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本編
29 嫉妬と喧嘩と足ビンタ ※R18 やや無理矢理表現&どS表現あり
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スイートルームに到着した瞬間、スイはエミリオにいきなりお姫様抱っこ状態にされ、抗議の声も聞かないエミリオにそのまま客室露天風呂の脱衣所まで連行された。
煩わし気にスイの服を脱がして、自分も躊躇いもなく真っ裸になると、再びスイを抱き上げて洗い場まで連れて行き、浴室椅子に座らせた。
「エ、エミさん」
「……洗うぞ」
「へ、ぇええっ、ちょ」
石鹸を泡立てた泡を手にとり、スイの背後に回ってから脇から腕を入れて彼女の体を洗い始める。
昨日スイがエミリオの身体を洗った時のことを思い出したが、その時のスイの手つきよりもっと淫らに胸や腰やらを這いまわる。
「あっ、あぁっ……や、エミさん、なんでぇ……?」
エミリオはスイの胸を泡だらけの手で揉みしだき、乳首を指でつまんでぐりぐりと刺激を与えてきて、まだ泡のついていないスイの首筋を唇と舌で愛撫してきた。うなじに舌を這わせてきた感触に「うひゃっ」と色気のない声を出してしまったものの、エミリオの愛撫はそれでも一向に止まらなかった。
「あぁっ、ん、あぁん、は、はぁ、えみ、さ……」
まだ会って二日目で、そんなに回数こなしたわけではないけれど、彼からの愛撫はたしかに少し強引ではあると思う。でもそれでも今まではもう少しスイに対するいたわりのようなものがあって、多少強引でもそこまで嫌な気持ちにはならなかった。でも今日のエミリオは……。
――な、なんか、なんかヤダ! 怖いよエミさん! 気持ちいいけど、これやだ! なんか種類が違うの!
それでも身体は意思とは逆にきちんと反応し、息も絶え絶えに生理的な涙を流しながら、スイは肩口にあるエミリオの顔にそっと手をやって宥めるように撫でた。すると、それまで無言で八つ当たりのように強引に愛撫してきたエミリオが、泡だらけのスイの身体を後ろから抱きすくめる。
一度スイの耳元ではあ、と色めいたため息をついてから、押し殺すような声で呟いた。
「糞……なんだあいつ……! 馴れ馴れしく触れやがって……!」
「ん、……え? なになに?」
「さっきの、あいつ……!」
エミリオの憎々し気な言葉に、スイは先ほどのナンパ男のことかと思い当たる。思えばあのチャラ男を追い払ったあたりからエミリオの様子がおかしい。
昨日からこうしてスイに触れあっていると発情状態になるのは変わらないけれど、今のエミリオはそれと同時に止むに止まれぬような焦りとか悔しさとかそういったものが感じられる。
後ろからスイを抱きしめつつ、乳房の片方を節くれだった指でむにむにと揉み始めるエミリオに翻弄され、スイは口に手を当てながら「あっ、あっ」と小刻みに震えて悶えた。
「あん……あのチャラい奴……? あの人が、どうかしたの……あ、あん、エミさ……」
「スイに、色目を使った……! しつこく付きまといやがって、しかも汚い手で触れた……! だから、洗わないと……!」
「……ぁあっ! やあっ、そんな」
「スイだって、すぐに逃げて俺のところ……来ればよかったのに、なんで、あんな男にされるがままにしたりして……!」
「そ、そんなことしてないよ……!」
抱きすくめていた泡だらけのエミリオの手がするりと下降していき、臍を通って太ももの間に侵入してきた。エミリオの這いまわる手に反応して、そこがお湯なのか汗なのか愛液なのかわからないもので既に濡れている。
「はっ、あっ、あぅ、だめ、クリやばいの、あぁ、あ……!」
