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番外編【成人式】3成人式(大鷹視点)②
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「大鷹君、中学校のころよりさらにイケメンになってるね」
「彼女はいるの?」
「頭いいとは思ってたけど、やっぱりすごいね。めっちゃ頭いい大学じゃん」
こうなることは予想できていた。中学の男子たちとは簡単に挨拶を済ませ、次は女子の番だと思った矢先のことだった。オレたちが近づいてくるのを目ざとく見つけた女子たちは、向こうからオレたちに近付いてきた。
色鮮やかな振袖に身を包んだ彼女たちは当然、振袖に似合う少し派手なメイクを施している。そんな彼女たちが鬼気迫る勢いでやってくると少し身を引いてしまう。そして、オレに向けて矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。隣にオレの友達もいるのにまったく見向きもしない。
「さすが、大鷹だわ」
「俺たちには勝ち目はないってことだな」
友達二人には申し訳ないが、このまま家に帰りたくなってしまう。彼らはあきれたような顔で俺とその周りの女子を遠巻きに眺めている。
しかし、帰りたいと思っても、まだ肝心の成人式とやらは始まっていない。オレたちは早めに会場である市民会館前に集まっていた。かなり前から待っていたのだが、そろそろ中に入ってもいいだろうか。
「まったく、攻(おさむ)君たら、立派なハーレム築いているわね」
「かあさ……。千沙さん」
この場を離れたかったのは事実だが、それを可能にしてくれたのがこの人だったのは最悪だ。昨日、来てくれるとは言っていたが、どうして両親より先にこの人が声をかけてくるのだろうか。
「どちらさん?」
この場にいる俺以外の人間がそう思ったのも無理はない。千沙さんはオレの母親ではないので、中学の同級生はあったことはないはずだ。
「千沙、勝手にどっかいかないでよ。守君がお母さんいないって心配するでしょ」
「守はそこまで子供じゃないよ。お姉ちゃんは攻君の成人を祝いたくないの?」
千沙さんの後ろからオレの母親が駆け足でやってきた。この二人がそろうと面倒だが、千沙さんだけよりはましである。母親の後ろからは小学一年生になったばかりの従弟の守君がやってきた。こちらは息が切れていた。
二人は成人式の保護者らしく、少しかしこまったスーツを身に着けていた。守君は暖かそうなもこもこの上着を着ていてとても可愛らしかった。
彼女たちの登場にその場は気まずい空気が流れる。いきなり同級生の母親とその家族がやってきたら戸惑うだろう。周囲を見渡すと、親に写真を撮ってもらっている人もいたが、オレたちのグループには誰も保護者らしき人が見当たらなかった。
「とりあえず、さっさと写真でも撮りましょう。せっかくだから、ここにいるみんなと一緒に撮ってあげる。攻の近くによってちょうだい」
そんな中、場違いに明るい声でオレの母親が中学の同級生の女子たちに話し掛ける。その声に彼女たちは我に返ったのか急にオレの近くに寄ってきた。あっという間にオレの近くには6人ほどの女子が集まった。はたからみたら、振袖女子のハーレム状態である。
「じゃあ、撮るよ。はい、チーズ」
カシャっというデジカメの音が鳴り、オレたちは胸の前でピースサインをした。母親が納得いく写真が取れるまで数回撮り直したが、ようやく終わったころには、オレは精神的に疲れ果てていた。千沙さんにしては珍しく、最初の変な発言以降、静かにオレたちの写真撮影をじっと眺めているだけだった。
「まもなく、成人式が始まりますので、新成人の皆さまは会場にお入りください」
写真を撮り終わるころ、会場周辺のスピーカーから成人式のためのアナウンスが入った。会場に入れば、やっと落ち着ける。俺たちはアナウンスに従って会場に入ることにした。
「新成人の皆さん、成人おめでとうございます。これから君たちは、大人としての自覚をもって……」
成人式は女子たちから解放されたがかなり退屈だった。市長や新成人代表の挨拶のほか、中学校の思い出を振り返るビデオが流された。オレにとって、中学時代はあまり良いものではなかったので、皆が笑うシーンも全く笑うことが出来ず、むしろどうしてそこで笑えるのか同級生の感性を疑ってしまうほどだった。
「懐かしかったねえ。まさか、中学生のとき一番ガキみたいだったあの子が、すでに一児の母とかすごいね」
「わかる。でもまあ、なんとなく予想はできたけど」
「「あはははは」」
成人式が終わると、後ろの席から退場するようアナウンスが流れた。席は中学校ごとに固まっていて、オレたちの席は壇上から近い席のため、退場まで少し時間がかかった。成人式終了の挨拶が終わると同時に近くに座っていた女子たちが会話を始める。そういえば、赤ん坊を抱いた振袖姿の女子がいた気がするが、彼女のことだろうか。
彼女たちの会話を聞いているうちに退場の合図がかかり、オレはそのまま会場を後にした。
