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番外編【妄想】3なければ自分で書けばいい、はず……
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「こんな感じでどうでしょう?」
途中まで入力した文章を読み返して、私は大きく伸びをする。家に帰ってすぐ、私は河合さんにリクエストされた「自分たちが高校生に出会っていたら」というテーマで短編を執筆していた。多少年齢操作や性別操作はしているが、我ながらうまく書けていると思う。どれもこれも河合さんのもらったメモ通りの設定である。私の意図するところではない。
とはいえ。
「これ以上は面倒になってきた」
ここからどう展開していこうか。会社でもらったメモには、出会いとその後の簡潔なあらすじしか書かれていなかった。私と大鷹さんは付き合っているということになっているが、それを幼馴染の河合さんは良しとしない。そこからひと悶着がある、らしい。
「ていうか、河合さんを男にした意味とは……。だったらいっそ、私自身の性別も変えたほうがよかったのか?」
メモには私自身の性別をどちらにするのかは明記されていなかった。ただ、河合さんを男にして欲しいという要望だけが書かれていた。
このまま書き進めたら、大鷹さんと河合さんが私を取り合う三角関係の泥沼的展開になってしまう。それでよいのだろうか。
トントン。
「どうぞ」
帰宅してすぐに部屋にこもって執筆作業をしていたから、大鷹さんが私の様子を見に来たのだろう。返事をすると、ガチャリと大鷹さんが部屋に入ってきた。
「紗々さん、河合江子のリクエストを受けるんですか?」
「河合さんから聞いたんですか?」
「質問に答えてください」
「はあ」
河合さんとは仕事場で話をしてメモをもらっただけだ。実際に執筆するとは言っていない。とはいえ、執筆は進めているのでどう答えたらよいだろうか。小説投稿サイトには投稿していないので、河合さんのリクエストには応えていないと答えたほうがいいだろうか。
何にしても、河合さん自身が大鷹さんに言わなければわからないことだ。面白半分に河合さんが大鷹さんに今日の小説の件を伝えたのかもしれない。
面倒な二人である。元カノと夫の関係は気になりはするが、今は大鷹さんが私一筋であるとわかっているので、浮気などありえない。河合さんも大鷹さんとどうにかなりたいとは思っていないので、連絡を取り合うこと自体は悪くない。悪くないのだが、どうしてこうも面倒事を持ってくるのか。
「別に大鷹さんには関係ないでしょう?」
結局、大鷹さんを突き放すようなことを言ってしまった。間違ったことは言っていない、
はずだ。私がどんなネタで小説を書こうが大鷹さんに迷惑をかけることはない。それにしても、大鷹さんはどれだけ河合さんを敵視しているのだろう。逆に気になってしまう。大鷹さんの心をそこまでかき回す仕事の後輩とはいったい。
「そうだ!」
「い、いきなりどうしたんですか?」
面白いアイデアを思い付いた。私だけが書いているからこうなってしまうのだ。小説というのは、今の世の中、パソコン(スマホでも可)とネット環境があればだれでも容易に執筆して投稿サイトに自分の作品を世に出すことが出来る。
「大鷹さんも私みたいに小説を書いてみればいいんです。河合さんにも明日、伝えてみます。自分の妄想は自分で文字にすればいいんですよ。他人に頼ろうとするからおかしくなるんです」
どうして今まで思いつかなかったのだろう。そうすれば、無駄な争いは起こらないはずだ。これですべての問題が解決する。大鷹さんも河合さんも自分の好きなように物語を作ればいい。自分たちのもしもの出会いも、自由に妄想すればいいのだ。
「紗々さん、盛り上がっているところ悪いんですけど、それには重大な問題が一つあります」
