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番外編【波乱の新年の幕開け】1初詣で祈願したこと
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「新年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
年が明けると同時に、新年の挨拶を大鷹さんと交わす。そして、近所にある神社に初詣をするため家を出た。大鷹さんと結婚して、このマンションに住み始めてからの恒例となっている。
家を出ると、雨が降っていた。仕方なく、傘をさして神社に向かう。神社に着くと、既に参拝客でにぎわっていた。参拝を待つ列の最後尾に並ぶ。今年は暖冬らしく、真冬と言っても良いこの季節なのに凍えるような寒さを感じない。
「珍しく雨ですね。私、実家でも近くの神社に夜に初詣に行っていましたが、雨だったことは無かったです。今年初めて経験するかも」
「確かに、僕もそんな気がします。珍しいですね。雪ではなく、雨が降るのは」
地球温暖化はだいぶ進んでいるらしい。
『○○県××市△△町○○番地に住む倉敷紗々です。昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします。早速ですが、今年こそ、小説執筆を頑張ります。商業化の話が舞い込みますよう、お力をお貸しください』
地元の神社ということで、5分程待っていたら参拝の順番が回ってきた。昔、母親に聞いたお賽銭の値段、115円をお賽銭箱に投げ入れ、手を合わせる。私の隣に並んだ大鷹さんもお賽銭を入れて私と同じように手を合わせた。目を閉じて私は祈願した。
祈願を終えた私が目をあけて隣を見ると、大鷹さんはまだ熱心に何かを祈願していた。仕方なく、私だけ参拝客の列から少し外れた場所に移動する。そして、大鷹さんと一緒に参った過去の初詣のことを思い返す。
最初の年は、私の知り合いに会って大変な目にあった。とはいえ、そこで思い切りがついて、必要ない連絡先を一掃できたのは良かった。次の年は特に何もない平凡な初詣だった。今年も昨年と同じで何も起こらず、家に帰ることができたらよいのだが。
「遅くなってすみません。紗々さんは今年、何を祈願しましたか?」
思い返しているうちに大鷹さんが私の元にやってきた。何を祈願したのか気になるのは大鷹さんの方だ。そういえば、いつも私の方が先に参拝を終えている気がする。いったい、何をそんなに熱心に祈ることがあるのか。
「そんなの、決まっているでしょう?小説の商業化ですよ!」
自信満々に答えると、大鷹さんは目を丸くして驚いていた。そんなに驚くほどのことではないだろう。小説を執筆している者にとって、自分の作品の商業化は、一度は夢見ることだ。何も間違ったことを祈願していない。
「僕とのことは祈らなかったんですね。もう、神様に祈らずとも、僕と一緒に居てくれる、もしくは僕の相手を探すことをやめて、紗々さん自身が僕の妻として、一生、僕のそばに居てくれると決めたんですね」
驚いていた大鷹さんの表情は、すぐに満面の笑みに切り替わる。満面の笑みを向けられるも、私は大鷹さんの言葉の意味を理解すると同時に、顔を覆ってその場に蹲る。
「今の発言は無かったことにしてください。私は今年も去年と同じです。そう、私の願うことは毎年同じです。同じはず……」
最近、大鷹さんとの仲が進展してうっかりしていた。ラブラブな雰囲気にのまれて、彼と過ごす毎日が愛おしく思い始めていた。
「紗々さん?」
いや、別にそれはそれで構わない。構わないのだが、それだと最終的に大鷹さんを苦しめることになるかもしれない。だって、私は。
「ちょっと、結婚当初の私の思想を思い出して、頭を悩ませていました」
「それって、もしかして」
「今は、そんなことは、みじんも思っていません!」
大鷹さんに誤解されたくなくて、慌てて大声で過去の自分の思想を否定する。そうだ。今の世の中、多様性が認められる良い時代となっている。私も大鷹さんもそれでいいと納得している。私だけ、そこに固執する必要はないのかもしれない。
子どもを作らない。
それが私たち夫婦の決めた事。だったら、もう、それでいいではないか。
「今年も、大鷹さんと一緒に楽しい一年を過ごすことは、私の中の当たり前のことです。神様にわざわざ祈るようなことではありません」
嫌な雰囲気を断ち切りたくて、いつもより声のトーンをあげて、努めて明るい声で大鷹さんに告げる。大鷹さんには私の気持ちが伝わったのだろう。
「当り前、ですか。僕も、来年からは別のことを祈ろうかな。そろそろ、寒くなったので帰りましょう」
私たちの間に甘い空気が漂い始める。なんだか気恥ずかしくなって、大鷹さんと目を合わせられない。私は大鷹さんに返事することなく、足早に神社の外を目指して歩き出す。その後ろを大鷹さんが黙ってついてくる。雨は相変わらず、しとしとと降り注いでいた。
