結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
148 / 234

番外編【波乱の新年の幕開け】5再会

しおりを挟む
 あっという間に年末年始の休みが終わってしまった。今日は1月4日。仕事始めの日だ。

「1月から入社した営業の当間爽太(とうまそうた)君だ。当間君、みんなに挨拶を」

「1月からこちらで働くことになった当間と申します。精一杯仕事に取り組んでいきたいと思いますので、よろしくお願いします」

 いつも通りに出社して、制服に着替えて朝礼に向かうと、さっそく上司から当間の紹介をされた。大人になった当間は昔の面影が残っていて、母親に言われなくても気づいていただろう。昔から身長が高いとは思っていたが、あれからさらに成長していたようだ。180cmは超えているに違いない。糸目でひょろっと細長いところは昔と変わらなかった。


「先輩、もしかして、今日新しく入った営業の当間さんと知り合いですか?」

「なんでそう思ったの?」

「やっぱり知り合いなんですね。これは、俗にいう運命の再会ってやつですか?いえ、先輩にはもう、大鷹っちという相手がいるんでした!」

 朝礼後、河合さんがとても良い笑顔で私に話し掛けてきた。朝の紹介だけでどうして私と彼が知り合いだと気付いたのか。私は周りの人間と同じように、新しい営業の人が来たな、くらいの薄い反応をしていたはずだ。

「なんでって顔をしていますね。そりゃあわかりますよ。まあ、今回は先輩がっていう訳ではなく、相手が先輩をガン見していましたから」

 当間が私をガン見。

 つい先刻のことなのにいまいち思い出せない。私は、興味のない相手にはとことん無関心になれるタイプかもしれない。たとえそれが、実家の隣に住んでいた自称幼馴染だとしても。もし、そうでないとしても、相手の顔を確認して、それで満足してしまったから、後のことは気にしていなかった。そういうことにしておこう。

「気持ちはわかりますよ。だって、大鷹っちは特別ですから。彼と結婚した今、大抵の男が眼中にないのは当たり前のことですよ」

「そう、ですかね」

 たわいない会話をしているうちに、店舗の開店時刻が迫ってきた。私たちは時計を見て、急いで持ち場に戻って、頭を仕事モードに切り替えた。


「あの、倉敷紗々さん、ですよね?」

 新年初日の今日は、お客さんが結構な人数来店した。1月4日ということで、まだ休みの人が来たり、お正月に消費したお金をおろしに来たりと理由はさまざまだ。忙しかったけれど、特になんのトラブルなく一日を終えることができた。

定時後、着替えをして更衣室を出ると、なぜか当間が私を待ち受けていた。辺りを見回すが、周りにはちょうど誰もいなかったので、注目の的にならずに済んだのは幸運だろう。会社の人間に、私たちが知り合いだということはばれたくない。変な噂をされるのは嫌だった。

「そう、ですけど。何か?」

 つい、ぶっきらぼうな返事になってしまった。とはいえ、向こうから私の名前を言ってきたのだから、私のことを覚えていたのだろう。さすがに入社一日目で女性社員の名前を全員覚えることは難しいはずだ。

「よかったあ。実は親から紗々ちゃんが俺の転職先に居るの、聞いちゃってさ。それで、実際に朝礼に出てみたら、紗々さんを見つけてさ。つい、じっと見ちゃったんだ。昔と変わらなくてすぐにわかったよ」

「はあ」

 私も親から聞いて、一目見てわかりましたけど。

 とは口が裂けても言えなかった。言ったら、恋愛フラグとなってしまう可能性がある。私は絶対に大鷹さん以外の人とどうこうすることは無いと言い切れるが、相手の方が私に期待して迫って来ることも考えられる。自意識過剰かもしれないが、油断しない方がよいだろう。

「あれ、先輩。さっそく不倫ですか?」

「河合さん……」

 ほかの女性社員はまだ更衣室で雑談中のようだ。私の次に更衣室を出て来たのは河合さんだった。河合さんに、私と当間が二人で話しているところをばっちりみられてしまった。

「不倫、ですか?紗々ちゃん、結婚、してるの?」

「そうですよ。先輩は既に既婚者です!詳しいお話が聞きたいのなら、私と先輩、当間さんで一度、食事にでも出かけましょう!」

 いったい、河合さんは何をたくらんでいるのか。彼女の勢いに気圧され、私たちはただはいと頷くしかなかった。

 ちなみに、この年になって他人からちゃん付けで呼ばれるのは恥ずかしい。いくら、昔そう呼んでいたとしても、辞めて欲しかった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...