結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【突然の出来事】4夏の異常気象

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「……そういうわけなので、しばらくの間は刺激の多い食べ物は控えようと思います」

 帰宅した私は、夕食時に大鷹さんに今日の皮膚科での受診の結果を報告した。今日はヒレカツとナスとオクラ、大場の天ぷらだった。大鷹さんが準備してくれていた。夏バテ防止に肉は有効だ。夏野菜も並んでいて、夏だという季節感がわく。

 食事をしながら、大鷹さんは黙って私の話を聞いていた。しかし、次第に顔をしかめて顎に手を当てて何やら深刻そうな表情に変わっていく。そこまで深刻な病気でもないのに、その表情の真意はいったい。

「あの、別に食べてはいけないとか、食べたら死に至るとかそんな大層な話ではないですよ。もし、大鷹さんがカレーとかの刺激物が食べたかったら、外食などで私以外の誰かと食べれば」

「いえ、僕は紗々さんが食べられないものをわざわざ食べたいとは思わないので、その辺は心配いらないです」

「そ、それはアリガトウゴザイマス?」

「ですが、紗々さんがこんなことになってしまって、僕はショックを受けています」

 ショックを受けた。

 自分の妻に食べられないものが存在したことに対する苛立ちだろうか。実は、大鷹さんは私が知らない美食家で、美食家の名が私のせいで汚されたとでも思っているのだろうか。頭に疑問符を浮かべた私に気づいた大鷹さんが、言葉の意味を説明してくれる。

「紗々さんと一緒に食べられるものが減って寂しいということです。僕、紗々さんと食事するの、結構、好きなんですよ」

「そんなに軽々しく『好き』を使ってはいけないと思います」

 会話の中に自然に組み込まれた『好き』という言葉。あまりにも自然過ぎて、私でなければ聞き逃しているところだ。これがモテる男の格の違いという奴だろうか。

 それにしても、外の雨が気になってしまう。会話の途中から突然、外から大きな音が聞こえ始めた。

「外、すごい雨と雷ですね」

 そうなのだ。こんなのろけた会話をしているが、外ではゲリラ豪雨が降り出して、雷の音が先ほどからゴロゴロと容赦なく響いている。

「どうやら、線状降水帯がこのあたりにかかっているみたいです。嫌になりますね。家の中にいても、なんだか不安になります」

 スマホを取り出して、大鷹さんが雨雲レーダーを調べている。仕事の帰宅後なので外の様子はカーテンに阻まれてうかがうことはできない。しかし、雨のザーザー、いやゴーゴーという音と、ゴロゴロという雷の音だけで、外がやばい状況なのは簡単に想像できる。

「それで……」

 もはや、会話の声も聞き取りにくいほどの雨である。最近の異常気象は人間の会話にさえ、割り込んでくる厄介な代物だ。まあ、音がうるさいだけなら我慢するしかない。世の中には、大雨で川の水が増水して氾濫して、床上、床下浸水してしまった家、停電してしまった地域もあるのだ。音ぐらいですんでいるのなら、ありがたいと思わなくてはならない。

 さて、突然のやばい天気だがそれでも待っていれば、止み間というものはある。そこを狙って、先ほどの言葉の意味を大鷹さんに尋ねてみる。

「好きというのは」

「紗々さんと一緒に食事をすると楽しいです」

「大して量を食べられないのに、ですか?」

 私の胃はあまり丈夫ではない。バイキングというものは苦手で、たくさん食べたいと思うのだが、食べ過ぎるとすぐに気持ち悪くなって、最悪の場合吐き出してしまう。そのため、思い切り食べたいものを食べる、ということが出来ない。女性としては普通の食事量だが、私だったら、食べたいものを思い切り食べる女性の方が食事をして楽しいと思えるのだが。

 雨がまた強くなってきた。まるでインターバルを挟んだかのように、激しく雨と雷のコンボで外が騒がしくなる。

「別にたくさん食べる女性が好きという訳ではないから、その辺は問題ないです」

 そういうものだろうか。だとしても、大鷹さんの言うことはどうにも納得がいかない。私は食べ方がそこまできれいだとも思えないし、美食家でもない。味音痴ではないとは思うがその程度だ。一般人と同じくらいの味覚だと思っている。

「わからなくても大丈夫です。僕だけがわかれば」

「そういうことにしておきます」

 相変わらず、外では雨と雷が見事なコラボレーションで嫌なハーモニーを奏でている。しかし、私たちの間にはそれとは反対に温かい空気が流れていた。

 私はヒレカツも野菜の天ぷらも食べてお腹も気分も良かった。

 
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