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番外編【変人になりたい】1趣味とは言っても……
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月日が過ぎるのはあっという間だ。新しい年が始まったと思えば、すぐに半年が経過している。幼馴染?の当間が私の会社で働き始めてから、半年が過ぎようとしていた。
「最近、小説の投稿がないみたいですけど、どうしたんですか?」
6月の休日。家で大鷹さんと一緒に昼食のそうめんを食べていた時のこと。大鷹さんに突然、心配そうに尋ねられた。
「それ、私の投稿が止まるたびに言っていますけど、私は本業が小説家ではないので、投稿が止まることだってあります。それにいちいち言及していたら、疲れませんか?」
確かに私はここ最近、小説の投稿をしていない。読者にとっては私の生存状況が気になることだろう。
まあ、それは人気作家限定かもしれない。
幸運なことに、私の小説にも多少の読者は存在する。しかし、熱心にコメントをくれるのは大鷹さんと河合さんくらいで、後のつつましい読者たちは、私の更新が止まろうが特に何も反応がない。きっと、心の中では新作が読みたいのだろうが、コメントまではできない、といったところだろう。とはいえ、あくまでこれは私の憶測にすぎない。
小説節投稿サイトの作品で、更新が止まった小説の感想欄を見ると、「更新が止まっていますが大丈夫ですか?」「早く続きが読みたいです。更新待ってます!」などのコメントを見かける。
私だって、面白い小説を読んでいて途中で更新が止まっていたら、同じようなことを思う。しかし、私はそんな更新が止まった作品に対して、作者に何かコメントを送ったことはない。私の読者と同じということだ。世の中、なかなかコメントを送れない人が多い。
「僕以外の『紗々の葉先生』の読者もきっと、先生の新作の小説を今か今かと楽しみに待っていると思います。だから、一読者として彼らの言葉を僕が代弁していると……」
「はあ」
思わず、大鷹さんの言葉を遮って溜息が出てしまう。大鷹さんの言いたいことはわかる。しかし、創作者にしてみれば、読者の言葉は励みにもなるが、かなりのプレッシャーでもある。創作と向き合うためにはかなりの体力を使う。
「何か、執筆できない事情でもあったのでしょうか?悩みがあるなら、僕でもいいし、なんなら河合江子でもいいし、ご両親でも僕の親戚にでも相談してみたら」
「いえ、その心配は無用です」
これに関しては即答できる。今回の件は相談しても仕方のないことだ。私はそうめんを口に入れて、咀嚼して飲み込んでから一度深呼吸をする。既に初夏のような気温だが、まだエアコンを入れるほどでもないため、最近出した扇風機を回している。風が気持ちよく私にむいて吹いてくる。
「仕事が忙しくて、精神的に創作するほどの力が残っていなかっただけです」
そう、ただそれだけだ。4月に入って新年度が始まり、なんだか仕事が忙しくなってしまい残業が少しあった。ブラック企業ほどでもないが、支店にやってくるお客も多く、心が疲弊していた。
「創作する時間がないほどの残業でもなかったと思いますけど」
「うううう」
これは手痛い質問だ。大鷹さんの言う通り、私の帰宅時間がそこまで遅くなることはなかった。夕食は一緒に大鷹さんと取れるくらいだった。しかし、時間があるからといって、創作できるかといえば、そうとは限らない。大鷹さんの追及は続いていく。
「僕、知っていますよ。最近、紗々さんはスマホで動画をずっとダラダラと見たり、ゲームをしたりして過ごしているのを」
「それはその……。新たに物語を生み出す気力がなかったんです!」
これは言い訳させてほしい。わかりやすく、SNSで見かけたイラストレーターの話を取り上げて説明する。
「イラストレーターのSNSで見かけたんですけど、仕事のイラストは描けないのに、趣味のイラストは投稿している。これを見て、大鷹さんはどう思いますか?」
「突然ですね。まあ、同じイラストなら仕事をして欲しいな、とは思いますね」
「それですよ!」
大鷹さんの言葉につい、声を荒げてしまった。大鷹さんは驚いて私を見つめるが、いつものことなので気にしない。
「仕事と趣味は違います」
私はイラストを描く能力はないので、完全には理解できないが、これを小説に当てはめるとなんとなく理解できる。
小説を書くことで、気分転換できて元気に仕事に向かう人もいるが、私は残念ながら、そこまで小説を趣味として生きていない。きっと、その人にとってはイラストを描くことが生きがいなのだろう。しかし、仕事だと思うとやる気が出ない。そんなジレンマを抱えているに違いない。まあ、私は仕事のせいで、趣味の小説を書くことができていないので反対ではあるが。
「じゃあ、紗々さんは小説を書くことを仕事だと思っていたってことですか?」
「いや、そういうわけではなくて……」
続く言葉が見つからない。趣味ではあるが、精神的に疲れすぎて物語を執筆する気力がなかったのだ。いくら趣味とは言っても、無理な時もある。
「で、でも、仕事もようやく落ち着いてきましたので、今日からでも少しずつ執筆していく所存であります!」
「いや、僕が言い過ぎましたね。紗々さんの小説が読みたくて強要させることを言ってしまいました。すみません。書きたくなったら書いてください。無理はしないでください」
せっかく、私がやる気を出そうとしているのになんてことを言うのだ。大鷹さんは私に小説を書いてほしいのか、欲しくないのか。
きっと、心の中では書いてほしい思いでいっぱいだろうが、私の負担にならないように気を遣ってくれているのだ。
