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1.モブの心得
その13、主人公たるもの必然であれ
しおりを挟む自分が目立つことは自覚している。
いつ頃からか、自覚している。
否応なしに、表舞台に立たされるからーー
「あのぉ、ご職業って、この会社役員っていうのはぁ」
「映画お好きなんですか? 私も好きなんですー。この間も観に行ってぇ」
「6ヵ国語しゃべれるんですか! すごぉい! 私、旅行好きでー」
待って、待って、待ってくれ。
俺は聖徳太子じゃない。
婚活市場に参入した高校時代の悪友が、最近力を入れている婚活パーティー。そこにいわゆるサクラとして半強制的に参加させられてしまった。悪友は俺のことを「サクラじゃない」と突っぱねたが、本人にその気がないのに参加するというのは、やっぱりサクラでしかないだろう。ホテルの部屋(夕食・朝食つき)取ったからって許されると思うなよ。
女性陣の強さとしたたかさに圧倒させられる。
ちょっと日本にいない間に、感覚が古びてボケてしまった。同じ状況は嫌というほど経験したはずなのに、どうやってあしらっていたのかが思い出せない。疲れているのもあるせいか。
にしても。
女の子たちの話を聞くフリしながら、さっき声をかけた彼女を遠目に見る。やっぱりそうだ。間違いない。眼鏡を外して髪を下ろしてるけど、だからってあまり代わり映えしない。そしてこの場にあまりにも不釣り合い。
経理部の、あの子だ。
数週間前、一時帰国して本社に向かったあの日の夜。事務処理や雑事(広報誌のインタビューまで書かなきゃいけない。まったく無駄)をやっと終えて帰ろうとしたときに、経理部から何かが聞こえた。
うわ、俺、幽霊って初めて会う。
と思ったけど、違うことはすぐに分かった。なにせやたらとポップな音調。幽霊ならもっと暗い音調にするはず。いや、知らないけど。
そうっと覗くと制服姿の女の子がひとり。こんな時間に、残業でもあったんだろうか。月末の経理は確かに多忙だろうな。ご苦労様だ。
そして……知っている曲だった。EmptyBOXの新曲『Building blocks』。若い世代にヒットしている悲しい恋の歌。エンボは今度、うちの音楽アプリ限定で全曲ストリーミングが開始される。交渉、がんばって良かったな。
彼女は携帯で曲を聴きながら歌っているらしかった。たまに歌詞を間違えて、でも気にしてない。可愛いのに艶のあるいい声だった。歌の上手い素人って感じ。
疲れたのに、ついつい聴き入っていた。疲れていたからかもしれない。街頭でストリートミュージシャンが歌うのを立ち止まって聴くときは大概疲れているときだ。元気なときなら見向きもしない。
でも……見入ってしまった。
Aメロ、Bメロ、サビが終わって2番の中間。
あ。
『うぁ、あのッ、すいませんッ! あああの、えっ、いつから、やだっ』
ミスった。音を立ててしまった。
彼女は驚いて、歌をやめて、ひどく狼狽えていた。無理もない。
泣き顔なんて、誰にも見せたくなかったんだろう。
『えーと……』
『あうううるさくしてごめんなさい! お疲れ様ですお先に失礼します!!』
『あっ、おい!』
おいって何だよ、おいって。失礼な。
そして彼女は一目散に逃げてしまった。……こういうお伽話とか、あったような。なんだっけ?
そんなこんなで、消えた彼女を探す気は特になかった(会社に行けば会えるわけだし)けど、絶妙な場所で会ってしまった。そしてファーストコンタクトは不発。彼女はロボットみたいになっていた。
「ごめん、ちょっと喋りたい子がいるんだ」
周りにいる女の子たちにそう言って離脱。本当半分ウソ半分、この場でやっぱり、俺は疲れてた。疲れているから彼女が気になる?
話しかける、固まられる。
話しかける、警戒される、連れ出す。
うまく連れ出せてよかった。それにこういう顔だから、彼女のような子に警戒されるのは慣れている。でもまさか詐欺を疑われるとは思わなかった。しかも壺って。発想がステレオすぎる。
さて、どうしようかな。
手を握ってロボ化したエンボちゃん(仮)が予想外に面白くて、もっとその表情を見てみたくなる。話してみたい。聞いてみたい。あの日の偶然を、あの歌をーー
「アノッ」
「ん、どした?」
「エッチシマスカ?」
ロボットのまま、そんなことまで?
やっぱり予想外すぎる。
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