届かぬ温もり

HARUKA

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桜子の告白を受けて、私は言葉を発することができなかった。

心の中で何かが折れる音がした。彼女の言葉が現実に変わった瞬間、私の中でずっと薄々感じていた不安が確信に変わった。

でも、それでも私はまだ玲央を信じたかった。彼の言葉を信じたかった。

彼が私に言ったこと。

桜子にはもう過去しかないと。でも、その言葉にはもう何の重みも感じられなかった。

その夜、玲央と二人きりの静かな時間が流れていた。桜子のことを気にしないふりをして、私は普段通りに会話を続けようとした。

だけど、玲央の顔に何か隠しきれないものがあることに気づき、私は思わず問いかけた。

「玲央、桜子と過去に何かあったんでしょ?」

その瞬間、玲央の表情が一瞬硬直した。私の目を避けるように、彼は視線をそらした。

「凛花…」

その言葉だけで、私の中で全てが明確になった。玲央が私に隠していたこと、そして桜子が来た理由。

それは全て、私に向けた気遣いではなく、何かもっと深いところで繋がっていたからだ。

「玲央、正直に言って。桜子のこと、まだ気になるんでしょ?」

玲央はため息をつき、少し黙った後、ついに口を開いた。

「うん、過去のことだと言っても、どうしても引っかかる部分があるんだ。桜子との間に何かを終わらせなきゃいけなかったのに、それをずっと放置してきたから、今こうして彼女が近くにいることで、俺はその感情と向き合っている。」

その言葉が、私を打ち砕いた。彼がどれだけ桜子との関係を引きずっていたのか、私は知らなかった。

今まで信じていた彼との絆が、こんな形で揺らぐなんて。

「じゃあ、私は…ただの『今』だけを見ていたってこと?」

私は目の前の玲央を見つめながら、震えた声で言った。

玲央は言葉を詰まらせた。目を閉じ、どう返事をすればいいのか分からない様子だった。それが私をさらに追い詰めた。

その時、ドアをノックする音が聞こえた。私たちの間に微妙な空気が流れる中、桜子が現れた。

「失礼します、玲央さん、凛花さん。少しお話があるのですが。」

その瞬間、私は彼女がどんなつもりでこの場に来たのか、知りたくてたまらなかった。

桜子が私に言った「忘れられないかもしれない」という言葉が、再び耳にこだました。

「桜子、何か用事?」

玲央が少しぎこちない笑顔を作りながら尋ねた。

桜子は少し躊躇いながらも、私を一瞥した後、真剣な表情で話し始めた。

「玲央さんと私は過去のことを話していましたが、凛花さんにも話しておいた方がいいと思いまして。」

その言葉に私は驚いた。彼女は何を話すつもりなのだろうか?

桜子は一度深呼吸してから続けた。

「実は、玲央さんと私、昔お互いに約束したことがありました。あれは若い頃のことだけど、私はその約束が今でも心に残っている。だから、今の状態が気になるんです。私、過去の未解決のことにこだわりすぎて、これからどうしていくべきか、凛花さんにも知っておいてほしいと思ったんです。」

私は桜子の目をじっと見つめた。彼女が言いたいことは何だろう?それとも、今になってその思いを私にぶつけようとしているのか?

その時、玲央が立ち上がり、私の前に立った。

「凛花、これは俺たちの問題だ。桜子も過去を引きずっているだけだし、今はそれをどうにかしたいと思っている。」

その言葉が私をもっと混乱させた。玲央の言葉が、桜子の告白を否定しようとしている。でも、私はもうそれを信じられなかった。

「じゃあ、私が今後どうすればいいの?この関係にどう向き合えばいいの?」

その問いが空気を重くし、何もかもが崩れていくのを感じた。

桜子は一歩前に出て、

「凛花さん、私も決して悪気があるわけではない。ただ、玲央さんには私の気持ちも伝えたかった。それだけです。」と、静かな声で言った。

その言葉に、私の胸の中で何かが弾けた。私たちの関係は、もう戻ることができないのだろうか。

その思いが胸を締め付けて、私はただその場に立ち尽くした。
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