いきなりマイシスターズ!~突然、訪ねてきた姉妹が父親の隠し子だと言いだしたんですが~

桐条京介

文字の大きさ
34 / 35

第34話 結末

しおりを挟む
 唇を離して見つめ合い、どちらからともなく笑う。

 嬉しさと恥ずかしさと照れ臭さと。ごちゃ混ぜの感情も、なんだか今だけは好ましく感じられた。

「若いっていいわねぇ」

 突然と場に放たれた羨望の言葉に、透と奏は慌てて離れる。

 さも愉快そうに登場したのは、姉妹を二階に運び終えた綾乃だ。

「そっと見守っておこうと思ったんだけど、あのままだと部屋に入るタイミングがないもので声をかけさせてもらったわ。ごめんなさいね」

「な……な……! い、いつからそこに……いや! こ、こういう時は見ないふりをして、一人でそっと帰るのが常識ではないのか!」

「しーっ」

 綾乃が唇の前で人差し指を立たせる。

「大きな声を出すと、奈流ちゃんたちが起きちゃうわ」

 居間へ入り、適当な場所を見つけて座る。

「でも驚いたわ。やっぱり母娘だからなのかしら。同じ解決策を思いつくなんてね」

「同じ?」

「解決策?」

 透と奏が顔を見合わせる。

 まさかという不吉な予感を覚えた。

「そうよ。あの子たちを悲しませないためには、養子にするのが一番。私も独身だからね」

 流し目の綾乃はとても艶っぽく、年齢を感じさせない。姉妹の面倒を見るという点では、包容力があるでの誰よりも適任かもしれない。

「透君は、おばさんが相手だと嫌だったのかしら」

 畳の上で取る女豹のポーズは破壊力抜群だ。

「いや、そんなことは……」

 反射的に返してから、決定的なミスに気づく。

 だが時すでに遅し。挽回する暇は与えられなかった。

「プロポーズをした直後に、その女の前で浮気心を見せるとはいい度胸だ。これは躾が必要だな」

「し、躾って、ちょっと……あうっ!」

 ガシっと。透の頭部が片手で鷲掴みにされる。

 逃れようともがく透がうつ伏せに倒れると、すかさず奏が背中に乗った。柔らかいお尻の感触が、痛みの中で救いになったのも一瞬だけだった。

 見下ろす二つの瞳には欠片ほどの慈悲もない。透は今夜初めて、本物の恐怖を知った。

「ま、待て。大きな声を出すと、里奈と奈流が起きる」

「問題はない。透が声を出さなければいいだけだ」

 避けるように唇が左右に広がる。それはまさしく般若の笑みであった。

「た、助け……」

 泣きながら透が伸ばした手の先、君子危うきに近寄らずとばかりに綾乃が立ち上がる。

「これが初めてのプロレスごっこになるのね。邪魔者は去るから、愛の共同作業をたっぷりと嗜んで頂戴」

「な、何を言ってるんですか。元々は綾乃さんが余計なことを言うからでしょう! 責任とって説得していってくださいよぉぉぉ」

「問答無用。私以外の女に色目を使えないよう、徹底的に教育してくれる」

「ひいいっ!」

 この夜。透が上げた数々の悲鳴によって、二階で眠る姉妹が目覚めなかったのは奇跡であった。





 眠ったのを後悔する姉妹が、一階へ降りるなり示した反応は絶句だった。

 二人の視界に映るのは目の下に濃いくまを作り、僅か一晩でげっそりとしてしまった透だ。

「お兄ちゃんがゾンビになってる」

「色々あってな。どうにか生きているのを仏様に感謝していたところだ」

 里奈に言いつつ、台所に立つ奏を見る。

 色気のない攻撃で一晩中透を痛めつけて満足したらしく、徹夜後にもかかわらず鼻歌交じりで全員分の朝食を作っている。

 結婚を決めた仲になって早速実感させられたが、奏は実に嫉妬深い性格をしているみたいだった。

 本当に浮気をした日には、きっちり殺されるだろう。

 昨晩の悪夢を思い出し、透は全身をブルリとさせる。

「も、もしかして、神崎のおばさんにいじめられたのー?」

「違うから心配するな。それより、二人ともそこに座ってくれ」

 二人を畳に座らせたあとで、透は台所の奏も呼ぶ。大切な報告をしなければならない。

 並んで座る透と奏を特に不思議そうにもせず、姉妹は緊張で身を固くする。最近の流れから、決して良い話ではないと考えたのだろう。

 姉妹が喜んでくれるかはわからないが、透は昨日に決めたことを伝える。

「俺と奏さんは結婚することになった」

「けっこんー?」

 不思議そうに首を傾げる奈流に、里奈が結婚について説明する。

「そっかー。お兄ちゃんとお姉ちゃんが、パパとママになるんだねー」

 理解した奈流が、おめでとうとばかりに拍手する。だがそのあとに、再び顔にハテナマークを浮かべた。

「じゃあ、奈流とお姉ちゃんはどうなるのー?」

「今まで通りお兄ちゃんでも構わないし、好きに呼べばいいさ。で、だ。お前たちに確認したい。俺たちの養子になるつもりはないか?」

「いいんですか!?」

 身を乗り出した里奈が確認を求めたのは透ではなく奏だった。

 養子と聞いてすぐに意味を理解できるあたり、やはり知識レベルは小学生離れしている。

「構わないさ。私が透と君たちの同居に反対していたのは、彼一人では支えきれずに共倒れになると危惧していたからだ。私と透が結婚し、そこの家庭に里奈と奈流を受け入れるのであれば、最初から賛成していたさ」

 ただ、と微かに奏が顔を曇らせる。

「君たちは母親を亡くしたばかりだ。形式上とはいえ、私が母になるのは複雑なのではないか?」

「……正直に言えば少しはありますけど、それこそ構わないです。私たちを思っての決断だとわかっていますから。奈流もお兄ちゃんと奏お姉ちゃんの子供になってもいいよね?」

 尋ねられた奈流は小さな顔一杯に、子犬を連想させる可愛らしい笑みを浮かべた。

「うんっ。でも……お兄ちゃんをパパってよぶのは、なんだかへんなかんじがするねー」

「だったらこれまで通り、お兄ちゃんでいいさ。無理に呼び方を変える必要はない。好きにすればいいんだ」

「やったー。じゃあ、お兄ちゃん!」

「もう、奈流ってば」

 里奈がクスっとする。だがその直後に表情を否定的なものへ変化させた。

「でも、簡単にいくでしょうか。また神崎のおばさんが何かするのでは」

 室内がシンとする中、このタイミングを待っていたかのように綾乃がやってくる。

 姉妹に出迎えられて居間へ来た綾乃は意味ありげに微笑む。

「昨日はお楽しみだったかしら」

「ええ。綾乃さんのおかげでね。あとでお礼をしますね」

「気にしなくていいわよぉ。それより報告があるの」

 刺々しい透の言葉をさらりと受け流し、ごくごく当たり前に話題を変える。

 唖然とする透の肩に、諦めろとばかりに奏の手が置かれた。

 微妙に力が入っているのは、好色な目で綾乃を見たら今夜も地獄への直行便に乗せるぞという警告だろう。

 注目を集めるようにテレビの前へ移動した綾乃は大きな胸を張り、得意げに喋り出す。

「透君が神崎氏に支払ったお金が返却されることになったわ」

 予想していなかった報告に、透は「はい?」と間抜けな声を出してしまう。

「実は彼女は違法な営業をする闇金融と繋がりがあったみたいでね。誰が通報したのか知らないけど、警察に目をつけられちゃったのよ。調査に多少時間がかかったけど、さすがは優秀な日本の警察よね。神崎氏と闇金の繋がりの証拠をきっちり掴んだの。その過程で個人でも法外な利息で他者にお金を貸してるのが露見してね。そのうちの一人が里奈ちゃんたちのママよ」

 難しい言葉が並び過ぎているので、今回ばかりはさすがの里奈も理解できなかったようだ。言葉もなく、首を傾げる。

 奈流に至ってはきょとんとするだけだった。

「借金自体は本当だったけど、里奈ちゃんのママ、美奈子氏が口座に残していたお金で十分に返済できる額だったのよ。葬儀などを行った代金も含めてね。生命保険に入っていなかった分、自分に何かあった時のためにと必死で貯めていたみたいね。それをネコババした挙句、透君からもお金を取ったわけ。こんな立派な詐欺罪を警察が見逃すはずないわよね。そういう理由で、今朝早くに神崎氏の両手は後ろに回りました」

 息つく間もなく言い並べて拍手する綾乃。

 ぽかんとする一同において、奈流だけがなんだか楽しそうとばかりに笑顔で拍手を返す。

「いきなりの展開だったけど、現実なんて大体はこんなものよね」

 綾乃にウインクされて、ようやく透に時間というものが戻って来たみたいだった。

「要するに、神崎の邪魔はもう入らないということですよね?」

「そうよ。里奈ちゃんたちの後見人は施設の人が一時的に代理をしてくれて、そこから透君が養子縁組を進める方向になっているわ」

 どうやらここへ来るまでに、色々と話をつけてくれていたみたいだった。それもこれも綾乃の顔の広さがなせる業である。

 素直にお礼を言ってから、透は苦めの笑みを作る。

「神崎の件をリークしたのも綾乃さんですね」

「違うわよぉ。私は透君に頼まれてお金を私に行った際、同行してくれた弁護士の人に調べたら色々と出そうな女性ねって雑談しただけだもの。それが警察にまで話がいくのだから怖い世の中よねぇ」

 肩をすくめる透に、彼女は悪戯っぽい目を向ける。

「それとも恰好をつけるために、里奈ちゃんたちの前で神崎氏と戦って勝ちたかった?」

「遠慮しときます。口であの人に勝てるとは思いません。助かりました」

「これで一件落着ね。当分は神崎氏も何もできないはずよ。他の親戚に里奈ちゃんたちを引き取る意思はないようだし、養子縁組も問題なくできると思うわ」

 会話が一段落したところで、唸るように奈流が声を出した。

「それで、なにがどうなったの? お兄ちゃんがパパで、奏お姉ちゃんがママなんだよねー?」

 元気の良い返事はしていたものの、奈流はいまいち会話の内容を理解できていないみたいだった。

 そんな妹に、この家に来て以降一番の笑顔で里奈が告げる。

「これからも、私たちはこの家で暮らしてもいいということよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

25歳の俺とJKギャルの恋は、社会的にアウトですか?

雪奈 水無月
恋愛
雨の夕暮れ、金髪ギャルが道端で固まっていた。 傘も差さず、スマホも財布もないらしい――そんなピンチ女子高生を放っておけるほど、俺・桜井翔真(25)は冷たい人間じゃない。 でも助けた相手が、ツンツンしつつも妙に距離を詰めてくる“ギャル”だなんて聞いてない! 「アンタ、なんか優しいじゃん。……もしかして、アタシのこと好き?」 「いやいやいや、そっちの方向性じゃないから!」 そうやって誤魔化していたのに、次に会ったときはお礼に手作り弁当を渡され、 派手な見た目と裏腹な家庭的すぎる一面を見せられて――俺の心は、ちょっとだけ揺れた。 だけど、25歳と17歳。 年の差も、世間の目も、俺たちの前に立ちはだかる。 これは、ひょんな出会いから始まった“絶対にバレちゃいけない、だけど止められない”年の差ラブコメの物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...