「スイ……!」
片腕でスイを後ろから拘束してその手で片方の乳房を揉みしだきながら、もう一方の手でスイのクリトリスをこれでもかとぐりぐりと刺激してくる。そのうちクリトリスを人差し指と親指でキュッとつまみあげられて、スイは背筋がゾクゾクしてきて小刻みに震えだした。
「ひゃ、あ、あ、あ……っ! ふぁ、や、やば、これやば、あん、だめぇっ」
「……なあ、どうしてすぐに俺のところに来なかった?」
「え、なに?」
「ナンパされていい気分になったとか? 確かにそこそこ顔はいい男だったもんなあ」
「ちょ……何言って」
責めるように言うエミリオの口調に、スイはそれまで快感を拾って酩酊したような表情から一気に目を開いて、まさに信じられないといった顔をしてエミリオを見た。
「なんならスイのほうから誘うような目であいつを見たんじゃないのか? 『イケメン』とやらに目がないんだもんなあ、スイ?」
エミリオの口から出た言葉と同時に彼の泡だらけの指がついにスイの膣孔ににゅるりと入り込んだ瞬間、びりっという快感には程遠い痛みを感じて思わず大きく「痛い!」と叫んだ。
悲痛じみた声にはっと我に返ったエミリオが一瞬抱きすくめた腕の力を抜いたのを見逃さず、スイはその腕をぐいっと払いのけて、浴槽から汲んだ洗面器の湯をざっと股間に掛けて流した。
「泡だらけの指入れないでよ! 痛いんだから!」
「……っ、す、すまない……!」
「…………」
「ス、スイ」
もう知らんとばかりにエミリオの拘束から立ち上がったスイは、今一度湯桶にお湯をすくってざっとかけ湯をしてから、茫然とするエミリオを残してタオルを持ってそのまま一人で浴室を出た。
バスタオルでざっと身体と髪を拭いて、備え付けのバスローブを身に着けると、スイートルームのリビングスペースのソファーにどかっと座り込んだ。
風呂でのエミリオの言いがかりにムカムカして、あれ以上黙って聞いていたら十も二十も言い返してしまいそうで、思わず一人で出てきてしまった。
――何だよ。あたしは被害者だぞ。何だよあの言い方。痴漢されたほうにも問題があったんじゃないのかっていう悪徳警察みたいな言い方しやがって。ふざけんな!
弱めの冷却魔法が施されているらしいワインクーラーには、まだ溶けていない氷と、ウェルカムドリンクだったスパークリングワインがまだ残っていて、備え付けのフルートグラスを取ってそれに注いでから、スイはぐいっとあおった。いらいらと頭に血が上りすぎてクールダウンが必要だった。
一杯目を一息に飲んで、もう一杯注いで今度はゆっくりちびちび飲んでいると、露天風呂に続く脱衣所のドアが開いて、バスローブを着こんだエミリオがスイを追いかけて風呂から上がってきたので、スイはぷいと横を向いた。
「ス、スイ」
「…………」
知らん顔してエミリオの声も無視してスパークリングワインを飲んでいると、エミリオがばつの悪そうな顔をしてスイの隣に座ってきたので、彼が座った瞬間に立ち上がって別の一人用ソファーに腰かけた。
躱されたショックで茫然としているエミリオを横目にちらと見てから、何事もなかったかのようにフルートグラスを傾けるスイ。
さすがにスイの怒り心頭状態をひしひしと感じ取ったらしいエミリオは、しばらく俯いていたものの、無言に耐えきれなくなったのか、再び立ち上がってスイのいる一人用ソファーの足元に跪いた。
「スイ、ごめん」
「……」
「その、言い掛かりみたいなこと言って、一人よがりなことして痛くさせたし、本当に、ごめん……」
彼女の膝に置かれた手を取ろうとしたエミリオの手をパンと払って、「触らないで」と冷たく言い放つスイは、先ほどからエミリオの顔を見ようともしない。
