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第24話 処刑

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「よくもおめおめと戻ってきたな、王国の面汚しどもめ!」

 国境を越えるなり王家の紋章が描かれた四頭立ての馬車に乗せられ、俺の他はレイナードとナスターシア、あとは俺専属の侍女に扮したアニータが同席して王都へ運ばれた。

 同行を希望した元山賊団の面々は、俺の近衛として付き従っている。といっても全員馬に乗れないので、従者用の馬車へそれぞれ押し込まれた。

 周囲をザ・騎士といった感じの騎馬兵に護衛されて……というか監視じみたものだったが、それから解放されるなりの謁見の間での怒声である。

 本来は二つあった玉座のひとつは片付けられており、残りのひとつから立ち上がった婿養子が、頭に乗せた王冠がずれそうなくらい怒りを露わにする。

 俺とレイナードは、玉座の下で並んで頭を下げさせられている。騎士数人がかりでの所業なので、とても歓迎されているとは思えない。

 ナスターシアとアニータは別室で待機中だ。その案内までは非常に穏やかな役に応対させていたのは、異変を察して逃げないようにするためだったらしい。

「どこまで国の品位を落とせば気が済むのだ! これも血筋というもので王位を繋いできた弊害よ! よって、余はここで自らが正統な王であると宣言する!」

 打ち合わせ済みのようで、左右にずらりと並んだ貴族たちが、揃って婿養子に頭を下げる。

 血の繋がりによる身分をなにより大切にするのが貴族だ。その連中がそれを否定されたのに従っている時点で、茶番ここに極まれりだ。

「有能な者が王位を継いでこそ国が発展するというもの。余は正統なる王として、レイナードの王位継承権を剥奪し、新たな王子に第一位の継承権を授けるものとする!」

 どこかの貴族家から養子でも迎えるのかと思いきや、赤子を抱いた女が偉そうな態度で謁見の間へ入ってきた。

 あの女、あれだ。婿養子が俺を追いだした時にいた愛人だ。

「あなたみたいな愚物と異なり、私と陛下の子であればきっと優秀な為政者となるでしょう」

 愛人から王妃に成り上がったらしい女が、オーホッホッと悪役感満載の笑い声を木霊させる。

 こんな女だったのか、こいつ。笑ってる最中に吹き飛ばせば、さぞかしコミカルなやられっぷりを披露してくれそうだ。

 謁見するにあたってショットガンは没収されてしまったが、ハンドガンはスカートの内側、ショーツのゴムで挟めて確保済み。身体検査が甘すぎである。

 だがわざと見逃し、挑発をしているのも俺の暴発を促すためとも考えられる。そうすれば大手を振って元王妃の俺とレイナードを始末できる。

 王家と血の繋がった公爵家とかもあるだろうに、どうしてここまで婿養子が力を持つに至ったのか。

 ナスターシアによれば領地が金持ちで、見栄っ張りで貧乏になりやすいのに気位だけは高い公爵家ばかりが残っているらしい。

 つまり王家に対する忠誠が高いところは、難癖をつけて真っ先に潰したと。

 それにしても、血筋を否定するわりに、自分の子供を王位につけさせようとするとは。まあ、将来的に傀儡になりそうではあるが。

「王子の性別を偽って王女として育て、あまつさえ大切な隣国へ嫁がせるとは容赦できぬ!」

「婚姻を決めたのは王であったかと思いますが」

 さっくり言い返してみるが、婿養子は予想済みだったようで応えていない。

「余は貴様に騙されたのだ! このような者が血筋のみを誇り、王家にのさばっているから国が乱れるのだ!」

「先代の頃より治世に乱れはありませんし、そもそもその血筋を求めて婚姻を結び、正統性を経て王位を得た方に言われても……」

 ベアトリーチェの記憶を引っ張りだして、とりあえず反論してみる。

「言い訳はやめよ! 貴様ら王族には、元々国を治める資質などなかったのだ! 今後は余が正統な王として国を統べてゆく!」

「つまりはお家乗っ取りですね?」

 左右に陣取っている貴族が、少数とはいえざわつく。それこそ血筋を誇る貴族が、なにより嫌悪するのがお家乗っ取りだ。

「自ら犯した罪を顧みることもせず、余を罵るか! その傲慢さ、もはや許し難い! その女はもはや王族にあらず、即刻処刑を命じる!」

 さらにざわざわする謁見の間。どうやら俺の処刑までは根回しが済んでなかったようだ。

 だがここで反対すれば、元王妃一派として処分されかねない。貴族らしく不満を表には出さず、いきなりの王の勅命で俺の処刑が決定。

 なんたるクソゲー。処刑台で首チョンパされた場合でも、復活機能は働くのだろうか。

 っていうか、神々の能力によるものであれば、俺を復活させるのやめたという理由でいきなり失う可能性も否定できない。

 なにせ向こうの地球にいる本物のベアトリーチェは、女神様を恐らくは騙して手に入れたチート能力で好き勝手やってる外道なのだ。

 神々が、俺もろとも奴に天罰を下しても驚かない。

「お待ちください、お父様!」

「ええい、余を父と呼ぶな! 貴様と血が繋がっているなどおぞましいにもほどがある! 貴様は教会送りだ。腐った性根を叩き直してもらえ!」

