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番外編【成人式】3成人式(大鷹視点)③
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「大鷹はこの後、二次会に行くのか?」
「俺たちは行く予定だけど」
無事に成人式が終わり、会場を出たオレたちは会場の外でこの後の予定について話していた。成人式が終わると、各中学校のクラスごとで集まって宴会みたいなものをするらしい。事前に成人式の実行委員が参加の是非を聞いてきた。オレは久しぶりに同級生と話ができると思い、参加する予定だった。
「オレも」
行く、という言葉は最後まで彼らに伝えることが出来なかった。その言葉は第三者の手によってふさがれてしまった。慌てて手の主を確認するために後ろを向こうとしたが、相手はオレの背中に密着していて振り返ることが出来ない。仕方なく相手の手を見つめるが、その手は真っ赤なネイルが施されていて、男性のオレの手より小さかった。背後からは化粧特有の香りがしていたため、女性だと気付く。背中に柔らかい感触もしたので間違いないだろう。
「ごめんね。大鷹君はこの後、私と一緒に食事する約束があるから」
「「ええと」」
二人は突然の出来事で困惑していた。ちらりとオレに視線を向けてくるが、慌てて首を振って女性の言葉を否定する。そんな約束をした覚えはないし、そもそも、背後の女性が誰かもわかっていない。
「じゃあ、行きましょう」
女性はオレの意見も聞かず、オレの背後から離れると今度は腕を引っ張ってきた。オレはそのまま女生に腕を引かれながら会場を後にした。
※※
「それで、無事大鷹さんはその女性にお持ち帰りされたんですか?」
もてる男はつらいものだ。しかし、部外者にはとても面白い話だ。楽しんではいけないと思いつつも、つい話の続きを促してしまう。
「いえ、未遂に終わりました」
大鷹さんはきっぱりとこの話は終わりとばかりに、話を急に終わらせてしまった。せっかくここまで聞いてそこで終わりとはつまらない。とはいえ、過去のトラウマとなっているだろう出来事を話してくれたことだけでも、私に心を開いている証だ。
「助けてくれたのは、守君たちでした」
これ以上のことは聞けないと思っていたのに、私の不満が顔に出ていたのを察した大鷹さんは、あきらめの表情でその後の出来事も話してくれた。どうやら、助けてくれた人たちのことも含めて思い出したくないようだ。
※※
オレを拉致した謎の女性は、中学の同級生で三年生の時に同じクラスだった女子だった。腕を引っ張られて会場の外に向かって歩いている間、女性が誰かずっと考えていた。しかし、女性は化粧でだいぶ印象が変わってくる。いくら考えても女性が誰なのかわからなかった。
「私の事、覚えてないみたいだね。でも、それは仕方ないかも。中学校の頃はかなりデブだったから。私の名前は……」
会場から少し離れたところにある空き地でようやく女性は歩みを止めた。二人きりになって初めて女性はオレに自己紹介した。よく見ると、かすかに昔の面影が残っている気がした。とりあえず、目の前の女性が見ず知らずの人じゃなくてほっとした。とはいえ、まだ油断はできない。二人きりで食事をしたいと誘ってくるのだ。オレは警戒を緩めることはなかった。
「ずいぶんと雰囲気が変わって驚いたよ。その振袖、とてもよく似合ってるよ。でもさ、オレにはもう彼女がいるから、2人きりでの食事は断るよ」
食事に誘いを丁重にお断りしたオレは、急いで成人式の会場に戻ろうとした。しかし、ここまで強引に会場から連れ出した根性のある女性が、オレを簡単に俺を手放すはずがない。
「私、大鷹君の事、実は中学のころから好きで……」
案の定、女性はオレの言葉を聞いてくれなかった。さらにはどさくさに紛れて告白までしてきた。
しかもオレが一番嫌いなタイプの告白だった。好きだったらその思いが冷めないうちに告白したほうがいい。中学からの好意など今更受け取ることなどできない。
オレの答えは一択だった。ちなみに彼女がいたのは本当だった。大学中にできた彼女なので地元はオレとは違うので、彼女は彼女の地元で成人式に参加しているだろう。
「お断りし」
「攻君、そんなところで何してるの?」
「守君!」
そこに救世主が現れた。幼い男の子の後ろには、にやにやした顔がふたつ。どうやら、会場からいなくなったオレを探してくれたようだ。しかし、どうしてこんなに早く自分を見つけられたのか。疑問が頭に浮かんだが、これはここから抜け出すチャンスだ。守君はオレと女性を交互に見ながら首をかしげている。甥にこんな場面をじっくり見られたくはない。オレは急いで守君のもとに駆け寄り抱きあげた。
