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4陽咲のクラスメイトが家にやってきます➁

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「本当にいいのでしょうか。私が陽咲さんの家に遊びに伺っても」

「大丈夫って何度も言っているでしょう。お姉ちゃん、そんな暗い顔しないでよ。ごめんね、麗華。なんか、お姉ちゃん、両親を麗華に紹介したくないみたいで、ずっと拗ねているの。気にしなくていいから」

「……」

 少しは気にして欲しい。私は、無言で陽咲を見つめるが、気にする様子は微塵もない。二人が見ていないことを確認して、こっそりとため息を吐いた。私と陽咲、鈴木麗華は今。私の家の最寄り駅にいた。


 私は結局、陽咲の暴走を止めることはできなかった。せめてもの反抗と思い、私はその日、芳子たちと遊ぼうと約束をした。しかし、当日の朝、なぜか二人から、断りの連絡を入れてきたのだ。ドタキャンされたのだ。まるで示し合わせたかのような断りの連絡を不審に思ったが、断られてしまっては仕方ない。私の予定はぽっかりと空いてしまった。

 そんなわけで、私は陽咲と一緒に鈴木麗華を駅まで一緒に迎えに行くことになってしまった。改めて、芳子たちとのSNSでやり取りを思い出す。




「ごめんね。朝起きたら急に、お腹が痛くなってね。風邪かもしれないから、今日は家で安静にしているよ。風邪をうつすわけにもいかないし。今日は残念だったなあ。でも、またの機会があるから気にしないよ!」

「今朝、急に私のおばあさんが危篤状態になり、病院にお見舞いに行ことになりました。喜咲との約束を反故にするのは、大変心苦しいけど、仕方ありません。約束を守れなくてすいません」

「しおどめっちは、空いた予定を家にいて、陽咲ちゃんと麗華さん、家族と話す時間にしたらいいよ。私たちのことを気にする必要はないよ。うん、それがいい。ああ、家での様子を録画してくれると本当はうれしい」

「偶然にも、私もこなでも喜咲の予定をドタキャンすることになったから、予定がなくなった。これは神の思し召し。彼女たちと家族の団らんの時間に充てろというお告げだと思います」

「だまれ」

 日曜日当日の朝、自分の部屋でスマホのバイブが振動したので、確認してみたら、このようなメッセージが二人から送られてきた。スマホに表示されたメッセージに、相手がいないにも関わらず、つい怒鳴ってしまった。


「偶然にしてはできすぎな気がしますが、偶然ということにしておきます。後で、真偽のほどを問いたいと思いますので、ご容赦を」

「口調が固いね、まあ、それはそれでかわいいな、喜咲は」

「喜咲のために私たちは……。おっと、口が滑ってしまいました。まあ、その件についてはまた月曜日のお昼にでも話し合いましょう!」





 そんなこんなで、予定が空いてしまった私は、なぜか陽咲と一緒に、鈴木麗華との待ち合わせ場所である、最寄り駅に行く羽目になった。陽咲は双子コーデがしたいと言い出し、これまたなぜか同じ服を二着買っていたらしく、おそろいの装いで出かけることになってしまった。

「いつもは同じ服を着て出かけないのに、どういう風の吹き回し?」

「サービスよ。サービス。ほら、麗華は私たちのことが好きみたい。ていうか、ファンみたいなものだから、アイドルだってファンサービスは大事でしょ。そんなところよ」

「意味がわからん」

 そう言いつつも、私は陽咲から渡された服に袖を通してしまうのだった。なんだかんだ言いつつも、私は妹に弱いらしい。玄関を出る際に、母親に笑われてしまった。


「同じ服を着ていると、親でも区別がつかないくらいね」

 私と陽咲はピンクのニットに黒のスキニーパンツを合わせた格好だ。大した恰好ではないが、二人おそろいだと目立つだろう。





 待ち合わせ場所にいた麗華の姿を見て、上には上がいると、意味の分からない敗北感を覚えた。私の仏頂面に気付き、最初は恐縮していた彼女だったが、陽咲の言葉を聞いて、そんな気分が吹っ切れたようだった。私たちの恰好を見て、興奮したように話し出す。

「こちらが陽咲さんで、こちらが喜咲さんですよね。双子コーデ、とてもよくお似合いです。双子は二つで一つって感じが伝わってすごくいいです!」

「麗華も今日はずいぶんと気合が入っているみたいだね。かっこいいよ」

「ありがとうございます。こんな美人な双子をエスコートできることを光栄に思います。今日は誘ってくださってありがとうございます!」


 麗華は、陽咲のファンということもあり、私たちを見間違えることはなかった。

 本日の麗華は、見事な男装で現れた。身長が高く、やせ形でスラリとした体形で、足も長くスタイルがよい麗華は、男装がとてもよく似合っていた。スラリとした体形を生かしたスリムパンツに上はラフなシャツ。男装用に化粧をしているのだろうか、華やかな顔に、男のりりしさも取り入れていた、女性の求める理想の男性像がここにあった。


「お言葉に甘えて、家までよろしくね。麗華君!」

「かしこまりました」

「そうそう、両手に華とはなんとやら。お姉ちゃん、麗華の反対の腕を貸してあげるよ」

 陽咲は、調子に乗って麗華の右腕にしがみつく。私に対して反対の左腕に同じようにしがみつけと言いたいのだろうが、そんな目立つことはお断りだ。

「すばらしい。では、お姉さん、片腕だけで申し訳ないが、どうか私の腕を使ってください」

 麗華は執事か何かのイメージでいるのだろうか。話し方がどこかうざったい。仕方なく、私は陽咲とは反対の左腕に自分の腕を絡めた。
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