おっさんアラフォー王妃になる

桐条京介

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第23話 勝利後の話し合い

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 クーデターが成功した日の夜。

 俺は身分の高い人用の客間で、ベッドの上に正座をしていた。

 正面にずらりと並ぶ関係者。中央に立つのはアニータ嬢だ。

 そう。つまりはガチ説教をされ中である。

「面目次第もございません……」

 確かに少しばかり羽目を外したような気もする。

 グレネードランチャーを没収される際は、そんなふうにもちょっとだけ思ったので、おとなしく従った。

 そうしてグレネードランチャー分の気分高揚が抜けるとあらびっくり。やりすぎモンキーですわ。

 アニータ嬢曰く、グレネードランチャーを持った俺は、自慰行為を覚えた猿など目じゃないほど、自身の欲望に逆らえなくなるらしい。

 いや、さすがは並行世界。正座や土下座なんてのもあるし、動物類に関する情報や知識も似通っている。

 それらがすべてヨーロッパ系に近い人類がやっているのは、いまだに違和感マシマシで慣れないが。

「あの、皆さん、どうかそのくらいで……」

 取りなそうとするレイナードは、王妃用のドレスから男性貴族用の衣装に着替えをさせてもらえていた。

 俺のおかげでクーデターが順調だったのもあり、お説教は極めて短時間で終わった。アニータは怒るというより、今も恐怖で膝を震わせていたけどな。

 しかも俺の進撃について回っている最中に、少しばかり粗相をしてしまったらしい。

 こっそり打ち明けられて責任を取ってと言われたが、俺になにをどうしろと。

「お母様のおかげで、味方の損害も少なくクーデターを成功させられたのです」

 国境の砦付近の革命軍と対峙していた近衛騎士団が、クーデターの一報を受けて反転した時には、帝城はもうこちらの手に落ちていた。

 傀儡になるのを受け入れた皇帝は王妃が実は男だったと公表し、レイナリアはレイナードとしてリュードンへ戻ることになった。

 性別を偽ったまま、王妃として王を裏から操るという選択肢もあったものの、レイナードは自国へ戻るのを強硬に希望した。

 要するに腐っていた汚物皇帝の近くどころか、この国にいるのもいやだということだ。無理もない。俺が逆の立場でも同じ気持ちになるだろう。

 傀儡皇帝の最後の悪あがきなのか、俺がリュードンの元王妃という話も民に伝わったため、ガーディッシュではリュードンへの悪感情が過去最大になっている。貴族たちもいい顔をしていない。

 なので俺も含めたリュードンに地縁があるものは、過去の罪はすべて水に流されて帰国を許された。体のいい厄介払いである。

 そしてリュードンでも受け入れの用意が進んでいる。レイナードだけを呼び寄せて新たに王位継承権を与えるのかと思いきや、俺もだったりする。

 次代の王の実母を追放しておくわけにもいかないというのが理由らしいが、なんとも嘘くさい。

「ナスターシアさんは、あの婿養子がレイナードさんのことを知っていたと思いますか?」

 率直な問いかけに、彼女はリュードンの侍女服姿で軽く瞼を閉じた。

「城に滞在時の話であれば、恐らくはないか……と思うのですが」

 ナスターシアの一族が冤罪で叩き潰されたあとに、関係者が拷問でも受けて秘密を暴露した可能性はある。

「そうなると、私とレイナードを呼び寄せて毒殺という可能性もありますね」

 なんとも宮廷ものっぽい展開になってきたぞ。向こうの地球でベアトリーチェに教えたら大喜びしそうだ。

 問題は知略による戦いになった場合、俺が勝てるとは思えない点だ。

 やはり面会するなり、ショットガンで吹っ飛ばした方がよいのではなかろうか。

「あ、また姉御が物騒なこと考えてる」

 アニータがエスパーじみた洞察力で指摘。全員の目が一斉にこちらを見る。

「お母様、何事も力で解決するのはよくありませんよ」

 レイナードが中世的な顔立ちに苦笑を張りつける。元々が細身で筋肉量も乏しいので、ドレスを着せれば本物の女性と見間違える者が出てもおかしくない。

 しかも長年リュードンで王女として過ごしてきたのもあって、仕草のひとつひとつが下手な女性よりもずっと女性らしいおまけ付きだ。

 少しばかり汚物皇帝の気持ちが……いや、やっぱりわからんな。

「ですが、力がなければ話し合いの席に着かせることもできません」

 俺とは血の繋がりも接点もなかったので、リュードンではろくに話をする機会にも恵まれなかったみたいだが、レイナードは前々からベアトリーチェと親交を深めたかったらしい。