せっかくのアイデアなのに、大鷹さんが水を差すようなことを言い始める。パソコンから顔を上げて大鷹さんの顔を観察すると、あきれたような出来の悪い子を見るような視線を向けられる。私は頭はそれなりに良かったはずなのに、どうしてそんな目を向けられなければならないのか。
「これは大前提なのですが、そもそも、僕たちが紗々さんにお願いしているのは、自分たちで書けないからなんです。確かに今の世の中、小説はスマホ一つ、パソコン一つあればだれでも容易に執筆可能です。ですが、それが出来ない人も世の中にはたくさんいるわけです。だって、誰もが自分の妄想を言葉にできたら、小説家という職業が成り立たないでしょう?」
ぐうう、正論過ぎて何も言葉が出てこない。いや、でも何事も挑戦してみなければわからない。できないと思っているから書けないのだ。これは大鷹さんが神に与えた試練なのかもしれない。大鷹さんの顔はさも当然という顔をして私を見下している、ように見える。
「大鷹さんの言い分はわかりました。ですが、今回の件をきっかけに大鷹さんも小説を書いてみてはどうでしょうか?」
「僕が、ですか?」
私の回答に大鷹さんは驚いた顔をしていたが、そこまでおかしなことではないだろう。大抵の小説家というものは、自分の妄想を言葉にしているのだ。私だって、現実にはないBL(ボーイズラブ)の世界を妄想したくて自分で書いている。
「そうです。いきなり長編はハードルが高いですから、短編で構いません。そうだ、こうしましょう!」
「ま、待ってください。僕はまだ承諾したわけでは」
「発表します!大鷹さんに対するお題と文字数は……」
大鷹さんの言葉を途中で遮り、今回のお題を伝えることにした。
その後、大鷹さんと一緒に夕食を食べながらテレビを見ていたら、今どきはAI(人工知能)に頼めば、小説も論文も読書感想文も書いてくれるという恐ろしいニュースがやっていた。私の先ほどの考えは時代遅れなのかもしれない。
自分の妄想を自分で文字にしなくても良い時代が来ていることに少しだけ怖くなった。小説投稿サイトというものがAIに乗っ取られる時代もすぐに来てしまうのだろうか。大鷹さんは黙ってテレビを見ていたが、何を考えているのかわからなかった。
途中まで入力した文章を読み返して、私は大きく伸びをする。家に帰ってすぐ、私は河合さんにリクエストされた「自分たちが高校生に出会っていたら」というテーマで短編を執筆していた。多少年齢操作や性別操作はしているが、我ながらうまく書けていると思う。どれもこれも河合さんのもらったメモ通りの設定である。私の意図するところではない。
とはいえ。
「これ以上は面倒になってきた」
ここからどう展開していこうか。会社でもらったメモには、出会いとその後の簡潔なあらすじしか書かれていなかった。私と大鷹さんは付き合っているということになっているが、それを幼馴染の河合さんは良しとしない。そこからひと悶着がある、らしい。
「ていうか、河合さんを男にした意味とは……。だったらいっそ、私自身の性別も変えたほうがよかったのか?」
メモには私自身の性別をどちらにするのかは明記されていなかった。ただ、河合さんを男にして欲しいという要望だけが書かれていた。
このまま書き進めたら、大鷹さんと河合さんが私を取り合う三角関係の泥沼的展開になってしまう。それでよいのだろうか。
トントン。
「どうぞ」
帰宅してすぐに部屋にこもって執筆作業をしていたから、大鷹さんが私の様子を見に来たのだろう。返事をすると、ガチャリと大鷹さんが部屋に入ってきた。
「紗々さん、河合江子のリクエストを受けるんですか?」
「河合さんから聞いたんですか?」
「質問に答えてください」
「はあ」
河合さんとは仕事場で話をしてメモをもらっただけだ。実際に執筆するとは言っていない。とはいえ、執筆は進めているのでどう答えたらよいだろうか。小説投稿サイトには投稿していないので、河合さんのリクエストには応えていないと答えたほうがいいだろうか。
何にしても、河合さん自身が大鷹さんに言わなければわからないことだ。面白半分に河合さんが大鷹さんに今日の小説の件を伝えたのかもしれない。
面倒な二人である。元カノと夫の関係は気になりはするが、今は大鷹さんが私一筋であるとわかっているので、浮気などありえない。河合さんも大鷹さんとどうにかなりたいとは思っていないので、連絡を取り合うこと自体は悪くない。悪くないのだが、どうしてこうも面倒事を持ってくるのか。
「別に大鷹さんには関係ないでしょう?」
結局、大鷹さんを突き放すようなことを言ってしまった。間違ったことは言っていない、
はずだ。私がどんなネタで小説を書こうが大鷹さんに迷惑をかけることはない。それにしても、大鷹さんはどれだけ河合さんを敵視しているのだろう。逆に気になってしまう。大鷹さんの心をそこまでかき回す仕事の後輩とはいったい。
「そうだ!」
「い、いきなりどうしたんですか?」
面白いアイデアを思い付いた。私だけが書いているからこうなってしまうのだ。小説というのは、今の世の中、パソコン(スマホでも可)とネット環境があればだれでも容易に執筆して投稿サイトに自分の作品を世に出すことが出来る。
「大鷹さんも私みたいに小説を書いてみればいいんです。河合さんにも明日、伝えてみます。自分の妄想は自分で文字にすればいいんですよ。他人に頼ろうとするからおかしくなるんです」
どうして今まで思いつかなかったのだろう。そうすれば、無駄な争いは起こらないはずだ。これですべての問題が解決する。大鷹さんも河合さんも自分の好きなように物語を作ればいい。自分たちのもしもの出会いも、自由に妄想すればいいのだ。
「紗々さん、盛り上がっているところ悪いんですけど、それには重大な問題が一つあります」
せっかくのアイデアなのに、大鷹さんが水を差すようなことを言い始める。パソコンから顔を上げて大鷹さんの顔を観察すると、あきれたような出来の悪い子を見るような視線を向けられる。私は頭はそれなりに良かったはずなのに、どうしてそんな目を向けられなければならないのか。
「これは大前提なのですが、そもそも、僕たちが紗々さんにお願いしているのは、自分たちで書けないからなんです。確かに今の世の中、小説はスマホ一つ、パソコン一つあればだれでも容易に執筆可能です。ですが、それが出来ない人も世の中にはたくさんいるわけです。だって、誰もが自分の妄想を言葉にできたら、小説家という職業が成り立たないでしょう?」
ぐうう、正論過ぎて何も言葉が出てこない。いや、でも何事も挑戦してみなければわからない。できないと思っているから書けないのだ。これは大鷹さんが神に与えた試練なのかもしれない。大鷹さんの顔はさも当然という顔をして私を見下している、ように見える。
「大鷹さんの言い分はわかりました。ですが、今回の件をきっかけに大鷹さんも小説を書いてみてはどうでしょうか?」
「僕が、ですか?」
私の回答に大鷹さんは驚いた顔をしていたが、そこまでおかしなことではないだろう。大抵の小説家というものは、自分の妄想を言葉にしているのだ。私だって、現実にはないBL(ボーイズラブ)の世界を妄想したくて自分で書いている。
「そうです。いきなり長編はハードルが高いですから、短編で構いません。そうだ、こうしましょう!」
「ま、待ってください。僕はまだ承諾したわけでは」
「発表します!大鷹さんに対するお題と文字数は……」
大鷹さんの言葉を途中で遮り、今回のお題を伝えることにした。
その後、大鷹さんと一緒に夕食を食べながらテレビを見ていたら、今どきはAI(人工知能)に頼めば、小説も論文も読書感想文も書いてくれるという恐ろしいニュースがやっていた。私の先ほどの考えは時代遅れなのかもしれない。
自分の妄想を自分で文字にしなくても良い時代が来ていることに少しだけ怖くなった。小説投稿サイトというものがAIに乗っ取られる時代もすぐに来てしまうのだろうか。大鷹さんは黙ってテレビを見ていたが、何を考えているのかわからなかった。
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