神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

くちなしの花

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 賑やかな蛙の声が聞こえてきます。

ゲッゲッゲッ、カカカカカッ、グェーグェー。

何をしているのでしょうか?

「ダンスに誘っているのね。ああ、今日はいい月夜。」

そうですね、ゆかこさん。さっきからお月様がこちらを見ているようです。


「あら、夜なのに誰かやって来るわ。」

神社の長い石段を、二人の影が登ってきます。

ぼそぼそとかすかな話し声も聞こえてきます。

柏葉紫陽花かしわばあじさいの長細い真っ白い花が、月の光に照らされて二人の道案内をしています。


「僕は宅急便の仕事は、喜びを運ぶ仕事だと思ってるんだ。だから・・・辞めたくない。」

「そう思ってるのなら・・・続けるべきね。」

どうやら、男の人と女の人のようです。

「・・・でも、君と離れるのは嫌だ。」

「だって・・・。」

「ぼっ、僕と結婚してくれないかっ?!」


静かな夜の境内に、濃厚なくちなしの花の香りが満ちてきました。

・・・どうするんでしょう、ゆかこさん。

「しぃーっ、黙って聞いてましょう。」


「・・・あぁっ、言ってくれないかと思ってた。私、私っ、とっても幸せっ。」

「じゃあ、・・・。」

「ええ。私、貴方と結婚しますっ。結婚したい・・・ありがとう。」

「あーー、良かった! これからもよろしくなっ。」


良かったですね、ゆかこさん。

「うんうん。夜は洗練されてるわ。」

いったいどういう意味なんでしょう。


「さぁっ、優雅な夜はこれからよ。皆でダンスを踊りましょう。」

ゲッゲッゲッ、カカカカカッ、グェーグェー。

静かにしていた蛙たちも、また一斉に鳴きだしました。



境内の二つの影は、優しい月の光に包まれてそっと一つになりました。
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