 それというのも、彼の実母のナスターシアが、ベアトリーチェのことを悪く言わなかったおかげだろう。偽物でごめんな。

「確かに一理ありますが……では、お母様はどうなさるおつもりなのですか?」

「そうですね……向こうではむしろクーデターのような形で、私が追放されてしまいましたので、貴族の多くが婿養子側についています」

 最大の味方はナスターシアの一家だったが、あえなく取り潰しになっている。

 同派閥で下っ端だった家も連帯責任だと潰されており、空白地帯となった領地には婿養子の派閥の貴族が新たな領主として任命されている。

 ガーディッシュの間諜による報告だったが、いつもは汚物皇帝にどうでもいいと話も聞いてもらえないので、大勢に耳を傾けてもらえる環境に感涙していた。

「そうなるとやはり罠の可能性が高いので、かかったふりをして叩き潰すというのが、もっとも相手の気勢を削ぐ一手になるかと」

「要するに、リュードンの王城に乗り込んで暴れ回りたいんだね」

 体裁を保つための説明を、アニータ嬢がバッサリと切って捨てる。

 そのような意図も少しはあったが、それにしても信頼されていない。

「アニータさん、私は悲しいです。腹心のあなたにそんなふうに思われていたなんて……」

 俺は王妃らしいドレス姿で、悲しみをめいっぱい表情に出して泣き崩れてみる。

 ドレスはクーデター成功後に、サイズが合うのを与えられた。どうやら先代の王妃が若い頃に着ていた物らしく、色合いが流行のよりも落ち着いているらしい。

 俺には差がさっぱりわからなかったが、デザインは向こうの地球での中世ヨーロッパでよく見た感じのものだ。

 コルセットは予想以上に腰が絞められて吐きそうだったのでやめてもらった。

「いや、その……ああ……」

 そんな俺の泣き真似は、アニータ嬢の心にクリティカルヒット。

 ここでもうひと押しと、立っている彼女に向けて上目遣いを披露する。

 レイナードの横にお高そうな椅子に座りながら、豊かな胸元もごくごく自然に軽くアピールしてみれば、実にあっさり視線が釣れた。

 アニータどころか、元山賊団全員分が。

 同性愛率高くないか、この世界。

「アニータさんが味方になってくれたら、友情もより育まれて毎日のように添い寝やお風呂なんてこともあったでしょうに」

「うう……だめだ。アタイは色仕掛けに屈しない」

 くっ殺のテンションで歯噛みしているが、アニータの両手は没収済みだったグレネードランチャーをこちらへ差し出そうとしていた。

「お戯れはおやめください、ベアトリーチェ様。我々はすぐにでもガーディッシュを立たなければならない身の上なのですよ」

 もっと真面目に話をしろと、ナスターシアに遠回りに叱られたでござる。

 俺としては女の体であっても、相手が女性ならウエルカムなので、わりと添い寝もお風呂も本気だったのだが……。

 いかんな。一度風呂でベアトリーチェの裸を見てしまい、さらには向こうで本物に体を好きにしていいと言われているのもあって、どうやら色々とタガが外れかけているようだ。

 トリガーハッピーな戦闘狂で色情狂とかシャレにならない。

「ですが、ナスターシアさん。他になにか有効な手立てでもあるのですか?」

 向こうの出方がわからない以上、警戒はしても具体的な対抗策は取り辛い。

 それがわかっているのだろう。ナスターシアが眉間に縦じわを刻んだ。

「レイナリア様がガーディッシュによりレイナード様だったと公表された以上、これを否定するのは友好に傷をつけることになります」

「逆にリュードン側が開戦のきっかけにしたりはしませんか?」

 クーデター直後なのもあって、ガーディッシュは国内が乱れている。野心家なあの婿養子ならば、でたらめだと一喝して攻め入る可能性もあった。

「貴族の大多数がクーデター陣営についていたのもあり、全体的にも被害は少なく、領地替えもほとんどありません。混乱は許容レベルに収まるかと」

「なるほど。だからこそ余計な火種になりかねない私たちには、さっさと国から出て行ってほしいわけですね」

 クーデター協力のお礼だと歓待も受けたが、貴族も侍女もよそよそしかった。

 とりわけ全権委任される宰相になるのが決まった、革命軍の副指導者だった公爵は実に素敵な笑顔で国へ戻るのを強く勧めていた。

 リュードン出身のナスターシアを指導者として立て、クーデターが失敗に終わった場合は、副指導者だと名乗りもせずにレイナードごと切り捨てたのだろう。

 やはり俺には、宮廷ものはどうにも性に合ってないような気がする。

「とにかく帰国は確定事項で、あとは警戒を高めておくしかありませんか」

 ため息まじりの俺の結論を、レイナードとナスターシアが首肯する。

「アグーさんたちはどうなさいますか?」

「姉御と離れるのは寂しいけど、アタシらは最前線に戻るよ。魔物の脅威が完全に消え去ったわけじゃないし、なによりミゲールたちには味方も必要だろ」

「そうですね。そうしてもらえると助かります」

 ミゲールたち知性のある魔物は、今回の褒賞で北の地の一部を自治領として与えられることになっている。

 今頃は別室で関係者と打ち合わせの真っ最中だろう。

 彼らとは別れの挨拶は済ませてある。後ろ盾という意味でも、俺にこの地に残ってほしかったみたいだが、ガーディッシュの上層部が難色を示し、リュードンも戻ってこいと言っている以上、彼の希望に沿うのは難しかった。
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