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その人は兄…のはず

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「おかえりなさいませ、リオ様」
「た、ただいま…」

アルは学園の生徒会長でもある。
その為か忙しく、早々に去って行ってしまった。
本当に、俺に会いに来てくれただけだったんだ…って考えると、嬉しいと思わなくもなかったり…いや嬉しいです、はい。

そして今、ようやく辿り着いた我が家…であろうウィルアス邸。
まず出迎えられた使用人に圧倒された。
というか、俺元は一般人なんだからこんな事慣れてないでしょ普通!
使用人の数はそんなに多くはないけど、居る方なんじゃないかな…?
もう家というかやしきだろこれ。

とりあえず、部屋はどこだ?

…と、周りをキョロキョロ見渡している内に、突然一室の前で止まった。
そうか、ここがリオの部屋なのか。
きっとここに来れたのは、体に染み付いた習慣からなのだろう。
扉を開くとこれまた広い部屋が姿を現した。

「…住んでたアパートの壁、全部ぶち抜いても足りなくない…?」

あまりの広さにまた戸惑うし、普段生活していた部屋より明らかに広い空間…落ち着かない…。

とりあえずバッグを机の上に置く。
机も広い。勉強する為より、ゲームする為にモニター三つ置いてもいいくらい広い。

…そうだ、ここではゲーム出来ないんだった!

BLも摂取出来ない、ゲームも出来ないなんて…不便過ぎる。
ああでも、流石は元々BLゲームなだけある。
何人かカップルが居て、人目も憚らずイチャついてた。いいぞもっとやれ。

現実逃避に勤しんでいると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。

「リオ、帰ってきてたの?」

……誰だろう?
多分口振りからして使用人ではなく家族っぽい。
これまたどこかで聞いたような…。

「あ、えっと…、今帰ってきたとこだよ」
「開けるよ」

そう言うとこちらが発言する前に扉が開かれた。
そして早足で近付いて来たと思ったら、ぎゅっと抱き締められて…、…え?なんで?

「もう、帰ってきたらおかえりのハグは絶対って言ったじゃないか!お兄ちゃん待ってたんだぞ!」
「え!?ご、ごめん…?」

そっと抱き締め返すと、満足気な相手の顔が見れた。
…見た事ある。あれ、お兄ちゃんって事は、リオの兄ちゃん?ブラコン設定のキャラなんて居たっけ?
でもモブにしては顔が整いすぎてる。
黒い髪は腰までありそうな程長く後ろで結んでいて、瞳は俺と同じエメラルドグリーン。
見た事ある配色だと思ったけどこの人か。

「レオン様。邸内を走るのは危ないのでお止め下さいと何度も…」
「いいじゃないか、他人の家じゃあるまいし。それに仕方ないだろ?かわいい弟の顔が早く見たかったんだからね~」

そこにはレオンと呼ばれた男と、レオンとあまり歳の変わらなさそうな、深い碧の髪と瞳の男が立っていた。
多分従者とかそういう関係だろう。

…、ん?レオン?
どこかで聞いたような…。

「レオン…レオン・ウィルアス…。…!?」

思い出した!
レオン・ウィルアス。
学園の講師をしていて、主人公に魔法の特訓をしていくうちに二人の間に絆が芽生えていく…。
そう、レオンも攻略対象なのだ。
でも、おかしい。弟がいるなんて設定聞いてないぞ…?
やっぱり、俺が知ってるゲームの中とは少し違うみたいだ。

それにしても…。

「今日も可愛かったよ!ちゃんと俺の授業も聞いてくれてたし、実技もセンスが良い!やっぱり俺の可愛い弟は天才だな~」
「え、えっと…苦しい…っ」

目一杯頬擦りしてくるこの人が、本当にあのクールキャラ…レオン・ウィルアスなのか…?
弟バカが過ぎる…、というかブラコンだなんて聞いてない!

「あの、そろそろ本当に苦しいんですけど…」
「ん?どうした、リオ。いつもしてる事だろ?」

いつもこんなことしてんの!?
リオは…ええと、リオは…、こうだ!

「た、ただいま、レオ兄さん」

へら、と記憶のまま笑えば、レオンは抱き締める力を強くしてきた。
いやほんとマジで、そろそろ息が苦しいんですけど!



「やっぱり学園に入れたのは間違いだっかな…、俺が専属家庭教師になって全部教えてやればリオは…」


「…、え、?」
「あ、いや、何でもないよ、リオ」

そう言って額にキスをして、レオンはこれまた満足そうな顔で部屋から出て行った。

今…確かに何か言いかけてたよな…?

記憶の中のレオンルートは、案外早くクリア出来たルートだし、レオンの人格に何ら問題はなかった。

でもあんな一面、知らない。


どう考えても弟に向ける感情じゃなかった。


心臓がバクバク煩い。

「ただの兄貴じゃないのかよ…」

分からない。
俺はアル以外から向けられる初めての感情に、動けなくなってしまっていた。
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