結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
55 / 234

番外編【腰痛】8私たちの家にやってきました

しおりを挟む
 河合さんの家にお邪魔したその日、私は大鷹さんと彼女の会話に嫌な気持ちになって、すぐに家に帰った。とはいえ、家には大鷹さんがいる。大鷹さんと結婚していて、一緒に住んでいるのだから当然だ。

 気まずい思いで玄関を開ければ、普段通りの大鷹さんが私を出迎えてくれた。特に不機嫌な様子もなく、怒っている様子もない。ただいつも通りにおかえりなさいと声をかけてくれた。そして、何事もなかったかのような夜を過ごした。お互いに河合さんの話題に触れることなく、週末が過ぎていく。


 次の日は休日で、河合さんと顔を合わせたのは、週明けの月曜日だった。

「おはようございます」
「おはようございますう。倉敷先輩!」

 私が仕事場に出社すると、すでに河合さんは制服に着替えて、他の人たちとおしゃべりに興じていた。しかし、私が出社したことに気付くと、真っ先に挨拶をしてくれた。まるで、あの日のことがなかったかのような感じで、彼女が何を考えているのかわからなかった。





「お邪魔します!ここが、倉敷先輩とおおたかっちの家ですかあ。いいなあ、私も早く結婚してラブラブ新婚生活を送ってみたい!」

 どうしてこうなってしまったのだろうか。河合さんが私たちの家に遊びに来ていた。あの日から数日後、彼女から唐突に、私の家に遊びに行ってもいいかと尋ねてきた。当然、自分の家に彼女を招きたくはないので、丁重にお断りしていたのだが、彼女の強引さに負けてしまい、その結果、週末の土曜日に、河合さんが私たちの家に来てしまったわけである。

「河合さん、今からでも遅くないので、お帰り願えると僕も紗々さんも喜びます」

 河合さんをリビングに案内すると、何を驚くことがあるのだろうか、部屋を見て大げさに
驚きながら、派手なリアクションを取っている。その言葉を無視して、大鷹さんが河合さんを歓迎していないムードを前面に押し出すような発言をする。私も大鷹さんと同じ気持ちだが、わざわざ口にするのは失礼だと思って口にしなかった。大鷹さんが言ってくれて少し気持ちが落ち着いた。

 しかし、そんな私たちの気持ちは彼女には理解されず、今度は素朴な疑問だけど、と前置きして、私たちに質問してくる。

「ところで、二人は結婚しているんですよね。ということは、倉敷先輩も大鷹さんということになりますが、どうしておおたかっちは名前呼びで、倉敷先輩は苗字呼びなんですか?」

 なかなかに答えにくい質問だ。どう答えようか迷っていると、大鷹さんが助け舟を出してくれた。

「お見合いしていた頃からの呼び方から、まだ変えられないだけですよ。それに、名前呼びは恥ずかしいとのことです。河合さんが気にすることではありません。質問はそれだけですか。それだけならさっさとおかえりを」



「待って、待って!」

 答えてくれたのはいいが、大鷹さんはよほど河合さんを家に招きたくなかったのか、今度は彼女の背中を押して、玄関まで追いやろうとしていた。それに抵抗するように、彼女は待ったをかけた。

「く、倉敷先輩!助けてください!まだ帰りたくない!」

「いや、私に言われても……」

「わたし、もっと倉敷先輩たちの結婚生活のこと、聞きたかったんですけど!」

 大鷹さんに抗いながら、私に帰りたくないと訴える河合さん。結婚生活と言えば、彼女は確か、結婚願望があるのだった。




「あれ、これって、いい機会ではないか」

 彼女は結婚願望がある腐女子だ。そして、大鷹さんの元カノ。昔は、大鷹さんは腐男子ではなかったが、今では立派な腐男子だ。ということは。

「あの、倉敷先輩、聞いていますか?私の話」

「紗々さん、何かとてつもなく嫌な予感がしますが、何か良からぬことを考えてはいませんよね」

「ワカリマシタ。大鷹さん、河合さんは結婚願望があるみたいで、私たちの結婚生活がどんなものか聞きたいそうです。私では余計なことを言ってしまいそうなので、大鷹さんから話をしてあげてください」

「いや、それは同じ女性同士でいいのでは……」

「そうですよー。なんで私がおおたかっちから話を聞かなくちゃいけないんですかー」

「私はやるべきことを思い出しました。話が終わったら、私の部屋をノックしてください」

 私は、河合さんと大鷹さんをとりあえず、二人きりにすることにした。私が家に居る時点で完全な二人きりにはならないが。




「完全に二人きりにする必要があるのはわかっているんだけどなあ」

 自分の部屋に足を踏み入れ、ドアを閉めてため息を吐く。私は、河合さんと大鷹さんがお似合いではないかと思い始めていた。だからこそ、二人きりにしてどんな感じになるのか、確認したかった。久しぶりに会うのだから、積もる話もあるだろう。私は実家に戻って結果を待つだけでいいのだ。それなのに。

「兄×弟の時は、実家に戻るのに悩みはしなかったのに」

 以前、クリスマスの時、大鷹さんの弟がやってきたときは、簡単に二人きりにしてあげることができた。だから、今回も同じように私が実家に戻ればいいだけだ。それだけのことが今の私には、どうしても出来なかった。

「やめだやめだ。とりあえず、腰痛ネタの続きでも書いておこう」

 リビングに残した二人が気になりながらも、私は最近思いついた、腰痛ネタのBLの新作の続きの執筆を始めるため、パソコンの電源を入れた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...