そのスイの態度にすっかり落ち込んだエミリオは、主人に捨てられた犬みたいにしょんぼりと俯いてしまう。今エミリオの頭に動物の耳があったなら、きっとすっかり垂れ下がってるだろうし、くぅ~んと悲しそうな鳴き声が聞こえてきそうだとスイはその様子を横目でちらと見てからすぐに目を反らす。
言いがかりをつけられてそう簡単に許してたまるかと、スイはまだ怒りが冷めやらない。エミリオのことは好きだけど、好きだからこそこういうのは簡単には許せないのだ。
あの言い方はひどかった。スイがあのナンパが内心嬉しかったんじゃないかというような。あのような物言いをするということは、スイはエミリオに全然信用されていないということになるから。
「……スイ、愚かなことを言った。許して……ほしい」
「知らんがな」
「……嫉妬、したんだ。あの男に、スイを取られるかと思って……」
「どうでもいいよそんなの」
「スイ……反省している。どうか許してほしい。俺は……スイに嫌われたらどうしていいかわからない……」
「…………」
「どうしたら……許してくれる? なんでもするから……」
スイは哀願するエミリオの目じりに悲痛な涙が浮かんでいるのを見て、一瞬絆されそうになったが、ふいと目を反らして心を鬼にする。
飲みかけのフルートグラスをテーブルに置いて、腕汲みをしてエミリオをジト目で睨みつけた。
「……もう黙ってくんない?」
「スイ、でも、俺、は……!」
「これ以上エミさんの弁明聞いてても引っ叩きたくなるだけだし」
「……引っ叩いて、それでスイの気が済むなら」
「はあ?」
「いくらでも、引っ叩いてくれていい」
へえ。ああ、そう。そういえばちょっとMっ気がある人だったもんなあと思い返す。ベッドでスイにいいようにされても素直に気持ちいいと表現する人だし、スイが罵ってもゾクゾクするとか言っていたので、もしかしたら引っ叩く行為なんてエミリオにはご褒美でしかないかもしれない。
スイはこの男がどれほど屈辱に強いか、その忍耐力がどれほどのものか試したくなった。ただ引っ叩くだけなんて一瞬だし嬉しいと思い込んでいるなら、その我慢がいつまで続くというのか、それが見てみたい。
「へえ? 言いきったねエミさん。じゃあほんとに引っ叩くけど」
「……ん」
エミリオは覚悟したように目を瞑って頬を差し出した。その姿を見て「そうじゃないよエミさん」と、さっきまでぶすくれた表情とは違って張り付けたような微笑みを浮かべてスイは言う。
スイの声におずおずと目を開けたエミリオ。
スイがエミリオの手をとって彼を立ち上がらせ、ベッドに誘導し始めたのを見て、エミリオはほう、と一つ安堵のため息を漏らした。
繋いだスイの手つきがとても優しくて、ほんのり笑いながらエミリオの顔を見つつベッドに促す彼女に、少し許してもらえたのかと思ったのだ。ベッドに誘っているのだから、引っ叩くなんていうのも冗談だったのだと。
まさか、こんなことになるとは思わなかったと、彼はのちに語る。
「横になって、エミさん」
「あ、ああ」
言われた通りにベッドに仰向けに横たわる。
「膝は立ててね。足は閉じて」
「こ、こう、かな」
「うんうん。それじゃあ、動かないでね」
「ああ……」
何が始まるのかと内心わくわくとしたエミリオだったが、スイがおもむろにエミリオの腹の上に登ってきて、いわゆる「体育座り」のような座り方でエミリオの胸に足を置いたのを見て、頭の中が「?」でいっぱいになった。いわゆる「人間椅子」状態である。
「エミさん」
「スイ?」
「エミさんが言ったんだからね。何でもするって。引っ叩いていいって」
「……あ、ああ……言った」
「ふうん。じゃあ遠慮なく」
