49 / 234
番外編【腰痛】2腰痛といえば➁~貴重な体験をすることができました~
しおりを挟む
次の日、やはり腰の痛みはひいていなかった。何もしていなくても、ずきずきと腰に鈍い痛みがあり、不快だった。
「おはようございます」
「おはよう。なんだか朝から元気がないようだけど、どうしたの?」
「ああ、実は、昨日の夜から腰の痛みがすごくて……」
「えええ!倉敷さんって、そういうことに淡泊だと思っていたけど、やっぱり新婚さんねえ。ふふふ。お熱いこと」
朝の朝礼の合間に、私の調子の悪そうな様子を見かねて、安藤さんが声をかけてきた。私は何の意図もなく、腰が痛いことを伝えると、彼女に意味深に笑われてしまった。
「ほどほどにしてもらいなさいね。それにしても、旦那さんは、あなたに、自分のものだアピールはしないのねえ」
「いや、なんか、誤解しているようですけど、私たちは」
「朝から、いいものを見たわあ」
私の話を聞かず、一人で勝手に誤解した安藤さんは、嬉しそうに自分の持ち場に去っていった。
昼休憩中、安藤さんの今朝の言葉について考えていた。言われた直後は頭が回らず、とっさに誤解だと反射的に答えたが、彼女の言葉の意味を深く考えてはいなかった。受付をしていた時も、客が思いのほか多くて、考える余裕がなかった。
「腰の痛み、淡泊、新婚、旦那、自分のものだアピール……」
今朝の安藤さんとの会話を思い出し、キーワードを口に出してみる。
「なっ!いやいや、なんで、腰が痛いと言っただけで、そんなことに」
私は、ようやく、安藤さんの発した言葉の意味を理解して、顔から火が出そうになった。ちょうど、昼食の弁当を食べ終わり、スマホで、BL小説投稿サイトに投稿されている人気作家の小説を読んでいる最中のことだった。
「イタタタタタタッ」
オレは、昨日のあいつとの行為のせいで痛めた腰に手を当て、仕事をしていた。
「昨日の夜は、ずいぶんと激しかったみたいですね」
「なっ!どうしてそれが」
「腰に手を当てていますし、それに首元についていますよ。本当に、仲がよろしいんですね」
課長の言葉に、オレは顔から火が出そうになった。慌てて首元を確認しようとするが、スーツをかっちりと着こんでいるため、昨日つけられたキスマークは見えないはずだった。課長にからかわれたことを知り、さらに顔を赤くなる。
「か、からかうのもいい加減にしてください」
「からかうなんてとんでもない。むしろ、あなたをそんな風に乱れさせる彼がうらやましいと思っているんですよ」
「課長、三番に内線が入っています」
「わかった。代わるから、そのままにしておいてくれ。じゃあね、仕事に支障が出るほど、彼とヤるのは控えた方がいいよ」
課長は軽くウインクして、電話に出るため、その場を去っていった。オレは、顔のほてりを冷やすために、トイレに直行した。
私が最近お気に入りのBL小説は、会社員×会社員の話で、毎日昼頃に投稿されるため、今日も楽しみに更新分を読んでいた。たまたま今日の更新分が、私の会話と同じようなシチュエーションの内容だった。
いや、私は別に大鷹さんとヤっていないし、職場にイケメンの課長もいないし、見ようによっては全然違うのだが、私にとっては、同じシチュエーションに思えたのだ。
「そうか。この腰の痛みは、私に縁のない、あれの痛みでもあるのか」
腰が痛いというのは、あの、男女か、まあ、男女以外でもあり得る、愛の行為でも起こりうる痛みだったのだ。これは失念していた。
「ということは、私はいま、受けの痛みを体験している……」
「受けの痛みを体験って、いったい何の話?倉敷さん、柔道の体験でもしたの?」
「いいえ、こちらの独り言です。気にしないでください」
一緒に昼休憩をしていた平野さんが、私の独り言に反応して、不審そうに首をかしげていた。
受けの痛みを体験している。そうとわかれば、これは、女性の身でありながら、BL実体験をしているということで、とても貴重な体験だ。この痛みを文章に記憶しておかなければ。