会場を出ると、雲一つない快晴から一転して雲が増え始めてどんよりとした空模様になっていた。雨が降りそうなほどではないが、あまり良い天気ではなかった。
「彼女はいるの?」
「頭いいとは思ってたけど、やっぱりすごいね。めっちゃ頭いい大学じゃん」
こうなることは予想できていた。中学の男子たちとは簡単に挨拶を済ませ、次は女子の番だと思った矢先のことだった。オレたちが近づいてくるのを目ざとく見つけた女子たちは、向こうからオレたちに近付いてきた。
色鮮やかな振袖に身を包んだ彼女たちは当然、振袖に似合う少し派手なメイクを施している。そんな彼女たちが鬼気迫る勢いでやってくると少し身を引いてしまう。そして、オレに向けて矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。隣にオレの友達もいるのにまったく見向きもしない。
「さすが、大鷹だわ」
「俺たちには勝ち目はないってことだな」
友達二人には申し訳ないが、このまま家に帰りたくなってしまう。彼らはあきれたような顔で俺とその周りの女子を遠巻きに眺めている。
しかし、帰りたいと思っても、まだ肝心の成人式とやらは始まっていない。オレたちは早めに会場である市民会館前に集まっていた。かなり前から待っていたのだが、そろそろ中に入ってもいいだろうか。
「まったく、攻(おさむ)君たら、立派なハーレム築いているわね」
「かあさ……。千沙さん」
この場を離れたかったのは事実だが、それを可能にしてくれたのがこの人だったのは最悪だ。昨日、来てくれるとは言っていたが、どうして両親より先にこの人が声をかけてくるのだろうか。
「どちらさん?」
この場にいる俺以外の人間がそう思ったのも無理はない。千沙さんはオレの母親ではないので、中学の同級生はあったことはないはずだ。
「千沙、勝手にどっかいかないでよ。守君がお母さんいないって心配するでしょ」
「守はそこまで子供じゃないよ。お姉ちゃんは攻君の成人を祝いたくないの?」
千沙さんの後ろからオレの母親が駆け足でやってきた。この二人がそろうと面倒だが、千沙さんだけよりはましである。母親の後ろからは小学一年生になったばかりの従弟の守君がやってきた。こちらは息が切れていた。
二人は成人式の保護者らしく、少しかしこまったスーツを身に着けていた。守君は暖かそうなもこもこの上着を着ていてとても可愛らしかった。
彼女たちの登場にその場は気まずい空気が流れる。いきなり同級生の母親とその家族がやってきたら戸惑うだろう。周囲を見渡すと、親に写真を撮ってもらっている人もいたが、オレたちのグループには誰も保護者らしき人が見当たらなかった。
「とりあえず、さっさと写真でも撮りましょう。せっかくだから、ここにいるみんなと一緒に撮ってあげる。攻の近くによってちょうだい」
そんな中、場違いに明るい声でオレの母親が中学の同級生の女子たちに話し掛ける。その声に彼女たちは我に返ったのか急にオレの近くに寄ってきた。あっという間にオレの近くには6人ほどの女子が集まった。はたからみたら、振袖女子のハーレム状態である。
「じゃあ、撮るよ。はい、チーズ」
カシャっというデジカメの音が鳴り、オレたちは胸の前でピースサインをした。母親が納得いく写真が取れるまで数回撮り直したが、ようやく終わったころには、オレは精神的に疲れ果てていた。千沙さんにしては珍しく、最初の変な発言以降、静かにオレたちの写真撮影をじっと眺めているだけだった。
「まもなく、成人式が始まりますので、新成人の皆さまは会場にお入りください」
写真を撮り終わるころ、会場周辺のスピーカーから成人式のためのアナウンスが入った。会場に入れば、やっと落ち着ける。俺たちはアナウンスに従って会場に入ることにした。
「新成人の皆さん、成人おめでとうございます。これから君たちは、大人としての自覚をもって……」
成人式は女子たちから解放されたがかなり退屈だった。市長や新成人代表の挨拶のほか、中学校の思い出を振り返るビデオが流された。オレにとって、中学時代はあまり良いものではなかったので、皆が笑うシーンも全く笑うことが出来ず、むしろどうしてそこで笑えるのか同級生の感性を疑ってしまうほどだった。
「懐かしかったねえ。まさか、中学生のとき一番ガキみたいだったあの子が、すでに一児の母とかすごいね」
「わかる。でもまあ、なんとなく予想はできたけど」
「「あはははは」」
成人式が終わると、後ろの席から退場するようアナウンスが流れた。席は中学校ごとに固まっていて、オレたちの席は壇上から近い席のため、退場まで少し時間がかかった。成人式終了の挨拶が終わると同時に近くに座っていた女子たちが会話を始める。そういえば、赤ん坊を抱いた振袖姿の女子がいた気がするが、彼女のことだろうか。
彼女たちの会話を聞いているうちに退場の合図がかかり、オレはそのまま会場を後にした。
会場を出ると、雲一つない快晴から一転して雲が増え始めてどんよりとした空模様になっていた。雨が降りそうなほどではないが、あまり良い天気ではなかった。
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