スイは一度エミリオにニッコリ笑うと、裸足の足の裏でエミリオの両頬を包み、目を驚愕に見開いたエミリオの頬を、片方の足の裏で思いっきり引っ叩いたのだ。
すごい小気味よい音が出た。いわゆる「足ビンタ」であった。
煩わし気にスイの服を脱がして、自分も躊躇いもなく真っ裸になると、再びスイを抱き上げて洗い場まで連れて行き、浴室椅子に座らせた。
「エ、エミさん」
「……洗うぞ」
「へ、ぇええっ、ちょ」
石鹸を泡立てた泡を手にとり、スイの背後に回ってから脇から腕を入れて彼女の体を洗い始める。
昨日スイがエミリオの身体を洗った時のことを思い出したが、その時のスイの手つきよりもっと淫らに胸や腰やらを這いまわる。
「あっ、あぁっ……や、エミさん、なんでぇ……?」
エミリオはスイの胸を泡だらけの手で揉みしだき、乳首を指でつまんでぐりぐりと刺激を与えてきて、まだ泡のついていないスイの首筋を唇と舌で愛撫してきた。うなじに舌を這わせてきた感触に「うひゃっ」と色気のない声を出してしまったものの、エミリオの愛撫はそれでも一向に止まらなかった。
「あぁっ、ん、あぁん、は、はぁ、えみ、さ……」
まだ会って二日目で、そんなに回数こなしたわけではないけれど、彼からの愛撫はたしかに少し強引ではあると思う。でもそれでも今まではもう少しスイに対するいたわりのようなものがあって、多少強引でもそこまで嫌な気持ちにはならなかった。でも今日のエミリオは……。
――な、なんか、なんかヤダ! 怖いよエミさん! 気持ちいいけど、これやだ! なんか種類が違うの!
それでも身体は意思とは逆にきちんと反応し、息も絶え絶えに生理的な涙を流しながら、スイは肩口にあるエミリオの顔にそっと手をやって宥めるように撫でた。すると、それまで無言で八つ当たりのように強引に愛撫してきたエミリオが、泡だらけのスイの身体を後ろから抱きすくめる。
一度スイの耳元ではあ、と色めいたため息をついてから、押し殺すような声で呟いた。
「糞……なんだあいつ……! 馴れ馴れしく触れやがって……!」
「ん、……え? なになに?」
「さっきの、あいつ……!」
エミリオの憎々し気な言葉に、スイは先ほどのナンパ男のことかと思い当たる。思えばあのチャラ男を追い払ったあたりからエミリオの様子がおかしい。
昨日からこうしてスイに触れあっていると発情状態になるのは変わらないけれど、今のエミリオはそれと同時に止むに止まれぬような焦りとか悔しさとかそういったものが感じられる。
後ろからスイを抱きしめつつ、乳房の片方を節くれだった指でむにむにと揉み始めるエミリオに翻弄され、スイは口に手を当てながら「あっ、あっ」と小刻みに震えて悶えた。
「あん……あのチャラい奴……? あの人が、どうかしたの……あ、あん、エミさ……」
「スイに、色目を使った……! しつこく付きまといやがって、しかも汚い手で触れた……! だから、洗わないと……!」
「……ぁあっ! やあっ、そんな」
「スイだって、すぐに逃げて俺のところ……来ればよかったのに、なんで、あんな男にされるがままにしたりして……!」
「そ、そんなことしてないよ……!」
抱きすくめていた泡だらけのエミリオの手がするりと下降していき、臍を通って太ももの間に侵入してきた。エミリオの這いまわる手に反応して、そこがお湯なのか汗なのか愛液なのかわからないもので既に濡れている。
「はっ、あっ、あぅ、だめ、クリやばいの、あぁ、あ……!」
「スイ……!」
片腕でスイを後ろから拘束してその手で片方の乳房を揉みしだきながら、もう一方の手でスイのクリトリスをこれでもかとぐりぐりと刺激してくる。そのうちクリトリスを人差し指と親指でキュッとつまみあげられて、スイは背筋がゾクゾクしてきて小刻みに震えだした。