そうめんを食べ終えた私は、大鷹さんがキッチンで洗い物をしているのを見ながら決意した。
「自分でやるって言ったんだから、頑張りますか」
自分の部屋に向かい、久々にパソコンを起動することにした。
「最近、小説の投稿がないみたいですけど、どうしたんですか?」
6月の休日。家で大鷹さんと一緒に昼食のそうめんを食べていた時のこと。大鷹さんに突然、心配そうに尋ねられた。
「それ、私の投稿が止まるたびに言っていますけど、私は本業が小説家ではないので、投稿が止まることだってあります。それにいちいち言及していたら、疲れませんか?」
確かに私はここ最近、小説の投稿をしていない。読者にとっては私の生存状況が気になることだろう。
まあ、それは人気作家限定かもしれない。
幸運なことに、私の小説にも多少の読者は存在する。しかし、熱心にコメントをくれるのは大鷹さんと河合さんくらいで、後のつつましい読者たちは、私の更新が止まろうが特に何も反応がない。きっと、心の中では新作が読みたいのだろうが、コメントまではできない、といったところだろう。とはいえ、あくまでこれは私の憶測にすぎない。
小説節投稿サイトの作品で、更新が止まった小説の感想欄を見ると、「更新が止まっていますが大丈夫ですか?」「早く続きが読みたいです。更新待ってます!」などのコメントを見かける。
私だって、面白い小説を読んでいて途中で更新が止まっていたら、同じようなことを思う。しかし、私はそんな更新が止まった作品に対して、作者に何かコメントを送ったことはない。私の読者と同じということだ。世の中、なかなかコメントを送れない人が多い。
「僕以外の『紗々の葉先生』の読者もきっと、先生の新作の小説を今か今かと楽しみに待っていると思います。だから、一読者として彼らの言葉を僕が代弁していると……」
「はあ」
思わず、大鷹さんの言葉を遮って溜息が出てしまう。大鷹さんの言いたいことはわかる。しかし、創作者にしてみれば、読者の言葉は励みにもなるが、かなりのプレッシャーでもある。創作と向き合うためにはかなりの体力を使う。
「何か、執筆できない事情でもあったのでしょうか?悩みがあるなら、僕でもいいし、なんなら河合江子でもいいし、ご両親でも僕の親戚にでも相談してみたら」
「いえ、その心配は無用です」
これに関しては即答できる。今回の件は相談しても仕方のないことだ。私はそうめんを口に入れて、咀嚼して飲み込んでから一度深呼吸をする。既に初夏のような気温だが、まだエアコンを入れるほどでもないため、最近出した扇風機を回している。風が気持ちよく私にむいて吹いてくる。
「仕事が忙しくて、精神的に創作するほどの力が残っていなかっただけです」
そう、ただそれだけだ。4月に入って新年度が始まり、なんだか仕事が忙しくなってしまい残業が少しあった。ブラック企業ほどでもないが、支店にやってくるお客も多く、心が疲弊していた。
「創作する時間がないほどの残業でもなかったと思いますけど」
「うううう」
これは手痛い質問だ。大鷹さんの言う通り、私の帰宅時間がそこまで遅くなることはなかった。夕食は一緒に大鷹さんと取れるくらいだった。しかし、時間があるからといって、創作できるかといえば、そうとは限らない。大鷹さんの追及は続いていく。
「僕、知っていますよ。最近、紗々さんはスマホで動画をずっとダラダラと見たり、ゲームをしたりして過ごしているのを」
「それはその……。新たに物語を生み出す気力がなかったんです!」
これは言い訳させてほしい。わかりやすく、SNSで見かけたイラストレーターの話を取り上げて説明する。
「イラストレーターのSNSで見かけたんですけど、仕事のイラストは描けないのに、趣味のイラストは投稿している。これを見て、大鷹さんはどう思いますか?」
「突然ですね。まあ、同じイラストなら仕事をして欲しいな、とは思いますね」
「それですよ!」
大鷹さんの言葉につい、声を荒げてしまった。大鷹さんは驚いて私を見つめるが、いつものことなので気にしない。
「仕事と趣味は違います」
私はイラストを描く能力はないので、完全には理解できないが、これを小説に当てはめるとなんとなく理解できる。
小説を書くことで、気分転換できて元気に仕事に向かう人もいるが、私は残念ながら、そこまで小説を趣味として生きていない。きっと、その人にとってはイラストを描くことが生きがいなのだろう。しかし、仕事だと思うとやる気が出ない。そんなジレンマを抱えているに違いない。まあ、私は仕事のせいで、趣味の小説を書くことができていないので反対ではあるが。
「じゃあ、紗々さんは小説を書くことを仕事だと思っていたってことですか?」
「いや、そういうわけではなくて……」
続く言葉が見つからない。趣味ではあるが、精神的に疲れすぎて物語を執筆する気力がなかったのだ。いくら趣味とは言っても、無理な時もある。
「で、でも、仕事もようやく落ち着いてきましたので、今日からでも少しずつ執筆していく所存であります!」
「いや、僕が言い過ぎましたね。紗々さんの小説が読みたくて強要させることを言ってしまいました。すみません。書きたくなったら書いてください。無理はしないでください」
せっかく、私がやる気を出そうとしているのになんてことを言うのだ。大鷹さんは私に小説を書いてほしいのか、欲しくないのか。
きっと、心の中では書いてほしい思いでいっぱいだろうが、私の負担にならないように気を遣ってくれているのだ。
そうめんを食べ終えた私は、大鷹さんがキッチンで洗い物をしているのを見ながら決意した。
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