「俺たちは行く予定だけど」
無事に成人式が終わり、会場を出たオレたちは会場の外でこの後の予定について話していた。成人式が終わると、各中学校のクラスごとで集まって宴会みたいなものをするらしい。事前に成人式の実行委員が参加の是非を聞いてきた。オレは久しぶりに同級生と話ができると思い、参加する予定だった。
「オレも」
行く、という言葉は最後まで彼らに伝えることが出来なかった。その言葉は第三者の手によってふさがれてしまった。慌てて手の主を確認するために後ろを向こうとしたが、相手はオレの背中に密着していて振り返ることが出来ない。仕方なく相手の手を見つめるが、その手は真っ赤なネイルが施されていて、男性のオレの手より小さかった。背後からは化粧特有の香りがしていたため、女性だと気付く。背中に柔らかい感触もしたので間違いないだろう。
「ごめんね。大鷹君はこの後、私と一緒に食事する約束があるから」
「「ええと」」
二人は突然の出来事で困惑していた。ちらりとオレに視線を向けてくるが、慌てて首を振って女性の言葉を否定する。そんな約束をした覚えはないし、そもそも、背後の女性が誰かもわかっていない。
「じゃあ、行きましょう」
女性はオレの意見も聞かず、オレの背後から離れると今度は腕を引っ張ってきた。オレはそのまま女生に腕を引かれながら会場を後にした。
※※
「それで、無事大鷹さんはその女性にお持ち帰りされたんですか?」
もてる男はつらいものだ。しかし、部外者にはとても面白い話だ。楽しんではいけないと思いつつも、つい話の続きを促してしまう。
「いえ、未遂に終わりました」
大鷹さんはきっぱりとこの話は終わりとばかりに、話を急に終わらせてしまった。せっかくここまで聞いてそこで終わりとはつまらない。とはいえ、過去のトラウマとなっているだろう出来事を話してくれたことだけでも、私に心を開いている証だ。
「助けてくれたのは、守君たちでした」
これ以上のことは聞けないと思っていたのに、私の不満が顔に出ていたのを察した大鷹さんは、あきらめの表情でその後の出来事も話してくれた。どうやら、助けてくれた人たちのことも含めて思い出したくないようだ。
※※
オレを拉致した謎の女性は、中学の同級生で三年生の時に同じクラスだった女子だった。腕を引っ張られて会場の外に向かって歩いている間、女性が誰かずっと考えていた。しかし、女性は化粧でだいぶ印象が変わってくる。いくら考えても女性が誰なのかわからなかった。
「私の事、覚えてないみたいだね。でも、それは仕方ないかも。中学校の頃はかなりデブだったから。私の名前は……」
会場から少し離れたところにある空き地でようやく女性は歩みを止めた。二人きりになって初めて女性はオレに自己紹介した。よく見ると、かすかに昔の面影が残っている気がした。とりあえず、目の前の女性が見ず知らずの人じゃなくてほっとした。とはいえ、まだ油断はできない。二人きりで食事をしたいと誘ってくるのだ。オレは警戒を緩めることはなかった。
「ずいぶんと雰囲気が変わって驚いたよ。その振袖、とてもよく似合ってるよ。でもさ、オレにはもう彼女がいるから、2人きりでの食事は断るよ」
食事に誘いを丁重にお断りしたオレは、急いで成人式の会場に戻ろうとした。しかし、ここまで強引に会場から連れ出した根性のある女性が、オレを簡単に俺を手放すはずがない。
「私、大鷹君の事、実は中学のころから好きで……」
案の定、女性はオレの言葉を聞いてくれなかった。さらにはどさくさに紛れて告白までしてきた。
しかもオレが一番嫌いなタイプの告白だった。好きだったらその思いが冷めないうちに告白したほうがいい。中学からの好意など今更受け取ることなどできない。
オレの答えは一択だった。ちなみに彼女がいたのは本当だった。大学中にできた彼女なので地元はオレとは違うので、彼女は彼女の地元で成人式に参加しているだろう。
「お断りし」
「攻君、そんなところで何してるの?」
「守君!」
そこに救世主が現れた。幼い男の子の後ろには、にやにやした顔がふたつ。どうやら、会場からいなくなったオレを探してくれたようだ。しかし、どうしてこんなに早く自分を見つけられたのか。疑問が頭に浮かんだが、これはここから抜け出すチャンスだ。守君はオレと女性を交互に見ながら首をかしげている。甥にこんな場面をじっくり見られたくはない。オレは急いで守君のもとに駆け寄り抱きあげた。
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