「ひゃ、あ、あ、あ……っ! ふぁ、や、やば、これやば、あん、だめぇっ」
「……なあ、どうしてすぐに俺のところに来なかった?」
「え、なに?」
「ナンパされていい気分になったとか? 確かにそこそこ顔はいい男だったもんなあ」
「ちょ……何言って」
責めるように言うエミリオの口調に、スイはそれまで快感を拾って酩酊したような表情から一気に目を開いて、まさに信じられないといった顔をしてエミリオを見た。
「なんならスイのほうから誘うような目であいつを見たんじゃないのか? 『イケメン』とやらに目がないんだもんなあ、スイ?」
エミリオの口から出た言葉と同時に彼の泡だらけの指がついにスイの膣孔ににゅるりと入り込んだ瞬間、びりっという快感には程遠い痛みを感じて思わず大きく「痛い!」と叫んだ。
悲痛じみた声にはっと我に返ったエミリオが一瞬抱きすくめた腕の力を抜いたのを見逃さず、スイはその腕をぐいっと払いのけて、浴槽から汲んだ洗面器の湯をざっと股間に掛けて流した。
「泡だらけの指入れないでよ! 痛いんだから!」
「……っ、す、すまない……!」
「…………」
「ス、スイ」
もう知らんとばかりにエミリオの拘束から立ち上がったスイは、今一度湯桶にお湯をすくってざっとかけ湯をしてから、茫然とするエミリオを残してタオルを持ってそのまま一人で浴室を出た。
バスタオルでざっと身体と髪を拭いて、備え付けのバスローブを身に着けると、スイートルームのリビングスペースのソファーにどかっと座り込んだ。
風呂でのエミリオの言いがかりにムカムカして、あれ以上黙って聞いていたら十も二十も言い返してしまいそうで、思わず一人で出てきてしまった。
――何だよ。あたしは被害者だぞ。何だよあの言い方。痴漢されたほうにも問題があったんじゃないのかっていう悪徳警察みたいな言い方しやがって。ふざけんな!
弱めの冷却魔法が施されているらしいワインクーラーには、まだ溶けていない氷と、ウェルカムドリンクだったスパークリングワインがまだ残っていて、備え付けのフルートグラスを取ってそれに注いでから、スイはぐいっとあおった。いらいらと頭に血が上りすぎてクールダウンが必要だった。
一杯目を一息に飲んで、もう一杯注いで今度はゆっくりちびちび飲んでいると、露天風呂に続く脱衣所のドアが開いて、バスローブを着こんだエミリオがスイを追いかけて風呂から上がってきたので、スイはぷいと横を向いた。
「ス、スイ」
「…………」
知らん顔してエミリオの声も無視してスパークリングワインを飲んでいると、エミリオがばつの悪そうな顔をしてスイの隣に座ってきたので、彼が座った瞬間に立ち上がって別の一人用ソファーに腰かけた。
躱されたショックで茫然としているエミリオを横目にちらと見てから、何事もなかったかのようにフルートグラスを傾けるスイ。
さすがにスイの怒り心頭状態をひしひしと感じ取ったらしいエミリオは、しばらく俯いていたものの、無言に耐えきれなくなったのか、再び立ち上がってスイのいる一人用ソファーの足元に跪いた。
「スイ、ごめん」
「……」
「その、言い掛かりみたいなこと言って、一人よがりなことして痛くさせたし、本当に、ごめん……」
彼女の膝に置かれた手を取ろうとしたエミリオの手をパンと払って、「触らないで」と冷たく言い放つスイは、先ほどからエミリオの顔を見ようともしない。
そのスイの態度にすっかり落ち込んだエミリオは、主人に捨てられた犬みたいにしょんぼりと俯いてしまう。今エミリオの頭に動物の耳があったなら、きっとすっかり垂れ下がってるだろうし、くぅ~んと悲しそうな鳴き声が聞こえてきそうだとスイはその様子を横目でちらと見てからすぐに目を反らす。
