、楽しかったのはお前と河合さんだけだと言いたい。私はちっとも楽しくなかったし、そもそもこの食事会自体に私は参加したくなかった。
「私も楽しかったです。河合さん、当間君。また来週、会社で会いましょう」
世の中、社交辞令というものがある。楽しくなくても、場の空気を読んだら、楽しかったというほかない。営業スマイルを思い出して笑顔で二人に声をかける。しかし、どうやらかなり変な顔になっているようだ。河合さんは私の顔を見て笑い出し、当間は笑いを抑えようと必死だ。
「紗々さん。食事会が終わったのなら、サッサと帰りましょう」
「お、大鷹さん!どうして」
レストランの駐車場で話していたら、本来、この場にいるはずのない人間の声がした。慌てて声のした方に身体を向けると、そこにはなぜか私の夫の大鷹さんが立っていた。今朝、迎えはいらないと言ったはずだ。食事会が終わったら連絡するという約束はしっかり守った。レストランを出るとき、【今から店を出て帰るよ】と簡潔なメッセージをスマホで送っている。
「エエト、あなたは」
突然の大鷹さんの登場に驚いているのは私だけではない。いきなり大鷹さんみたいなイケメンが目の前に現れたら、誰だった驚くに決まっている。そして、当間はさらに驚くことになるだろう。だって、このイケメンは。
「初めまして。紗々さんの夫の大鷹攻(おおたかおさむ)と申します。紗々さんがいつもお世話になっています」
大鷹さんは私が話す間もなく、当間に向けて挨拶を始めた。そう、彼こそが私の夫の大鷹さんだ。当間には結婚しているとは言ったが、大鷹さんの写真は見せていない。当間の表情をうかがうと、ぽかんという言葉がぴったりの間抜けな顔をさらしていた。河合さんは笑い過ぎてお腹が痛くなったのか、その場に蹲りひーひー言っている。
「本当に攻君って、心配性だよねえ」
「きらりさん!あなたまでなぜ?」
「僕の交通手段がないからですよ。タクシーを使おうかと考えましたが、これは良いけん制になるかと思いまして」
なぜ、当間ごときにけん制が必要なのか。大鷹さんは時々、暴走することがある。そんなことをしなくても、私が大鷹さん以外の男に惑わされることなどないというのに。
きらりさんは、今日も見事な男装をしていた。はたから見たら、大鷹さんときらりさんのイケメン二人が颯爽と駐車場を歩いているように見えただろう。これは確かに、当間へのけん制になる気がした。
「私は別に車を出すことは構わなかったよ。だって、こんな面白い状況に居合わせることができたから。おや、河合さんもいたのか」
「きらりさん!お久しぶりです。相変わらず、素敵ですよ」
「ありがとう。河合さんも今日もかわいいよ」
河合さんときらりさんは、大鷹さんの看病イベントで知り合い、意気投合して頻繁に連絡は取り合う仲になったらしい。出会うなり、私には到底できない高度な会話を繰り広げている。
「紗々ちゃんって、すごい人たちと知り合いなんだね。彼女は」
「大鷹さんの親戚かな。私の旦那、どう思う?素敵でしょ!」
「ステキデスネ」
当間は大鷹さんを前に男としての敗北を感じたらしい。私の言葉の返事が片言になっている。
ざまあみろ。
こんな時に言う言葉ではないが、大鷹さんが現れたことで、ようやく今日一日のイライラが解消された。
私と大鷹さんは、私の車で帰ることになった。運転は私がすることにした。
それにしても、きらりさんを足に使うなんて、とんでもない男だ。親戚ならこういうものだろうか。きらりさんは、全然気にしていないようで、そのまま大鷹さんを運んできた車で去っていった。河合さんも当間も自分の車で帰宅した。
「食事会はどうでした?」
「普通です。やはり、私は大鷹さんの隣が一番落ち着きます」
「いきなり惚気られても何も出ませんよ」
帰りの車の中で、大鷹さんに今日のことを質問される。楽しくなかったが、よく考えたら、私は昔から人見知りコミュ障で、どちらかというと、ひとりの方が好きなタイプだ。そうなると、誰と食事会をしたって、よほどの相手でない限り、楽しめない。しかし、楽しくなかったというのはなんだか違う気がした。
だからこそ、普通という回答に至った。
「明日はお休みですけど、家でゴロゴロしますか?」
「当り前です。私を誰だと思っているんですか?土日引きこもりのコミュ障ボッチですよ」
「そうでしたね。じゃあ、僕もそれに倣って、明日は一日、家で紗々さんの隣でゴロゴロします」
車の中はとても和やかな空気に包まれていた。ふと車から窓の外を見ると、満月に近い月がきれいに見えていた
今回の件で、大鷹さんがかなり嫉妬深いと判明した。それは逆にいえば、それだけ私を好きだということだ。こんなに愛される私は、とても幸せ者だ。そんな大鷹さんに嫌われたり、飽きられたりしないよう、これからも精進していこうと心に誓った。
当間の登場により、新年早々、波乱の幕開けとなった。と言いつつも、波乱というほどの事件が起きたわけでもなく、ただ私たちの日常にちょっとしたスパイスが降り注がれたという感じで終わった。
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