神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

お彼岸

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 西にある大川の土手が真っ赤な彼岸花ひがんばなおおわれました。

ゆかこさんはひんやりしている岩の上に座って、見事に咲きそろった花を眺めています。

「赤い灯篭とうろうだわね。」

そうですね、ゆかこさん。燃えるような秋への道標みちしるべですね。

秋が本格的に始まりました。


西の空からまた黒い雲が出てきました。長く続く雨の季節です。

先日の台風でたっぷりと水を含んだ黒い大地に、紫色の萩の花びらが散っています。

グゥーーーーンガタタンガタタンガタタン 

鉄橋を電車が走って行く音がします。

暗くなってきた町から、賑やかな夕餉ゆうげの音が聞こえてきました。

どこかから犬の鳴き声も聞こえてきましたよ。

「どうしてだろ、秋の町は寂しいわ。」


ゆかこさんは寒くなってきた身体に、黄昏色たそがれいろのカーディガンを羽織りました。

「もう帰ろうよ。」
「さよなら言って。」
「バイバイ。またね。」
「ありがとう、バイバァーイ。」

山の下から別れの声が聞こえます。

お母さんが子ども達を迎えに来たのでしょうか。


バタンバタンとドアを閉める音がして
車の音が遠ざかって行きます。

リリリ・・・リリリッ・・・リリリリリ

虫の声が大きくなってきました。

「今日は何を食べようかしら。」

レンコンがありましたよ。筑前煮ちくぜんになんかはどうでしょう。

「いいわね。ゴボウにコンニャク、ニンジン、鶏肉、インゲンも入れて作りましょう。」


ゆかこさんは少し元気になって社務所に入って行きました。

ガサガサガサ ジャージャブジャブ
土のついたゴボウはしっかり洗わないとね。

トントントン トトトトトッ
まな板が軽快な音を刻みます。

ジャッジャッジャ コトコトコト
すっかり日が落ちた外に、煮物のいい香りが漂ってきました。


リリリリリッ リリーンリリーン スイッリーリーリー

虫たちもゆかこさんのご馳走が食べたいみたいです。

盛んにアピールをしているようですよ。


「今日は清酒がいいわね。」

ゆかこさんが笑いながら一升瓶のフタをポンと開けました。

トクトクトク

「あーーっ、おいしい。」

ほんのりと桜色になったゆかこさんは筑前煮をつまみに秋の夜長を過ごします。


静かな静かな夜に

またシトシトと雨が降り始めました。

雨が秋を連れてくるんですね、ゆかこさん。

菊の固い蕾が空を向きながら、とうとうと夜の雨にうたれていました。
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