 愛人との子供の将来を守るために世俗から離れさせ、時期を見計らって毒を盛り、病死と発表するつもりなのだろう。

 レイナードも同じ結論に至ったのか、もう一度婿養子を父と呼ぶも、玉座を降りてきた奴に頭を蹴られて呻いた。

「ぐだぐだ言っていると貴様も処刑するぞ! この意地汚いウジ虫どもが! もうこの国を貴様らの食い物にはさせんぞ!」

「食い物にしているのはそちらでしょうに」

「黙れ! フン、悔しいか? 悔しいだろうな。だが許してはやらぬ。貴様が身のほどをわきまえ、余に従っていればこのような目に合わずにすんだのにな」

「呆れましたね。あなたは本来、王族ではなかったでしょうに。王家に忠誠を誓う貴族なればこそ、王妃である私を尊重する必要があったはずです」

「黙れと言っている!」

 嘲笑ったつもりが、笑い返されて激昂。しかも女の顔に蹴り。なんとも器の小さい婿養子である。

 そしてその後ろでいまだ高笑い中の愛人。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

 ……よく息が続くな。あ、ちょっとむせたぞ。ざまあみろ。

「この女を牢へぶち込んでおけ!」

 騎士の手で乱暴に立たされ、無理やり歩かされる。

 うお!? ひとりが尻を触りやがった!

 気持ち悪ッ! 気持ち悪ッ! 気持ち悪ッ!

 しかも、フルヘルム越しにニヤニヤ笑ってるのが伝わってきやがる。

 アニータ嬢、カモン! 俺にグレネードランチャーをプリーズ!

 ハンドガンしか装備していないのに、思考が物騒になっているが、このケースでは仕方がない。決して俺の我慢耐性が下がっているわけではない。

 ……と思いたい。

 他に誰もいない地下牢は、こちらへ転生した当初もお世話になったボロボロスイートルームだ。懐かしの……というにはあまり日も経っていないが。

 力任せに奥へ放り投げられ、腰をさすっていると、ふたりの騎士も中に入ってくる。

 両手でヘルムを脱ぎ、出てきたスケベ顔に失笑する。

「見下してんじゃねえよ! お前はもう処刑が決まった罪人なんだ!」

「ですからなにをしてもいいと? さすがあの婿養子に尻尾を振る騎士ですね」

「うるさい! まずは邪魔な衣服を剥いでやる!」

 ろくに着替えもさせてもらえていないので、俺はガーディッシュを出発する際に着させられた旅装で、下は民間人がはくような質素なスカートだった。

 砂埃がついているのを構いもせずにめくり、騎士が鼻の下を伸ばす。

 元男なので相手の気持ちがよくわかる。イケメン率が高いこちらの地球で、本来の俺と大差ない容姿なのも同情を加速させる。

 だが、しかし。

 だからといって俺が犠牲になる必要性を認めない。

 なので俺は、膝丈よりも長いスカートに顔を突っ込もうとしているアホ面騎士に言ってやる。

「ごめんあそばせ」

 気分は小学校の学芸会。観客席に背中を向けての木の役しか経験のなかった人生だが、舞台は地下牢でも立派な主役。せいぜい悪役王妃を演じてやろう。

 下着から引き抜いた銃を構え、呆気に取られている騎士の額を撃ち抜く。

 うお、飛び散る中身がグロすぎる。至近距離だと結構な威力なのな。

 ベアトリーチェの裸を見ようと、もうひとりの騎士も兜を脱いでいたのが仇となった。

 被り直すより先に銃口が頭部を捉え、俺がトリガーを引くのに合わせて穴が空く。飛び散る流血はB級スプラッターものの洋画を彷彿とさせる。

 返り血を浴びないように逃げ、騎士が落とした鍵の束をゲット。俺の牢はお楽しみ後に施錠するつもりだったのか、わずかに開いたままだった。

「まずはアニータ嬢や仲間たちの安否を調べないと。さすがにハンドガンだけじゃ心許ないし……呼んだらくる機能付きならありがたかったのにな」

 周囲に誰もいないのもあり、俺は右手を掲げて「こい」などと呼んでみる。

 するといきなり感じたズッシリとした重み。

「まさか、本当に?」

 両手にはしっかりショットガンが握られていた。

 なんだろう、この、彼女が彼氏の家に予告もなくお邪魔するきちゃった感。

 いや、呼んだのは俺なんだけども。

 なんとくメンヘラ彼女に監視されている彼氏の気分だ。

 うむ。普通の男ならいやがるのだろうが、こうした展開に憧れを抱いていた童貞はとても嬉しくなってしまう。

 ショットガンにお礼などを言ってみつつ、グレネードランチャーも呼びだそうとしたが、途中でストップする。

「気分が高揚して暴れ回ったら、ますます罪状が増えるな。となるとやっぱり味方を助けだして脱出するべきか」

 ショットガンがあれば、大抵のドアは鍵がかかっていてもぶち破れる。

「特に近頃は国を離れていたとはいえ、ナスターシアの人脈は貴重だな」

 本当ならベアトリーチェの人脈にこそ期待したいのだが、買物を任せる侍女などはいても、信用できる人間はナスターシアくらいだったようである。

 だからこそ自分を裏切らないようにさせられるチートを求めたのかもしれない。
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