言いがかりをつけられてそう簡単に許してたまるかと、スイはまだ怒りが冷めやらない。エミリオのことは好きだけど、好きだからこそこういうのは簡単には許せないのだ。
あの言い方はひどかった。スイがあのナンパが内心嬉しかったんじゃないかというような。あのような物言いをするということは、スイはエミリオに全然信用されていないということになるから。
「……スイ、愚かなことを言った。許して……ほしい」
「知らんがな」
「……嫉妬、したんだ。あの男に、スイを取られるかと思って……」
「どうでもいいよそんなの」
「スイ……反省している。どうか許してほしい。俺は……スイに嫌われたらどうしていいかわからない……」
「…………」
「どうしたら……許してくれる? なんでもするから……」
スイは哀願するエミリオの目じりに悲痛な涙が浮かんでいるのを見て、一瞬絆されそうになったが、ふいと目を反らして心を鬼にする。
飲みかけのフルートグラスをテーブルに置いて、腕汲みをしてエミリオをジト目で睨みつけた。
「……もう黙ってくんない?」
「スイ、でも、俺、は……!」
「これ以上エミさんの弁明聞いてても引っ叩きたくなるだけだし」
「……引っ叩いて、それでスイの気が済むなら」
「はあ?」
「いくらでも、引っ叩いてくれていい」
へえ。ああ、そう。そういえばちょっとMっ気がある人だったもんなあと思い返す。ベッドでスイにいいようにされても素直に気持ちいいと表現する人だし、スイが罵ってもゾクゾクするとか言っていたので、もしかしたら引っ叩く行為なんてエミリオにはご褒美でしかないかもしれない。
スイはこの男がどれほど屈辱に強いか、その忍耐力がどれほどのものか試したくなった。ただ引っ叩くだけなんて一瞬だし嬉しいと思い込んでいるなら、その我慢がいつまで続くというのか、それが見てみたい。
「へえ? 言いきったねエミさん。じゃあほんとに引っ叩くけど」
「……ん」
エミリオは覚悟したように目を瞑って頬を差し出した。その姿を見て「そうじゃないよエミさん」と、さっきまでぶすくれた表情とは違って張り付けたような微笑みを浮かべてスイは言う。
スイの声におずおずと目を開けたエミリオ。
スイがエミリオの手をとって彼を立ち上がらせ、ベッドに誘導し始めたのを見て、エミリオはほう、と一つ安堵のため息を漏らした。
繋いだスイの手つきがとても優しくて、ほんのり笑いながらエミリオの顔を見つつベッドに促す彼女に、少し許してもらえたのかと思ったのだ。ベッドに誘っているのだから、引っ叩くなんていうのも冗談だったのだと。
まさか、こんなことになるとは思わなかったと、彼はのちに語る。
「横になって、エミさん」
「あ、ああ」
言われた通りにベッドに仰向けに横たわる。
「膝は立ててね。足は閉じて」
「こ、こう、かな」
「うんうん。それじゃあ、動かないでね」
「ああ……」
何が始まるのかと内心わくわくとしたエミリオだったが、スイがおもむろにエミリオの腹の上に登ってきて、いわゆる「体育座り」のような座り方でエミリオの胸に足を置いたのを見て、頭の中が「?」でいっぱいになった。いわゆる「人間椅子」状態である。
「エミさん」
「スイ?」
「エミさんが言ったんだからね。何でもするって。引っ叩いていいって」
「……あ、ああ……言った」
「ふうん。じゃあ遠慮なく」
スイは一度エミリオにニッコリ笑うと、裸足の足の裏でエミリオの両頬を包み、目を驚愕に見開いたエミリオの頬を、片方の足の裏で思いっきり引っ叩いたのだ。
すごい小気味よい音が出た。いわゆる「足ビンタ」であった。
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