そう思いつつも、やっぱり痛いのが続くのは嫌だったので、今日はおとなしく仕事帰りに整体によることにした。
「おはようございます」
「おはよう。なんだか朝から元気がないようだけど、どうしたの?」
「ああ、実は、昨日の夜から腰の痛みがすごくて……」
「えええ!倉敷さんって、そういうことに淡泊だと思っていたけど、やっぱり新婚さんねえ。ふふふ。お熱いこと」
朝の朝礼の合間に、私の調子の悪そうな様子を見かねて、安藤さんが声をかけてきた。私は何の意図もなく、腰が痛いことを伝えると、彼女に意味深に笑われてしまった。
「ほどほどにしてもらいなさいね。それにしても、旦那さんは、あなたに、自分のものだアピールはしないのねえ」
「いや、なんか、誤解しているようですけど、私たちは」
「朝から、いいものを見たわあ」
私の話を聞かず、一人で勝手に誤解した安藤さんは、嬉しそうに自分の持ち場に去っていった。
昼休憩中、安藤さんの今朝の言葉について考えていた。言われた直後は頭が回らず、とっさに誤解だと反射的に答えたが、彼女の言葉の意味を深く考えてはいなかった。受付をしていた時も、客が思いのほか多くて、考える余裕がなかった。
「腰の痛み、淡泊、新婚、旦那、自分のものだアピール……」
今朝の安藤さんとの会話を思い出し、キーワードを口に出してみる。
「なっ!いやいや、なんで、腰が痛いと言っただけで、そんなことに」
私は、ようやく、安藤さんの発した言葉の意味を理解して、顔から火が出そうになった。ちょうど、昼食の弁当を食べ終わり、スマホで、BL小説投稿サイトに投稿されている人気作家の小説を読んでいる最中のことだった。
「イタタタタタタッ」
オレは、昨日のあいつとの行為のせいで痛めた腰に手を当て、仕事をしていた。
「昨日の夜は、ずいぶんと激しかったみたいですね」
「なっ!どうしてそれが」
「腰に手を当てていますし、それに首元についていますよ。本当に、仲がよろしいんですね」
課長の言葉に、オレは顔から火が出そうになった。慌てて首元を確認しようとするが、スーツをかっちりと着こんでいるため、昨日つけられたキスマークは見えないはずだった。課長にからかわれたことを知り、さらに顔を赤くなる。
「か、からかうのもいい加減にしてください」
「からかうなんてとんでもない。むしろ、あなたをそんな風に乱れさせる彼がうらやましいと思っているんですよ」
「課長、三番に内線が入っています」
「わかった。代わるから、そのままにしておいてくれ。じゃあね、仕事に支障が出るほど、彼とヤるのは控えた方がいいよ」
課長は軽くウインクして、電話に出るため、その場を去っていった。オレは、顔のほてりを冷やすために、トイレに直行した。
私が最近お気に入りのBL小説は、会社員×会社員の話で、毎日昼頃に投稿されるため、今日も楽しみに更新分を読んでいた。たまたま今日の更新分が、私の会話と同じようなシチュエーションの内容だった。
いや、私は別に大鷹さんとヤっていないし、職場にイケメンの課長もいないし、見ようによっては全然違うのだが、私にとっては、同じシチュエーションに思えたのだ。
「そうか。この腰の痛みは、私に縁のない、あれの痛みでもあるのか」
腰が痛いというのは、あの、男女か、まあ、男女以外でもあり得る、愛の行為でも起こりうる痛みだったのだ。これは失念していた。
「ということは、私はいま、受けの痛みを体験している……」
「受けの痛みを体験って、いったい何の話?倉敷さん、柔道の体験でもしたの?」
「いいえ、こちらの独り言です。気にしないでください」
一緒に昼休憩をしていた平野さんが、私の独り言に反応して、不審そうに首をかしげていた。
受けの痛みを体験している。そうとわかれば、これは、女性の身でありながら、BL実体験をしているということで、とても貴重な体験だ。この痛みを文章に記憶しておかなければ。
そう思いつつも、やっぱり痛いのが続くのは嫌だったので、今日はおとなしく仕事帰りに整体によることにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる