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無垢と欲
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久々に見るアイザックは、なんだかいつもより素敵に見える。
流した前髪にサイドはぴちりと撫でつけて、形の良い耳がよく映える。
花を一輪、華やかなそれはやはりアイザックに似合うとリュカは思った。
けれど、顔色があまり良くないように思う。
忙しいのかもしれない。
それでも顔を見せてくれるなんていい人だなぁ、とリュカは思った。
「リュカ様。お話がございます」
「なに?」
半ば強制的にサロンまで連れて行かれたリュカはなにがなんだかわからない。
座らされて三人から見下ろされる。
おかしいな主人は僕なのに、とリュカは見上げた。
「マーサは昨日、下手な小細工はしてはいけませんと言いました」
「下手な小細工ってなに?」
「公爵様に花を贈ることです。なんの前触れもなくそんなことをされてはお困りになるでしょう?まずは、きちんとリュカの様の思いを公爵様にお告げになるのです」
「でも、グレイはマーサに花を贈ったんでしょう?だから、僕も契約満了の時に大きな花束を贈ろうと思って」
ジェリーはひゃひゃひゃと腹を抱えて笑った。
それを見てリュカもえへへと笑った。
「笑ってる場合ではございません!」
「リュカ様。私はマーサにこれから毎日、『好きだ』という気持ちを込めて花を贈ると最初に言ったのですよ?」
珍しくグレイが語り、マーサはその隣でうんうんと頷いている。
「えー、聞いてないよ。そんなの僕が言ったら残りの期間がなんだか気まずいじゃないか」
ぶぅぶぅとぶうたれるリュカに三人同時に息を吐いた。
どう見ても公爵様はリュカが好きじゃないか、と。
「まぁまぁ、父さんも母さんもここはリュカ様を見守ろうよ。リュカ様が初めて誰かを好きになったんだから。あれこれ考える片想いの時期もまた楽しいもんだよ」
「ジェリー・・・」
リュカの瞳はキラキラとジェリーを見つめ、尊敬の念が浮かんでいる。
ジェリーも優しく微笑み返す、もうリュカを止められない。
だったら、面白い方がいい。
リュカはジェリーとピコピコを連れて庭を散歩する。
離れ家だけでなく公爵家の広い庭にも足を伸ばしてカポカポと歩く。
ピコピコは公爵家の使用人にも人気で、首を飾るリボンもたくさん持っている。
公爵家の侍女の鮮やかな刺繍も入ったそれらは、とても綺麗だ。
歯を剥き出してブルルと鼻を鳴らすのに皆が夢中になっている。
「ジェリー、片想いが楽しいって本当?」
「あぁ」
「自分を好きじゃないって寂しかったり、悲しかったりするもんじゃないの?」
「まぁ、そういうのもあるけど・・・頭に色んなこと思い描くのは楽しいもんだ」
「例えばどんな?」
「手を繋いで歩きたいなぁとか、流行りの甘味を二人で食べたいなぁとか、夜にベッドで明日も会えるといいな、とか」
公爵家の侍女にブラシをかけてもらうピコピコを眺めながら話している。
ふんふんと書き留めていたリュカは思う。
それもう全部やってるな、と。
夜にベッドのくだりは、発情した時を思い出してボンっと顔に血が昇ってしまった。
なんだかとても恥ずかしい。
全部やってしまった、その次に想像するのはなんだろう。
城がある方向に目をやって、早く帰ってこないかなとリュカは思った。
人には誰にでも必ず訪れるささやかな、そして痛烈な瞬間があるとリュカは思う。
この機を逃してはならない、離してはならない。
そんな瞬間が。
それを見逃してはならないのだ。
「好きだ」
その一言は至って単純で飾り気がなく、それでいて心を打つ。
それがリュカの思う好きと同じかどうかなんてわからない。
わからないけれど、好きと言われて嬉しく思ったのなら返事はもう一つしかない。
「僕も好き!」
だって、好きなのだから。
好きだ、と言ってくれたのだから。
衝動のままにリュカはアイザックの胸に飛び込んだ。
受け止めてくれたアイザックの胸はやっぱり広くて、体全体で強く抱きしめる。
ダリアがクシャと潰れてしまった。
背中に回るアイザックの手は大きくて温かくて、耳に聞こえる心音はとても速い。
リュカ、と聞こえる声は耳触りがいい。
見上げるとすぐ傍にアイザックの顔があった。
心なしか、頬が染まっているような気がする。
リュカの染まった頬にアイザックの大きな手のひらが触れる。
「アイクはもう花はいりませんか?」
潰れてしまったダリアに触れてリュカはそう問うた。
ググッと息を詰まらせたアイザックは考える。
なんと答えるのが正解だろうか、と。
※ダリアを贈る意味は昔の貴族間の暗喩みたいなもので、マーサ達は知りません。
知っていたら、ド直球なそれにマーサは卒倒していたと思います。
そして、多分ジェリーは大笑いしたと思います。
流した前髪にサイドはぴちりと撫でつけて、形の良い耳がよく映える。
花を一輪、華やかなそれはやはりアイザックに似合うとリュカは思った。
けれど、顔色があまり良くないように思う。
忙しいのかもしれない。
それでも顔を見せてくれるなんていい人だなぁ、とリュカは思った。
「リュカ様。お話がございます」
「なに?」
半ば強制的にサロンまで連れて行かれたリュカはなにがなんだかわからない。
座らされて三人から見下ろされる。
おかしいな主人は僕なのに、とリュカは見上げた。
「マーサは昨日、下手な小細工はしてはいけませんと言いました」
「下手な小細工ってなに?」
「公爵様に花を贈ることです。なんの前触れもなくそんなことをされてはお困りになるでしょう?まずは、きちんとリュカの様の思いを公爵様にお告げになるのです」
「でも、グレイはマーサに花を贈ったんでしょう?だから、僕も契約満了の時に大きな花束を贈ろうと思って」
ジェリーはひゃひゃひゃと腹を抱えて笑った。
それを見てリュカもえへへと笑った。
「笑ってる場合ではございません!」
「リュカ様。私はマーサにこれから毎日、『好きだ』という気持ちを込めて花を贈ると最初に言ったのですよ?」
珍しくグレイが語り、マーサはその隣でうんうんと頷いている。
「えー、聞いてないよ。そんなの僕が言ったら残りの期間がなんだか気まずいじゃないか」
ぶぅぶぅとぶうたれるリュカに三人同時に息を吐いた。
どう見ても公爵様はリュカが好きじゃないか、と。
「まぁまぁ、父さんも母さんもここはリュカ様を見守ろうよ。リュカ様が初めて誰かを好きになったんだから。あれこれ考える片想いの時期もまた楽しいもんだよ」
「ジェリー・・・」
リュカの瞳はキラキラとジェリーを見つめ、尊敬の念が浮かんでいる。
ジェリーも優しく微笑み返す、もうリュカを止められない。
だったら、面白い方がいい。
リュカはジェリーとピコピコを連れて庭を散歩する。
離れ家だけでなく公爵家の広い庭にも足を伸ばしてカポカポと歩く。
ピコピコは公爵家の使用人にも人気で、首を飾るリボンもたくさん持っている。
公爵家の侍女の鮮やかな刺繍も入ったそれらは、とても綺麗だ。
歯を剥き出してブルルと鼻を鳴らすのに皆が夢中になっている。
「ジェリー、片想いが楽しいって本当?」
「あぁ」
「自分を好きじゃないって寂しかったり、悲しかったりするもんじゃないの?」
「まぁ、そういうのもあるけど・・・頭に色んなこと思い描くのは楽しいもんだ」
「例えばどんな?」
「手を繋いで歩きたいなぁとか、流行りの甘味を二人で食べたいなぁとか、夜にベッドで明日も会えるといいな、とか」
公爵家の侍女にブラシをかけてもらうピコピコを眺めながら話している。
ふんふんと書き留めていたリュカは思う。
それもう全部やってるな、と。
夜にベッドのくだりは、発情した時を思い出してボンっと顔に血が昇ってしまった。
なんだかとても恥ずかしい。
全部やってしまった、その次に想像するのはなんだろう。
城がある方向に目をやって、早く帰ってこないかなとリュカは思った。
人には誰にでも必ず訪れるささやかな、そして痛烈な瞬間があるとリュカは思う。
この機を逃してはならない、離してはならない。
そんな瞬間が。
それを見逃してはならないのだ。
「好きだ」
その一言は至って単純で飾り気がなく、それでいて心を打つ。
それがリュカの思う好きと同じかどうかなんてわからない。
わからないけれど、好きと言われて嬉しく思ったのなら返事はもう一つしかない。
「僕も好き!」
だって、好きなのだから。
好きだ、と言ってくれたのだから。
衝動のままにリュカはアイザックの胸に飛び込んだ。
受け止めてくれたアイザックの胸はやっぱり広くて、体全体で強く抱きしめる。
ダリアがクシャと潰れてしまった。
背中に回るアイザックの手は大きくて温かくて、耳に聞こえる心音はとても速い。
リュカ、と聞こえる声は耳触りがいい。
見上げるとすぐ傍にアイザックの顔があった。
心なしか、頬が染まっているような気がする。
リュカの染まった頬にアイザックの大きな手のひらが触れる。
「アイクはもう花はいりませんか?」
潰れてしまったダリアに触れてリュカはそう問うた。
ググッと息を詰まらせたアイザックは考える。
なんと答えるのが正解だろうか、と。
※ダリアを贈る意味は昔の貴族間の暗喩みたいなもので、マーサ達は知りません。
知っていたら、ド直球なそれにマーサは卒倒していたと思います。
そして、多分ジェリーは大笑いしたと思います。
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