神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

金木犀

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 ゆかこさんが洗濯物を干していると、ふっと良い香りがしてきました。

「もしやあの子が花をつけたのかしら?」

くんくんと鼻をうごめかしながら行ってみると、庭の片隅にひっそりと金木犀きんもくせいが花をつけていました。

オレンジ色の星屑のような小さな花が、秋の空気を色づけています。

今年も咲きましたね、ゆかこさん。何とも言えない、いい匂い。


そんな秋の朝に神社の階段を登って来た人がいます。
はち切れそうな笑顔の若い女の人です。

「神様、長い間お世話になりました。」

柏手かしわでを打って、深々とお辞儀をしています。

「いい人とご縁があったのね。向こうに行っても元気でね。」

この娘さんはこれから結婚式のようです。氏子として最後のお参りに来たんですね。


ゆかこさんは金木犀の花を一掴みすると、娘さんの身体にパラパラとふりかけます。

すると娘さんの周りがほのかに輝き始めました。

「礼節を尽くす人には、良い未来が待ってるわ。」

そうですね、ゆかこさん。この人の周りはあたたかい。

幸せの数々が目に見えてくるようです。


娘さんはすぅーと息を吸い込むと、踊るように階段を降りて行きました。

「うーんなんだかいい気分。秋物の服を出してしまいましょう!」

ゆかこさんは押し入れの中から秋色の服を次々と出していきます。

コスモス色のブラウス、空の碧を写したスカート、ススキの穂のカーディガン。

そうして最後に出したのは、紅葉を創り出すブレザーです。


ゆかこさん、紅葉はまだ早いんじゃないかしら。

「あら、北の国では初雪が舞ったのよ。そろそろ山の上から順番に絵を描きましょう。」

ゆかこさんは絵筆を空に向けて、フゥーーと息を吐きました。

赤や黄色の粒々たちが、秋の風に乗って山の方へ運ばれていきました。


粒々たちは町の街路樹をかすかに揺すらせ、香ばしい匂いをさせている稲の田んぼを通り、山のてっぺんにたどり着きました。

ヒヨドリが突つつこうとしていた柿の実も、紅葉の葉も、淡いオレンジに染め上げていきます。

「うん、これでよし。」

金木犀も笑いながらゆかこさんに同意していましたよ。


空の高い所でトンビがクルリと正解のマルを描きました。
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