私たちの仲は今年も順調に良い方向に進んでいる。そう思っていたが、新年早々、波乱の出来事が待ち受けていることを今の私は知る由もなかった。
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
年が明けると同時に、新年の挨拶を大鷹さんと交わす。そして、近所にある神社に初詣をするため家を出た。大鷹さんと結婚して、このマンションに住み始めてからの恒例となっている。
家を出ると、雨が降っていた。仕方なく、傘をさして神社に向かう。神社に着くと、既に参拝客でにぎわっていた。参拝を待つ列の最後尾に並ぶ。今年は暖冬らしく、真冬と言っても良いこの季節なのに凍えるような寒さを感じない。
「珍しく雨ですね。私、実家でも近くの神社に夜に初詣に行っていましたが、雨だったことは無かったです。今年初めて経験するかも」
「確かに、僕もそんな気がします。珍しいですね。雪ではなく、雨が降るのは」
地球温暖化はだいぶ進んでいるらしい。
『○○県××市△△町○○番地に住む倉敷紗々です。昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします。早速ですが、今年こそ、小説執筆を頑張ります。商業化の話が舞い込みますよう、お力をお貸しください』
地元の神社ということで、5分程待っていたら参拝の順番が回ってきた。昔、母親に聞いたお賽銭の値段、115円をお賽銭箱に投げ入れ、手を合わせる。私の隣に並んだ大鷹さんもお賽銭を入れて私と同じように手を合わせた。目を閉じて私は祈願した。
祈願を終えた私が目をあけて隣を見ると、大鷹さんはまだ熱心に何かを祈願していた。仕方なく、私だけ参拝客の列から少し外れた場所に移動する。そして、大鷹さんと一緒に参った過去の初詣のことを思い返す。
最初の年は、私の知り合いに会って大変な目にあった。とはいえ、そこで思い切りがついて、必要ない連絡先を一掃できたのは良かった。次の年は特に何もない平凡な初詣だった。今年も昨年と同じで何も起こらず、家に帰ることができたらよいのだが。
「遅くなってすみません。紗々さんは今年、何を祈願しましたか?」
思い返しているうちに大鷹さんが私の元にやってきた。何を祈願したのか気になるのは大鷹さんの方だ。そういえば、いつも私の方が先に参拝を終えている気がする。いったい、何をそんなに熱心に祈ることがあるのか。
「そんなの、決まっているでしょう?小説の商業化ですよ!」
自信満々に答えると、大鷹さんは目を丸くして驚いていた。そんなに驚くほどのことではないだろう。小説を執筆している者にとって、自分の作品の商業化は、一度は夢見ることだ。何も間違ったことを祈願していない。
「僕とのことは祈らなかったんですね。もう、神様に祈らずとも、僕と一緒に居てくれる、もしくは僕の相手を探すことをやめて、紗々さん自身が僕の妻として、一生、僕のそばに居てくれると決めたんですね」
驚いていた大鷹さんの表情は、すぐに満面の笑みに切り替わる。満面の笑みを向けられるも、私は大鷹さんの言葉の意味を理解すると同時に、顔を覆ってその場に蹲る。
「今の発言は無かったことにしてください。私は今年も去年と同じです。そう、私の願うことは毎年同じです。同じはず……」
最近、大鷹さんとの仲が進展してうっかりしていた。ラブラブな雰囲気にのまれて、彼と過ごす毎日が愛おしく思い始めていた。
「紗々さん?」
いや、別にそれはそれで構わない。構わないのだが、それだと最終的に大鷹さんを苦しめることになるかもしれない。だって、私は。
「ちょっと、結婚当初の私の思想を思い出して、頭を悩ませていました」
「それって、もしかして」
「今は、そんなことは、みじんも思っていません!」
大鷹さんに誤解されたくなくて、慌てて大声で過去の自分の思想を否定する。そうだ。今の世の中、多様性が認められる良い時代となっている。私も大鷹さんもそれでいいと納得している。私だけ、そこに固執する必要はないのかもしれない。
子どもを作らない。
それが私たち夫婦の決めた事。だったら、もう、それでいいではないか。
「今年も、大鷹さんと一緒に楽しい一年を過ごすことは、私の中の当たり前のことです。神様にわざわざ祈るようなことではありません」
嫌な雰囲気を断ち切りたくて、いつもより声のトーンをあげて、努めて明るい声で大鷹さんに告げる。大鷹さんには私の気持ちが伝わったのだろう。
「当り前、ですか。僕も、来年からは別のことを祈ろうかな。そろそろ、寒くなったので帰りましょう」
私たちの間に甘い空気が漂い始める。なんだか気恥ずかしくなって、大鷹さんと目を合わせられない。私は大鷹さんに返事することなく、足早に神社の外を目指して歩き出す。その後ろを大鷹さんが黙ってついてくる。雨は相変わらず、しとしとと降り注いでいた。
私たちの仲は今年も順調に良い方向に進んでいる。そう思っていたが、新年早々、波乱の出来事が待ち受けていることを今の私は知る由もなかった。
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