神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

田植え

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日曜の朝、ゆかこさんの神社に大きな声が響いてきました。

「そこで回って! ここの筋は植えなくていいからー。」

「はい。わかりましたー。」

どうも西側にある田んぼから聞こえてくるようです。


「まぁ素敵。田植えをしているわ。」

そうですね、ゆかこさん。今日はとってもいい天気。
梅雨の晴れ間の抜けるような青空が、二人の男の人を応援しています。

カタキチカタキチ。いまどき珍しい人力の機械を若い男の人が押しています。
その人が通った後にはうねうねとくねった苗の列が続いているのでした。

指示を出しているのは初老の男性です。お父さんかなお義父さんかな。

「お義父さんね。お婿さんの初仕事。心配で仕方がないって言ってるわ。」

ゆかこさんには聞こえるのでしょうか。


「お茶ですよー。」

「はーいっ。」

若奥さんが休憩のお茶を持って来たようですよ。

ぬるぬるした田んぼから、二人の男の人があがってきます。


「そうね、ここではいい風ねっ。」

ゆかこさんが紅葉もみじの若葉を揺らしました。

さわさわと初夏の音を立てて風が山を下って行きます。

水を張った田んぼの水面が、苗と一緒にキラキラまたたきます。

「あー、涼しいな。」

「本当だ。これはいい。」

畦道あぜみちに腰かけた二人が声をあげます。

若奥さんのスカートも、笑顔と一緒にパタパタ揺れます。


「お疲れさま。さぁ、もうひと頑張りね。」

ゆかこさんの声と共に、二人がまた立ち上がりました。

「さぁ、やってしまおうっ。」

「はいっ。」

カタキチカタキチ。ふたたび車輪が回り始めました。


ツバメが空を滑空していきます。

チュイ、チュチュン。電線ではスズメたちも見学しているようですよ。


「うんうん。この町の空は美しいわ。」

そうですね、ゆかこさん。眩しい光が綺麗です。


山の木々が同意するようにさわさわと頷きましたよ。
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