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解釈の一致

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 私の人生最愛の推しキャラクライヴェル様は魔界の第三王子だ。

 原作は漫画で、魔界への生け贄として選ばれたヒロインがクライヴェル様へ頭突きを食らわせることから始まるラブストーリーでアニメにもなっている。

 サラサラの黒髪と流し目が色っぽい切れ長の瞳。白い肌に高い鼻梁、薄い唇。高身長で8等身の彼が身につける衣装は黒の軍服と青いマント。

 そんな彼にソックリの俊樹さんお義兄ちゃん

 最初は原作を忠実に再現した衣装をお義兄ちゃんに着てもらっていたけれど、だんだんそれで満足できなくなり「もし彼が現代日本に転生していたら」というパロディ設定で色んな衣装を着てもらい撮影するようになった。

 学ラン、白衣、執事服、和装、長袍。お義兄ちゃんの新たな魅力を次々に引き出す衣装たち。あぁ、コスプレってなんて素晴らしい文化なんだろう。
 今までの写真宝物を見ながら、次は何を着てもらおうかとネタ帳を前に唸る私にお義兄ちゃんが笑顔でこう言った。


『七海ちゃん、俺ちょうどスーツを新調したからスーツで撮影はどうかな? 撮影場所としてホテルとってさ。連休あるしそのままお泊まりもしようよ。言い出しっぺは俺だからもちろん奢るよ』


 私がその言葉に秒で飛び付いたのは言うまでもない。

 そして今日。昼間は普通に私服でドライブとショッピングをして。夕方からセレブ御用達であるこの高級ホテルにチェックインしている。

 お部屋はなんとスイートルーム。支配人さんがお義父さんの知り合いだから撮影許可もバッチリだ。
 別にSNSに投稿したりやましい撮影をするつもりはないけれど、部屋で義兄の写真を撮りたいとゴツい一眼レフを見せた私に、支配人さんは「本当に仲の良いごきょうだいですね」と微笑ましそうだった。

 夜景の見える窓を背景にスーツ姿のお義兄ちゃんを撮るのも素敵だけれど、やっぱり本格的な撮影は明日の午前中かな。自然光の中で撮りたいし。

 なんてカメラをチェックしていたら着替え終わったお義兄ちゃんがウォークインクローゼットから出てきた。今日泊まるスイートルームはベッドルームとリビングがあってどんなにお安くても一泊100万円は下らないとかなんとか。
 そんな金額を学生の身でポンと出せるお義兄ちゃんはさすが生まれながらのセレブ一族だ。私は未だに昔の金銭感覚が抜けなくていちいち驚いてしまう。

「七海ちゃん、今日は小道具で眼鏡もかけてみようと思うんだけど、スクエア型のメタルフレームで良いかな? もしクライヴェルが眼鏡かけるなら、この形かなって思って」

「さすがおにぃちゃん解釈の一致! 私もクライヴェル様が眼鏡かけるならスクエア型って思って……フゴォォォ?! 身長180センチ越えのナイススタイルが着こなす細身のスリーピーススーツ(チャコールグレー)の破壊力ううぅぅぅ?! しかも普段はラフに下ろしているサラサラの前髪を軽く後ろに流していることでいつもとは違う貴方にドキドキ感まで演出されているだなんてええぇぇ?! 尊い! 尊いよおにぃちゃんっ! ふぉぉぉっ!」

「あ、気に入ってくれたみたいで良かった」

 私が鼻を抑えながら荒ぶっても私の奇行になれているお義兄ちゃんはニコニコとスルーしてくれる。
 お義父さんと一緒に会食に行ったりするお義兄ちゃんはスーツもたまに着ているけど、初めて見る新しいスーツは新鮮で、イイ。推しの新規スチルは、何枚あっても、イイ。

「はぁぁぁんっ、最高! 最高だよっおにぃちゃんっ! おにぃちゃんは今日も世界一、ううん、宇宙一カッコいいよ!」

「七海ちゃんがそう言ってくれる外見に生まれて良かったよ。ところで七海ちゃん、クライヴェル推しに眼鏡かけたくない?」

「かけたい!」

 シュバッ! と挙手をしてアラベスク柄のカーペットの上を小走りにお義兄ちゃんの元へ近づく。
 自分の顔に私が弱いことを知り尽くしてるお義兄ちゃんは、よくこうしてファンサしてくれるのだ。

「届かないから屈んでおにぃちゃん」

「ん」

 眼鏡を私に渡して睫毛を伏せたお義兄ちゃんの綺麗な顔が近づく。顔だけ見ると女性か男性かわからないほど中性的な美貌のお義兄ちゃんの睫毛は、何も塗ってなくても羨ましいくらい長い。

(ち、近い……っ)

 買い物中に手を繋いだり腕を組んだりするのが当たり前な私たちだけど、いつもは前髪で隠れてるおでこがよく見えるこの髪型はなんだか心臓に悪い気がする。

「……できたよ、おにぃちゃん」

 お義兄ちゃんの高い鼻にノーズパッドを乗せて声をかけると、レンズ越しの切れ長の瞳に紅潮した私の顔が映った。

「……ほっぺ赤いね。空調、暑かった?」

 ツッ……と温度の低い指先が頬を撫でる。

「おにぃちゃんがカッコよ過ぎてテンション上がっちゃっただけ」

 甘えるように手のひらに顔を押し付けるとお義兄ちゃんの体温が気持ち良かった。

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